第59話 まさか、そんなことが!
「ヒロ殿、さっきは取り乱してしまいすまなかった」
「いえ、それはいいんですけど……結局、スライムに対するイヤな思い出ってなんだったんですか?」
「ほぉ~そうかそうか、ヒロ殿は私のことが気になってしょうがないか」
「じゃ、いいです」
「おい、それはないだろ……もう少し興味をもってくれないか」
「結構です。で、手続きは?」
「はい、終わりました。これで本登録は完了です。セツちゃんもはい!」
「どうも」
『ピ!』
俺とセツはケリーさんからギルドカードを受け取り、一応は確認するが正直何がどう変わったのかが分からず戸惑っているとケリーさんがくすっと笑いながら「違いはですね」と教えてくれたが、ホントに間違い探しのレベルだった。
「ほら、ここ。分かりますか?」
「え?」
「ここですよ。ここ、ほら! 小さくあるでしょ」
「へ?」
「もう、ホントに分からないんですか。よく見て下さい。ここですよ、ここ」
「え~っと……あ!」
「ふふふ、やっと分かってもらえたみたいですね」
「ええ。ですが、これだけならトリリア村でもよかった様な……」
「あそこは出張所ですから」
ケリーさんは俺の隣に座ると、『ギルドカード(仮)』を出し、さっき俺に渡したギルドカードを横に並べて指を差すのだが、俺には何が違うのか分からないまま、ケリーさんの指先をジッと見ていたがダメだった。なので、ケリーさんは「しょうがないですね」といった感じで今度は分かり易くここだと教えてくれた箇所を注視すると確かにそこには「(仮)」の文字があった。で、本登録されたギルドカードとの違いは、ホントにそこだけだったので俺は仮の意味があるのかと言えば、トリリア村のギルドはあくまでも出張所だからだと答えなのかどうか微妙な感じだ。
「おい、聞いてくれよ!」
「なんですか、ギルマス。もう誰もギルマスの思い出には興味がないと分かったでしょ。それにセツちゃんもこんなに可愛らしいじゃないですか。どうせ、ギルマスが遭ったスライムは、あの吐瀉物みたいなヤツでしょ。そりゃ、私もそんなのしか知りませんけど、セツちゃんとはこんなに見た目から違うじゃないですか。ねえ、セツちゃん!」
『ピィ!』
「ほら、見ました? 聞きました? 普通のスライムなら、こんな丸っこいフォルムじゃないし、鳴かないし手を振り返したりしないでしょ。ねえ、セツちゃん!」
『ピピピィ!』
「私、こんなに可愛いスライム初めて見ました! って、今更ですけどスライムでいいんですよね?」
「えっと……」
ケリーさんはギルマスの思い出なんかより、可愛いセツちゃんを認めた方が楽だとばかりにギルマスにプロモーションを仕掛けるが、ギルマスの反応は芳しくない。ケリーさんはいつのまにかセツと簡単なコミュニケーションは問題なく行える様になったみたいだ。そして、ケリーさんは気付いてはいけないことに気付いてしまったみたいだ。それはセツの正体についてだ。
確かに話を聞く限りではスライムと言えば、日本の繁華街でよく見かけたモノによく似ているらしい。だけど、セツはこんな丸っこいフォルムでプルプルとしている。だけど、種族名を言ったらどこかに連れ去られたりしそうで、なんとなく話せないでいた。
「ヒロ様、私もセツの正体については少々気になっておりました。よろしければ、教えて頂けないでしょうか。幸いにもと言いますか、ここはギルド内で今は目の前にギルドマスターもいるので、ここでの話が外部に漏れる可能性は相当低いと思われます」
「そうですね。私もセツちゃんのこと知りたいです! ギルマス、ギルマスはどうなんですか? ほら、こんなに可愛いんですよ。ほら!」
『ピィ!』
「……」
オジーに思い切ってセツの正体を話してみてはと言われ、ケリーさんもそれを後押ししてくる。ケリーさんは右手にセツを載せ、ギルマスにセツの可愛さをアピールするが、ギルマスはちょっと苦手そうに顔を背ける。
「ホントに秘密にしてもらえます?」
「はい、絶対に口外しません! ね、ギルマス!」
「あ、ああ。これでも私はギルドマスターだ。ギルドメンバーのことを口外することはない。安心して欲しい」
「私はヒロ様の従者ですから。ヒロ様の意に反することは致しませんから」
「オジー……分かったよ。じゃあ、言います。セツの種族名は『エレメンタル・スライム』です」
「「「え?」」」
「いやいやいや、『え?』ってなんですか。俺は正直に言ってますよ」
「ヒロ殿、気を悪くしないで聞いて欲しい」
「はい?」
俺が意を決してセツの種族名を言ったのにも関わらず三人の反応がイマイチだったので、聞き取れなかったのかと思い、ちょっとギルマスに強めに言うとギルマスはふぅと嘆息しながら、俺に話を聞いて欲しいと言う。
「ギルマス、セツに何か問題でもあったんですか?」
「いや、そうではない」
「ギルマス、ちゃんと言った方がいいですよ。後で何かあったら困るのはヒロ様なんですから」
「ギルマス、俺からも頼む。ヒロ様にちゃんと話してくれ」
「お前達、私に押し付けるのか!」
「「だって、ギルマスでしょ」」
「ちっ……」
ギルマス達のちょっとした言い合いの様子から、これは良くない話だなと少しだけ身構えて姿勢を正してからギルマスに「お願いします! 話して下さい」と頭を下げる。
「ヒロ殿、頭を上げてくれ。旦那になるヒロ殿にそうやって頭を下げられると困るじゃないか」
「ギルマス、少し気が早すぎます。焦りすぎるとまた失敗しますよ」
「いや、ヒロ殿は私を泣かせたのだぞ。十分、責任問題だろ!」
「そんなこと言っていたら、そこら中の男女が夫婦になっちゃいますよ」
「だが、私の里ではな「はい、ストップ!」……言わせてくれよ」
「いいえ。ここはギルマスがいたエルフの里ではありません。そんな非常識はすぐに忘れて下さい。いいですね?」
「あ、ああ分かった」
「そんなことより、話をお願いします」
「ケリー、ヒロ殿に私との将来の夫婦生活をそんなことだと言われたぞ」
「じゃあ、いいじゃないですか。そんな男とは縁を切っちゃいましょう」
「いや、それはダメだろ」
「すみません、話が進まないので妄想はその辺りで止めてもらって話の続きを」
「なんだ。ヒロ殿は私との新婚生活を夢見たりしないのか?」
「今日会ったばかりなのにあるわけないでしょ!」
「……そうなのか。男女間でギャップがあると長続きしないと言うし、ここは私の方から歩み寄るしかないか」
「ケリーさ~ん、話がちっとも進まないんですけどぉ!」
「分かりました。はいはい、ギルマス。その話は後で二人っきりになった時に十分にして下さい。今はヒロ様にセツちゃんのことをちゃんと話してあげて下さい」
「むぅ……ケリーがそういうならガマンしよう」
ギルマスの妄想話が尽きそうにないので、ケリーさんにお願いしてギルマスに正気に戻ってもらい、やっと話が聞けそうだ。
「セツ、お前はセツ以外の何者でもないからな。何があっても俺が守るからな」
『ピィ!』
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