第13話 延長希望です
「ふっ! 客と言うからどんな物かと思えば……はっ!」
「「くっ!」」
「ヒロ殿、ウララ嬢、頼みますから……どうか、どうか……」
いきなり部屋に現れた宰相が、俺と先輩を一瞥するなり鼻で笑われてしまい思わずカッとなる。
確かに俺はモブ顔だが、初対面の初老の男性に鼻で笑われるほどヒドくはないだろ。
それに先輩も……まあ、美人かと言われればクエスチョンだが、嫌いな顔ではないし、ブサイクと言われるほどでもない。
俺の好みにドストライクなのは間違いないのだが、そんな先輩まで一緒くたになじられて気分を害さない方が難しいだろう。
確かに目の前の宰相は長身でスラッとしていてモデル体型の小顔だ。
しかも顔はどことなく渡部篤郎そっくりのイケオジだ。
「ハァ~」と嘆息してから、腕を組み面白くなさそうな顔をしている宰相の顔と俺を拝んでいる困り顔の伯爵が目に入ると、大きく深呼吸をしてから今にも飛び掛かりそうな雰囲気の先輩の手を握る。
「え? ヒロ、どうしたの? ちょっと、待って……今は……ダメ……」
「え?」
「え? じゃあ、何?」
「何って、ウララが飛び掛かろうとしていたのを止めているだけで特に何って訳じゃ……」
「えぇ~」
「ふん! 何か私に言いたいことでも?」
「大ありよ!」
「ウララ!」
「ウララ嬢!」
俺がなんとかしようとしているのを無視して先輩が安い挑発にノってしまい、伯爵の顔も青くなる。
「ウララ、ちょっと落ち着いて」
「落ち着いているわよ! だから、そこのオヤジを一発張らせてちょうだい!」
「だから、そんなこと許せる訳ないでしょ」
「いいの! 私が許すから!」
「あぁ~ウララ」
「何よ!」
「確かにあのオジさんは俺達の容姿をバカにしました」
「そうよ! バカにしたのよ。私だけじゃなくヒロまで! ヒロは……ヒロだからいいのに!」
「え?」
「あ……ナシ! 今のはナシで」
「まあ、俺もウララはドストライクですから」
「え?」
「あ、俺のもナシでお願いします」
「ダメ! もう一回言って! あ、ちょっと待って録音するから、はい、どうぞ」
「言わないから!」
「なんでよ!」
「ウララ、回りを見て下さい」
「回り? あ!」
「コホン……」
先輩がポロッと俺のことを好ましく思ってくれているのかなって感じのことを言うもんだから、俺までポロッと漏らしてしまえば、先輩はそれを聞き逃してくれずにスマホを取り出し録音を開始すると俺の顔にスマホをグリグリと押し付けてくる。
俺は先輩のムチャブリをなんとか宥めて、回りの視線に気付かせれば先輩もそれに気付き、伯爵も空咳をする。
「ジャミア伯爵、卿の言う王都に無用な混乱を避けるためと言うのは、この客のご令嬢の見た目に関係すると言うが、私にはどうも分からない。今一度、説明してもらえないだろうか」
「あ……」
「ちょっと、失礼過ぎグハッ」
「いいから、ちょっと黙ってましょうね」
宰相の言葉にまたカチンと来たのか、食って掛かろうとした先輩の口を慌てて塞ぐ。
だけど、このままやられっ放しというのも面白くないので「セツ、オジーに馬車を用意してもらって」と言付ければ、セツも『ピィ!』と鳴いて返事すると共に触手で敬礼して見せる。
そして、伯爵に断りを入れてから奥様を連れて来てもらうようにユリアに言付ける。
宰相は腕組みをしたまま、「とにかくこれ以上、待つのは無意味だ。お前達もさっさと馬車に乗れ」と言ってくるので、俺は「慌てなくてもいいですよ」と返せば宰相の#顳&x986C;の青筋が浮かぶ。
「ハァ~これだから……客だからと多少の戯れ言は許すつもりでいたが、お前はここから王都まで、どれくらいの期間を要すると思っているんだ。いいか、一時間や二時間じゃないんだ。ここでこうやってお前達と相対している時間すら勿体ないんだ。分かったのなら『ピピィ!』「あ、ちょっと待って下さい」……おい、まだ私の……なんだ、それは?」
まだ、何か言い足りなさそうな宰相の話を止めると、俺はセツとやり取りを済ませる。
「あ、済みませんが宰相のお付きの人は……」
「あ、私です」
「じゃ、ちょっと一緒にいいですか?」
「え?」
「いい、許可する」
「あ、はい……では……え?」
「「「……」」」
俺の肩に乗っているセツに初めて目が行ったのか、宰相がセツを見て不思議そうな顔をする。
俺はオジーと会うのに宰相のお付きの人に付き合って貰い、その場で転移する。
「はい、着きました。オジー、いきなりゴメンね」
「いえ、それは構いません。ですが、驚きましたよ」
「ん?」
「いえね。ぷぅがいきなり馬車の形になるもんですから、もう驚くのなんの。ホントに器用で可愛いですよね」
「へぇ、セツ凄いね」
『ピピィ!』
『ぷぅ!』
「あの……ここは……」
「「あ!」」
お付きの人を置いてけぼりにしてしまったことを思い出し、ここが王都に近い場所であることを説明すれば「ウソだ!」と言われてしまう。
「オジー」
「分かりました。すみませんが、こちらへ」
「な、何をするつもりですか!」
「いいですから、こちらから何が見えるか確認して頂けますか」
「何って……王城でしょ。そんなの珍しくも何も……へ?」
「お分かり頂けた様ですね」
「そんな……いや、でも……あれは確かに……」
「じゃ、分かって頂けた様なので戻りましょうか。あ、オジー、ちょっとうるさいオジさんを連れて来るから、もう少しだけ待っててね」
「分かりました。お待ちしております」
「ありがと。じゃ!」
「え、ちょ……」
お付きの人が何か言いたそうだったが、有無を言わせずに元いた部屋へと戻れば「貴様、何をした!」といきなり怒鳴られてしまった。
「もう、いきなり怒鳴らないで下さいよ。別に何もしてないでしょ。ねぇ」
「あ、はい……あ、いや……ん? されたのでしょうか?」
「もう、いい! それで茶番が終わったのなら、さっさと支度するんだ!」
「ですから、それは不要です。帰るのは宰相様だけですから」
「ん? それはどういう意味だ?」
俺はお付きの人に帰るのは宰相と一緒に来た方々だけですと言い、お付きの人にそういう訳ですから、他の人には帰って貰うように言付けを頼む。
そしてお付きの人が言伝を終わらせてから戻って来る前にユリアに頼んでいたことを確認し呼んでもらった奥様に出て貰う。
「ヒロ様、ここに一週間分程度ですが、用意させましたが……」
「ありがとうございます。では、使い方もお願いしていいですか?」
「それならば、ここに……」
「はい、ありがとうございます」
奥様から小分けされたコスメ一式と使い方が書かれた紙と一緒に布袋の中に収納しお付きの人に渡す。
「失礼ですが、宰相様には奥様、若しくはご息女は……」
「妻は王都の屋敷だ。娘もそこにいる。それがどうした?」
「よかった。お土産が無駄にならなくて……」
「だから、それがどうしたと言うのだ!」
「ですから、伯爵が説明しても奥様やウララを見ても分からないのであれば、ご自分のご家族に試してもらうしかないと思いまして、お土産として用意させてもらいました」
お付きの人に渡した布袋を指差し「そういう訳ですので、無用な混乱を避ける為にも今暫く時間を戴きたいと思います。よろしいですね」
「くっ……だが、私が戻るまで一月近くはあるぞ。その間にこの土産の有用性をどうやって証明するつもりだ!」
「それは……こうやってです」
お付きの人に頷いて見せれば、お付きの人は布袋を大事そうに抱えながら、俺の側まで来ると「失礼します」と言って、宰相と俺にしっかりと腕を回したのを確認してからオジーの待つ場所へと転移する。
「あ……」
「着きましたよ」
「お待ちしておりました。宰相様、馬車を用意しておりますのでこちらへどうぞ」
「へ? どうして……あ? ここは……マジか!」
「マジです」




