第12話 ちょっと失礼だと思います
「どうしたのヒロ?」
「あ、いや……なんというか……その……出来たっぽい……です」
「マジ?」
「マジみたいです」
俺が間の抜けた様子で「マジか」と呟けば、先輩がどうしたのかと聞いてくるので、言っていいものかどうなのかと逡巡しながらも通販が出来たことを話す。
「え! じゃあ、アレとコレと「ちょ、ちょっと待って下さい!」……もう、何? だって、早くしないといつ使えなくなるか分からないでしょ!」
「ま、そうかもしれませんね」
「じゃ「だから、ちょっと待って下さい!」……もう、何?」
「一応、念の為に聞きますが何を買わせるつもりですか?」
「そりゃ、女子の生活必需品とか?」
「はぁ~では、念の為に聞きますが、その中にサニタリー的な物は含まれますか?」
「きゃ! セクハラだぁ! おまわりさ~ん!」
「……ちなみに逆セクハラとも言えますよ」
「え? そうなの?」
「そうです。ウララは俺に……その……生理用品をコンビニでと買って来いと言っているのと同じです」
「またまたぁ~ちょっとポチるだけなのに大袈裟よ……え、マジ?」
「マジです」
「え?」
先輩は通販が使えたと俺からの報告を聞くなり、俺のスマホを奪い取りアレもコレもと買い物かごに放り込んでいたのを慌てて止めさせスマホを取り上げる。
そして、買い物かごの中味をチラッと見てから改めて先輩に確認すれば、思った通りに女子に必要なアレコレを買おうとしていたらしい。
だが、ちょっと待って欲しい。そうやって買ってしまったら、今度は「オススメ商品」として俺のアカウントに生理用品が並ぶことになるので、それだけは止めて欲しいとお願いするが、イマイチ分かってなかったようなので膝をつき合わせて説明する。
「そういう訳なので、ご自分のスマホでお願いします」
「どうやって?」
「さあ?」
「さあって、ちょっと冷たくない?」
「やってみないと分からないじゃないですか」
「そりゃ、そうだけど……でも、お届け先になんて入力すれば……」
「とりあえず、やってみてはどうですか?」
「……地味に仕返しされてる?」
「さぁ?」
「もう、分かったわよ!」
先輩の言うようにちょっとした意趣返しのつもりもあるが、これで上手くいってくれれば俺も助かるのでどうか、成功して欲しい。
「もう、ダメ! 全然、決済に進まないわよ!」
「どこで引っ掛かるんですか?」
「受け取り先よ。もちろん、自宅住所なんてムリだろうから、色々試してみたわよ。さっき、ヒロがやったように『自分』って入れてもダメだったわ」
「そうですか……じゃあ、俺の名前は試してみました?」
「え?」
「いや、だからですね。『自分』が通ったのなら、同じ様に俺の名前『空田広志』でもいけるんじゃないかと思ったんですけど……聞いてます?」
「き、聞いてるわよ! で、でも、そうなると……私とヒロが一緒に住んでるってバレるんじゃないのかな……って」
「ん? 一緒に住んでるじゃないですか」
「ち、違うわよ! 一つ屋根の下って意味じゃないわよ。同居じゃなくて同棲しているって思われるかもってことよ」
「なんだ。そんなことですか」
「そんなことって……ヒロはそれでもいいの?」
「いいも何も、こんな所からじゃどうやっても説明することなんて出来ないから、しょうがないですよ」
「くっ……そんな一言で……もういい! 分かったわよ。私は忠告したからね……えいっ! あ、通っちゃった……」
『ピロピロリーン』
「届きましたね」
「見ちゃダメ!」
「見ませんよ。っていうか段ボールだし……」
インベントリ内に先輩が注文したであろう物が届いた通知音がしたので、見ることはしないが、後々の為にと複製してから先輩に渡す。
「わぁ! 本当にアマゾンの箱だ……」
「カードの更新が切れるまでは使えると思いますけど……」
「そうよね。支払い出来ないってなると向こうで問題になるわよね」
「そうならないように、当分は控えましょう」
「え?」
「え?」
「使える内に使った方がいいんじゃないの?」
「そうとも言えますが、失踪した二人が好き勝手に通販していると分かれば、世間を騒がせると思いませんか?」
「そうかも知れないけど、どうしようも出来ないんじゃないの」
「ですが、残された家族に迷惑は掛けたくないので……」
「あぁ~それもそうね。分かったわ……どうしても欲しい物だけにするわ」
「はい、それでお願いします。それで、ググるのはいいんですか?」
「あ……」
久々の通販に興奮気味だった先輩にシャンプーや石鹸で行き詰まっている材料とかの製造工程や色んなコトをググって一つずつスクショを撮りながら作業を進める。
「……と、これで大丈夫だと思うんだけど、まだ部屋から出ちゃダメなのかな?」
「どうでしょう。オジーは王都に戻ったし……ユリアに確認してみますか」
「うん、お願い」
俺が卓上ベルをチリリンと鳴らせば、「お呼びでしょうか」とユリアが扉から顔を覗かせる。
「ねえ、まだ軟禁されてないとダメなのかな?」
「確認して参りますので、少々お待ち下さい」
「あ、それともし難しそうなら、奥様か製造に関わっている人を呼んで欲しいんだ。お願いね」
「分かりました。私も早く使いたいので……」
ユリアはお辞儀しながら先輩の方を一瞥してから部屋から出て行った。
「もしかしなくても睨まれた?」
「ですね」
「え、意味分かんないんですけど?」
「今、この御屋敷で好き放題に使っているのは先輩と奥様だけですからね。ちょっとは羨んでもしょうがないでしょ」
「う~私のせいじゃないのに……」
「なら、全部出します?」
「それしちゃうとヒロが困るんでしょ」
「まあ、そうかも知れませんね」
「なら、しない! 頑張ってググって作って見せるわ! こうなりゃ目指せ、コスメ女王よ!」
「いや、別にそこを目指さなくても」
「なるつもりがなくてもそこに押し上げられそうな予感がするのよ」
「あぁ~」
先輩とそんなやり取りをしていると扉がノックされ、ユリアが扉を開けると奥様と一緒に入ってくる。
「ウララ様、私に何か報告があるとお聞きしましたけど、なんでしょうか」
「あの、実は細かい成分表が分かっ「マジですか!」たと言いますか……マジです」
「では、急ぎましょう! さあ!」
「あ、あの……奥様……私達は……その……」
「あ、そうでした。まったく早く帰ってくれればイイのですが……ハァ~」
「それは私のことかな?」
「ええ、そ……えぇ! さ、宰相様……どうしてこちらへ……」
「客本人がいるのかを確認しないまま屋敷を出れば私が陛下に叱責されるというもの……ほぉ、其方達が客であるか?」
「「はい」」
奥様がぼやいている時に扉が開き、伯爵の案内で見慣れない初老の男性が部屋に入ってきた。
この方が噂の宰相様だろうと想像に難くなく、その宰相の後ろで伯爵が申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせて俺達を拝んでいることから、立場的に断れずに案内してしまったのだろうと思う。
「平凡だな」
「あ゛!」
「そして、そちらの女性も……だな」
「あ゛ぁ!」
宰相が俺と先輩をつま先から頭の天辺まで視線を移動させた後の一言に俺も先輩も出してはいけない声が出てしまっていた。
「ヒロ殿ぉ~ウララ嬢~頼むから……」
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