第60話 伝説のセツ
「ふむ、まあいい。ヒロ殿とはこの後ゆっくりと二人の新婚生活について話をするとしてだ。議題はセツのことだったな。では、今から話すことをちゃんと聞いて欲しい。だが、これはあくまでも昔の話であって、必ずしもセツがそうなると確定した話ではないということを理解して欲しい」
「あの、その前にちょっといいですか?」
「なんだ、ケリー」
「さっきから、客って単語が聞こえるんですけど、それってどういうことなんですか? まさか、客がいるんですか!」
「ケリー、どうした。落ち着かないか」
「ギルマス、だって客がいるんでしょ。なら、会ってみたいじゃないですか! どこにいるんですか? オジー様が知っているんですか? もう、意地悪しないで教えて下さいよ。え?」
ケリーさんはさっきからギルマスがちょこちょこ発している『客』という単語が気になってしょうがないみたいで、ギルマスに対し「客に会いたい!」と切望すると、ギルマスとオジーが俺の顔を指差すので俺も申し訳なさそうにそっと右手を挙げれば、ケリーさんはギョッとした顔をする。
「え? ヒロ様が客なんですか? いや、でも伝え聞いた話ではこんな黒髪じゃなく明るい茶髪だと聞いていますよ。それに歳も未成年だったハズです。ウソですよね?」
「ウソかどうか客本人に聞いてみればいいだろ。な、ヒロ殿」
「えっと、なんか期待外れでゴメン。でも、何を持って客と証明すればいいか分からないけど、俺は日本から来ました」
「ニホン! 日本ってあの……日本なの!」
「どの日本かは分からないけど、俺は生粋の日本人ですよ。それに未成年ではなく二十三歳です」
「あ、ごめんなさい。別にそんなつもりで言った訳じゃなくてですね。ただ、今までの客様の殆どが茶髪に学校の制服姿だと聞いていたので……申し訳ありません」
「いえ、謝られることでもないので気にしないで下さい」
「ケリーも落ち着いたか?」
「はい、すみませんでした」
ケリーさんが期待していた客像から遠かった俺だけど、日本から来たのは確かだからしょうがないことだとケリーさんに俺が客だと申し訳なさそうに言うとケリーさんも自分が想像していたのと違うからと落胆してしまったことを謝ってくれた。でも、謝られるのもまたツライな。
「じゃあ、セツのことについて話すぞ」
「はい、お願いします」
「では話すぞ。改めて最初に言っておくが、これはセツに確定した話ではないということを理解して欲しい。いいか」
「はい、分かっています。続きをお願いします」
「ならば、心して聞いて欲しい。私も遠い昔に起きた話として聞いた話だということもな。では、話すぞ」
「はい!」
ギルマスは俺に対し噛み砕くようにゆっくりと話し始めたが、その内容は「ホントかよ」と疑いたくなったが、スライムの特性上有り得ない話ではないと頭から否定することは出来なかった。
その内容と言うのは、今から何百年も前に一つの大きな街が一匹のスライムに呑み込まれてしまい壊滅したというものだった。じゃあ、そのスライムはどうなったのか、なぜそのスライムとセツが関係するのかと疑問に思ったので、ギルマスに聞いてみたら「そう、焦るな」と注意され、大人しく話を聞けと言われた。
「まあ、その辺りもちゃんと話すから、待て」
「はぁ」
「その街一つを呑み込んだ巨大なスライムがどうなったのか。なんで種族が『エレメンタル・スライム』と分かったのかだったな」
「ええ、そうです。お願いします」
「ああ、まずどうなったかだが、分からないそうだ」
「え?」
「確かに巨大なスライムは存在したし、街一つが壊滅した。そして、そのスライムは一晩経ち、朝になるともうそこにはいなかったというのだ」
「消えた? それとも……」
「まあ、消えたとは考えられないし、話に聞くだけの大きさなら移動したとしても誰かが目にしてもおかしくないのだが、誰もその姿を見ていないと言う。なので、当時の人々は消えたのだろうと判断したようだ」
「えっと……じゃあ……」
「ああ、そうだな。もう一つの可能性としてはその巨体を小さくして普通のスライムのフリをしたのではないかというのも随分後になってから浮上してきた節の一つだ」
「それがセツなのかもしれない……と?」
「まあ、待て。まだ確定した訳でもないし、お前もセツがそうではないと思っているんだろ?」
「そりゃぁそうですよ。大体、元はトリリア村のトイレにいたスライムですからね」
「え?」
俺の発言を聞いて、セツに頬ずりしていたケリーさんが慌ててセツから離れる。
「あ、ちゃんと風呂にも入れたからキレイですよ」
「……信じますよ」
「こんなことウソ言ってもしょうがないでしょ」
「それもそうですね。ごめんね、セツちゃん」
『ピィ!』
ケリーさんは俺をジト目で見ていたが、俺がウソを言っていないと分かるとセツに謝り、セツも『気にするな』といった風に触手を振って見せる。
「で、もう一つ。なんで種族名が分かったかだが、街の残滓にスライムの体液が付着しており、それを鑑定士に見てもらった結果、そのスライムが『エレメンタル・スライム』だということが判明したのだ」
「え? それだけで? 本体を鑑定した訳じゃないの?」
「ふむ。ヒロ殿の疑問も分かるが、こっちの世界では街と街の間は結構離れている。これは分かるな」
「ええ、それくらいは……」
「だからな、街が襲われていると分かっても、助けを呼ぶにも助けに向かうにも数日単位だ。だから、目撃者はいないと思っていい。なので、結果的には『目撃者はいないが残滓から巨大スライムが街を壊滅させた』と伝えられているそうだ」
「じゃあ「だから、焦るなと言っている」……でも、誰も見ていないんでしょ。じゃあ、スライムがしたかどうかも分からないんですよね」
「まあ、そうだが……世間にはこの節が伝説として語り継がれている。だから、セツがもしエレメンタル・スライムだと世間にバレると面倒なことになるだろうな」
「分かりました。でも、セツはそんなことはしないと俺は信じます!」
「ああ、お前次第だろうさ」
「ん?」
俺はギルマスの言葉に少しだけ引っ掛かりを感じたのでどういうことかと聞いてみれば「分からないか?」と逆に問い返された。
ギルマスが言うにはセツには知性が感じられる。だから、もし俺が害される様なことがあれば、伝説の再来となる可能性が高いと言うのだ。
「セツ、そうなのか?」
『ピ?』
俺がセツを見て確認するが「なんのことなの?」と言った感じに体を揺らしている。
「さて、ヒロ殿とセツのギルド登録は完了したし、セツの種族に対するもしもの話もしたな」
「はい、そうですね。じゃ、これ「まあ待て」で……え?」
「まだ、大事な話が残っているだろうが!」
「え? 登録は終わったし、話は聞けたし……残ってませんよ。じゃ、オジー」
「はい、ではギルマス失礼する」
「だから、待てと言っている!」
「もう、なんですか?」
「……との話が残っているだろ!」
「え?」
俺はここでの用件は終わったとオジーを促し席を立とうとすれば、ギルマスからまだだと止められるが、俺の用事は終わったしと首を傾げればギルマスが何かを言っているのだが、肝心なところがモゴモゴと濁されよく聞こえなかったので聞き返してみれば「まだ、肝心な私との婚姻についての話が終わっていないだろ!」と責められてしまった。
「あ、その話なら辞退しますので、じゃ」
「いや待て! 『じゃ』じゃないだろ!」
「ん~でも『エルフとは婚姻すべからず』って祖母の遺言なので」
「あ~それなら仕方ないな……って、日本にエルフはいないだろ!」
「ちっ……ダメか」
ギルマスは俺にやたらと関係どころか入籍を迫ってくるのだが、いくら綺麗でも今日会ったばかりのAAAの年上の女性と一生を共にする気はない。せめてカップサイズが違っていれば即答していたかもしれないが、やっぱり無理だろう。
俺はギャンギャンとうるさいギルマスの一部分を注視することでギルマスを黙らせるがギルマスはパッと胸を手で抑えると「触ったクセに」とか「触り逃げ」「触り得」とよからぬ言葉を俺に投げ掛けるが、俺は「アレは無理矢理だからノーカンです」と告げれば、横で聞いていたケリーさんも「確かにそうですね」と頷き、ギルマスに向かって「法廷で争えば負けますよ」と言ったところで、ギルマスも「ぐぬぬ」と大人しくなったので、俺達は今度こそ、お暇しようと「じゃ」とだけ声を掛け退室する。
これで第一章を終わります。続きはネタを貯めてからになります。
ここまでの御拝読ありがとうございました。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
おもしろい!
続きはどうなの!
応援してあげてもよくてよ!
と、思ってくれた方。
恥ずかしがらずに下にある☆を★にしてみませんか?
★は★★★★★までありますから好きなだけどうぞ!




