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突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます  作者: ももがぶ
第2章 新天地を求めて
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第1話 突然の再会

「はぁ~疲れた……鍵、鍵」


 バッグの中から部屋の鍵を取り出して鍵穴に入れて解錠してから自分でも買いすぎちゃったなと後悔してしまった大量の紙袋を持ち上げてから玄関扉を開け「ただいま」と誰もいない空間に向かって言えば「誰もいないってのに……」と自分でも淋しい気持ちになる。


「きゃっ……あ、ごめんなさい。前を見てなくて……え?」

「あ、こちらこそすみません。ん?」


 ん? あれ? 私はさっき玄関を開けて部屋に入ったハズだよね。


 そして私は淋しい一人暮らし……って、そこは置いといて……


 じゃあ、私は誰にぶつかったの?


 もしかして……


 いやいやいや、ウソでしょ。まさか、空き巣と鉢合わせしちゃったのかも……でも、さっきの声はそんな怖そうな雰囲気じゃなかったし。


 それにどこか聞き覚えがある声だった……


 しかも、つい最近まで私の隣の席から聞こえていた声だ。


 でも、その声の持ち主は……もう、日本(ここ)にはいない。


 まさか! と思いたい気持ちはあるが、まだ今まで経験したことのない状況から怖くて顔を上げられないけど、今の自分の目には信じられない物が見えていた。


「え、ちょっと待って……どういうこと?」とか思っていたら「やっぱり、先輩じゃないですか!」と先程の声の主が少しはしゃいだ声で私に話しかけてくる。


「え、先輩って言った?」

「先輩、聞こえてますか?」


 怖いけど、色々確かめないといけない! と、覚悟を決めて顔を上げれば、そこには異世界へ旅立ったと噂されていた会社の後輩『空田広志』が、いつも隣の席でのほほんとしていた時と変わらない顔だけど、どこか心配そうに見ていた。


「そ、空田……なの?」

「はい、そうですよ先輩。あ、でもこんな格好じゃ分からないかな」

「あ……」


 プライベートの格好を知っている訳じゃないけど、今目の前にいる後輩……空田はいつもの見慣れたスーツ姿ではなくて、どことなくラフな感じの服装だった。


「空田……ホントに空田なの?」

「はい、そうですよ。先輩の後輩でいつも叱られていた空田広志二十三歳です」

「ホントに空田なの?」

「だから、そうですって」

「だって、空田は異世界に……って、あれ?」

「はい、異世界へようこそ。先輩」

「えぇ~!!!」


 薄々そうじゃないのかなと思っていた。


 だって、下を見たら見慣れた玄関タイルではなく踝が埋まるくらいの雑草が生えているのが目に入っていたから。


「先輩? 大丈夫ですか?」

「だいじょばない……」

「え~と、取り敢えず荷物は俺が預かりますね。それと、そろそろここから移動しないとマズい感じになってきたので」

「え……マズいって何がマズいの?」

「それはですね……アレ、分かりますか?」

「どれ?」

「アレです。アレ」

「え?」


 空田は私の荷物を手に持ったかと思うと、その荷物はどこかに消え、続けて空田はここはマズいと言ってきた。


 私はここに来たばかりだしマズいと言われても何がマズいのかは分からない。


 だから、空田になんのことなのかと聞けば、空田は少し離れた位置を指差して「アレです」と言うけれど私には何がマズいのかハッキリとは分からない。


 空田も少し苛立った様に「アレですよ」と指を差した方向を見ると四,五人ほどの小さな子供が見えた。


 あれの何がマズいんだろうかと不思議に思っていたら、その子供がこっちに走って来るのが分かった。


「空田、あれ子供でしょ? 何がマズいの?」

「先輩、よく見て下さい。ほら、あれは人じゃなくてゴブリンですから」

「え? ゴブリンって……あのゴブリンなの?」

「どのゴブリンかは分かりませんけど俺が知っているのは、あのゴブリンだけです。よく見て下さい。もう肉眼でもハッキリと見えるでしょ」

「あ!」


 空田が言うように手に何かを持ってこっちに走って来るのは、確かに人ではなかった。


 身体自体は子供みたいに背が低く、その体全身は緑色で口は耳の付け根位置まで避けている。


 身に着けているのは汚い腰布だけで、見ているだけで悪寒が走る。


 その一体と目が合うとニヤリと笑った気がして、思わず「空田!」と叫び、その背中に隠れると「大丈夫ですから」と言う。


「あれ? こんな感じだったかな」と空田の背中を見ると、会社では猫背気味だったその背中がなんだか広く大きく見える。


「なんだか頼もしい……うふふ」

「来ます!」

「あ、はい!」


 空田の言葉に空田のシャツをギュッと掴み目を閉じる。


「ヒロ様、もう大丈夫です。セツ殿、後を頼みます」

『ピィ!』

「え? 何? なんの鳴き声?」

「あ、紹介してませんでしたね。セツ、掃除しに行く前にちょっといいかな」

『ピ?』

「先輩、これが異世界(こっち)での初めての俺の相棒でセツと言います」

『ピピ!』

「え? もしかして敬礼しているの? うふふ、可愛い……よろしくね」

『ピィ!』


 背中から見上げた先にプルンとした半透明の何かが空田の肩の上でプルプル揺れながら、触手みたいな物を伸ばして私に向けて振っているのがなんとも可愛らしい。


 セツと紹介された謎の生き物は空田の肩から飛び出すと、さっき聞こえてきたもう一人の声の方へとぴょんぴょんと跳ねていった。


「ねえ、空田。あの人は誰?」

「ん~なんて言うか、俺の見張り役兼従者?」

「見張り? 従者? え? どういうこと?」

「……そうですね。先輩も異世界(こちら)へ来た以上は(まれびと)として扱われるでしょうから、知っといた方がいいでしょ。実は……」

「え? ナニソレ……」


 空田が私達みたいに日本から異世界へと来てしまった(まれびと)について話してくれた。


 そして、私にも異世界特典が付与されているだろうから『ステータス』を確認してみてはと言われ、怖々と「ステータス」と呟くと「え?」と思わず目を覆いたくなる単語が目に入る。


 目の前に現れた半透明のボードには私の名前、性別、年齢の他にスリーサイズに体重、趣味嗜好まで書かれていた。


 そして、目に付いたのがユニークスキルと書かれた項目の横に『完全保護(パーフェクトガード)』と書かれていて、称号の項目には『鉄壁の処女』『妄想特急』とあった。


 思わず目の前の半透明のボードを空田に見られないように背中で慌てて隠すが、空田は笑いながら「他人には見えませんから」と言う。


 私は空田に見られなくてよかったと思いながら、ホントに異世界に来ちゃったんだなと実感してしまった。

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