第2話 第二客(まれびと)発見
時間は先輩と再会する少し前に戻る。
俺が領都に移動してから一ヶ月が過ぎ、そろそろ王都に向かう準備をとなったけど、俺には馬車での移動は拷問にしか思えない。
村から領都へ移動しただけでも、お尻が四つに割れるんじゃないかと思えるくらいだったのにほぼ一月近くの移動なんて拷問だろ。
なので、俺は伯爵に移動は自分でするからと馬車での移動は丁重にお断りして、オジーを案内係に王都まで短距離転移を繰り返し王都近くの雑木林に目印を設定し領都へと戻る。
そして更に一ヶ月が経ち、そろそろ王都へと行かないとマズいよと伯爵に言われ、数日中に向かいますとだけ返事すれば「もう、お触れは出しているんだからドタキャンは困るよ」と釘を刺される。
「やっぱり、行かないとダメなんだね。あ~メンドクサイ……」
「ヒロ様、行かないつもりですか?」
「いや、そうじゃないけど……なんかね……気乗りしないと言うか……ねぇ」
「ハァ~ヒロ様。頼みますよぉ。旦那様も言われてましたが、既に陛下には客様を送り出すことは書簡にてお伝えしております。その上で『やっぱ、行かない』とドタキャンされますと……」
「もしかして、かなりヤバイ?」
「はい。この領都と言うよりは、旦那様が責任を負うことになり爵位剥奪に領は接収され、トリリア村の住民もどうなるか……」
「そこまでするの?」
「恐らくですが……」
「分かったよ。じゃあ、明日。明日、向かうからさ、その前に一度元の場所に行ってみてもいい?」
「元の場所?」
「うん。俺がここに来た時の最初の場所に行ってみたいんだ」
「分かりました」
「じゃ、さっそ「お待ち下さい」くってオジー何?」
「私も同行しますので」
「えぇ~別に面白くもないし、俺も逃げたりしないからさ」
「いいえ。絶対に離しません!」
いくら口で「信用して」「逃げないから」と言ってもオジーは俺の腕を掴んで離さない。
「で、本心は?」
「もし、ヒロ様が逃げても私がヒロ様と一緒ならば罰を逃れられると思うので」
「うわぁ……忠義心の欠片もないよ」
「何を言ってるんですか。あるからこそ、こうして逃げられないようにお側を離れないんです」
「で、本心は?」
「自分だけでも助かりたいんです」
「……はぁ、分かったよ。じゃ、しっかり捕まっていてね。セツもね」
「はい!」
『ピ!』
そして、初めての地に転移したんだけど、やっぱり何もない場所だった。
オジーは「ちょっと回りを確認して来ます。絶対に逃げないで下さいよ!」と念を押して哨戒するべく俺から離れていく。
オジーが小さく見える位置まで離れた瞬間に背中にドンと誰かが当たってきた。
「きゃっ……あ、ごめんなさい。前を見てなくて……え?」
「あ、こちらこそすみません。ん?」
当たってきたのは女性のようで俺もいつものクセと言うか、瞬間的に謝罪の言葉を口にするがどこか聞き覚えのある声に訝しむ。
頭の中でそんなバカなとか、考えてみるが俺も知らない内に異世界に来たんだから、疑う理由もない。
恐る恐る背中を振り返れば、そこにはいつも俺の隣で笑っていた先輩の姿があった。
俺は先輩に間違いないと確信し「やっぱり、先輩じゃないですか!」と思わず叫んでしまったが先輩は俺がここにいることが信じられないと言った様子で何度も「空田なの?」と聞いて来た。
だから、俺は「そうです」と答えて先輩を落ち着かせると同時にどうして異世界に来たのかを確認せずにはいられなかった。
でも、その前にここはマズいからと先輩の荷物……大量の買い物袋をインベントリに収納してから、ここから離れると話すけど先輩はどうもピンと来てないらしい。
だから、遠くに見える五体ほどのゴブリンの集団を指して「アレが来るから」と話してもまだここが異世界だと認識出来ていない。
こちらに気付き襲うべく走り寄ってくるゴブリンは哨戒していたオジーによりあっさりと討伐されるが、背中に隠れていた先輩はそれを見ていない。
ここが異世界だと、日本ではないことを自覚して貰うために先輩にステータスを確認してもらうと先輩は、直ぐにその内容を確認した様で俺に見られないように背中で必死に隠そうとする。
「他人には見えませんから」と言うと安心した顔になるが……何が書かれていたのか凄く気になる。
セツがゴブリンを吸収し終わるとオジーと一緒にこちらへやって来る。
「ヒロ様、この女性は……」
「大丈夫だから、オジー警戒しないで」
「ですが……」
オジーは剣に手を掛けたまま先輩を警戒していたので「大丈夫だから」と警戒を解いて貰う。
「いいから、えっと紹介します。彼女は俺の先輩です。そして、客です」
「へ?」
「は、初めまして……私は清瀬麗と言います。空田とは同じ会社に所属していました」
「どうやら、ウソはないようですね」
「でしょ!」
「ですが……」
「え? 何か問題でも?」
「大ありです! 先ずは旦那様に報告しなければならないのと、陛下にも事情を説明しなければならないでしょう。それともう一つ……」
「まだ、何かあるの?」
「セシルとユリアにはどう説明なさるつもりですか」
「どうって……だって単なる先輩だよ? アイタッ! 先輩?」
腰の辺りに痛みを感じ、見ると先輩が機嫌悪そうに俺の腰を抓っていた。
「……私には関係ありませんので、ご自分で対処して下さい」
「え、オジー?」
「セシルとユリアって、女性の名前でしょ? ちゃんと説明してくれるのよね?」
「えっと……オジー!」
先輩はオジーが言った名前らしき単語から女性だと認識したみたいだけど、先輩がそれに対して不機嫌になる理由が分からずオジーに助けを求めるが無下に断られてしまう。
「知りません! それよりも早く御屋敷に帰りましょう」
「あ、うん……じゃあ、先輩。俺に捕まって下さいね」
「え? 空田に捕まるの?」
「はい、お願いします」
「こ、こうかな?」
「お嬢さん、もっと近くに。そして、ギュッと抱き着いて下さい」
「む、ムリだよ!」
領主の御屋敷に転移で帰る為には先輩にも俺に捕まって欲しいので、そうお願いするが照れがあるのか、少し遠慮気味に腕を掴んでいるがオジーが、そうじゃないと俺の正面に先輩を立たせると「もっと!」と言うが、それでも先輩は顔を赤くして俺の腕を掴むだけで精一杯の様子にオジーがキレる。
「あ~もう、焦れったい。とにかくこうギュッとして下さい」
「あ……」
正面から先輩に抱き着かれ「あ、懐かしい……いい匂い……」と先輩の頭頂部を見ながらクンクンしていると「そういうのは後で好きなだけすればよろしい」と言われ、慌てて御屋敷へと転移する。




