第57話 そういう証明方法はちょっと……
「失礼します」
「すまないな。それと、そこのヒロ殿のギルドへの本登録と、そこのスライムでいいのかな? の従魔登録に必要な書類を持って来てくれ」
「はい、分かりました」
ギルマスを含め、三人分のお茶をトレイに載せて持って来たケリーさんにギルマスが、俺とセツの手続きに必要な書類を頼むとケリーさんは了承して部屋を出る。
「なんだい。まだ何か気になることでも?」
「あ、いえ」
「ふふふ、では私が代りに答えてみようじゃないか。そうだな、客であるヒロ殿が気にしているのは私とオジーの関係だろ。当たったかな?」
「いえ、全然。そんなことじゃないです。それにオジーの色恋には興味ないんで」
俺はギルマスの質問に顔の前で手を振り、そんなことには興味がないと答えれば、ギルマスは右手で顎を擦りながら「ハズレたか」と思案顔になる。そして「ならば、さっきからずっと私を観察するかのように見ているのはどうしてなのか、説明してもらえるかな」と聞かれてしまう。
「気を悪くされたらすみません」
「いや、謝らなくてもいい。それよりは理由を教えて欲しい」
「……怒らないで下さいね」
「ああ、これでも部下には優しい上司として慕われている。心配するな。さあ、言ってくれ。私の何が気になるんだ?」
「では、伺います」
「ああ、聞かせてくれ」
「コホン、どっちなんですか?」
「は?」
俺がギルマスをジッと観察していたのを咎められるかと思ったが、エルフという種族であるため、好奇の目に晒されるのは慣れているのだろう。だけど、俺からの視線はそれとは違うものに思えたようで、観察していた理由を聞かれたので怒らないという約束を信じて「どっちなん?」と聞いてみたが、当のギルマスは何を聞かれたのか分からずにキョトンとしている。
「ヒロ殿よ。一応、聞くが一体何がどっちなんだ?」
「あ、いえ。ですから、ギルマスの性別はどちらなのかと気になりまして。確かに見た目の美しさは理解しているつもりですが、その……男性と言われればそう見えますし、女性と言われても疑うことは出来ません。なので、どちらなのかなとずっと気になって、見ていました。すみません」
「あぁ~そういうことか。オジー、笑ってないでお前はどう思っているんだ?」
「くくくっあ、いえ。すみませんね。ですが……ぷっ……」
「相変わらず失礼なヤツだな。で、どっちか知りたいってことだったな」
「はい!」
ギルマスは俺の質問に怒ることはなかったが、オジーはどこかツボに入ったらしくさっきからお腹を抱えて笑っている。そんなオジーをギルマスは冷めた目で見ている。そして俺の質問を確認してから、俺の顔をジッと見詰める。
「ヒロ殿は先程の私とオジーの関係を問うたことについてはヒントにはならなかったのかな?」
「ん~ならないですね」
「それはどうしてかな?」
「いや、だってそういう人もいますから。それにギルマスほど綺麗な人なら、同姓であったとしても好意をもたれるでしょうから」
「ほぉ~おい、オジーよ聞いたか?」
「は……はい、聞いてますよ……ぷっ」
「まだ、ツボに入ったままか。で、君は私がどっちなら嬉しいと思うのかな?」
「え?」
「だから、君の希望を聞いている。さあ、君はどっちなんだい?」
「俺は……」
「俺は?」
「俺は……出来ればCよりのBが好きです!」
「ん? それはどういう意味だ?」
「ブッハハハ……も、もうダメ! ハッハッハァ~ く、苦しい……」
「笑いすぎだオジー。ったく失礼なヤツだな。で、その言葉の意味することはなんだい?」
「……怒るだろうから言いません!」
「おい!」
ギルマスはオジーとの関係を匂わせたことで分かるだろと言ってきたが、世の中にはそういう人種もいるからと返せば、今度は逆に俺に対してどっちの性別が望ましいかと聞いて来たので、俺は貧乳ではなく手の平サイズが好きだと答えれば、またオジーの笑いのツボを刺激してしまったらしく呼吸困難一歩手前まで陥ってしまっている。だけど、ギルマスはオジーが笑っている理由が分からず直接俺に確認してくるが、俺は絶対に怒られると感じて口を閉ざす。
「失礼します。書類をお持ちしました。オジー様! 大丈夫ですか! オジー様!」
「オジーは放っておけ」
「ですが……」
「いいと言っている。単なる笑い上戸からの呼吸困難だ。だから、気にすることはない」
「オジー様が呼吸困難になるほど……ですか」
「ああ、そうだ。だから、気にするな」
「いえ、逆に何がそこまでオジー様を笑わせたのか、気になります!」
「そうか。ならば、話そう。だが、ここでの話は他言無用だぞ」
「はい、分かりました。で、なんなんですか?」
「実はな……」
オジーの様子を見て、その原因となったことに興味を持ったケリーさんは、それを聞くまでは動きません! と、ギルマスに詰め寄る。そんなケリーさんにギルマスも嘆息しながら他言無用を約束させ、さっき俺が言ったことをそのまま話せば、今度はケリーさんがお腹と口を抑え目に涙を溜めながらなんとか笑いを堪えているようだったが、俺に親指をグッと立てると堰を切ったように大声で笑い出す。
「ブッハハハ……も、もうダメ! ガマン出来ない! ナイスですよ、お兄さん! ぶっ!」
「おい、ケリーよ。いいから、私にもお前やオジーが笑っている理由を教えろ!
「し、知りたい……ですか? ぷっ」
「いいから、教えろ!」
「あ……漏れそう! ダメ、なんて……」
「おい、ケリー!」
ケリーさんは笑いすぎて全身の筋肉が弛緩した様でお年頃の女性が口にしてはいけないことを口にする。だけど、その様子が逆にギルマスの感情を逆撫でしてしまったようで興奮気味だ。
「はっはっふぅ~分かりました。教えましょう。ですが、言っておきますけど言ったのは私じゃなくそこに座ってとんでもないことを言ってしまったとガクブルしているお客様だということを忘れずに」
「そんなことは分かっている! だから、早くその理由を教えろ!」
「教えろ?」
「……教えて下さい。お願いします!」
「ふふふ、分かりました。お教えしましょう。実はですね……」
ギルマスの気迫に圧されケリーさんは話すことにしたようだけど、その前にギルマスの言葉にケリーさんは立場の違いを分からせてギルマスが懇願するのを見て、気持ち良さそうに話し出す。
「……と、言う訳です。あ、お客様。因みに私はE寄りのDですけど、如何ですか?」
「は、はい。大変、結構なモノをお持ちで」
「ふふふ、ありがとうございます。ですが、私は誰のモノでもありませんので、お触りは出来ませんから、悪しからず。えっと、ギルマス?」
「……ない!」
「え? どうしましたか?」
「納得出来ない! と言っているんだ! 何故だ! 私にもちゃんとあるだろ! なあ、あるだろ? あると言ってくれよ、ケリー!」
「ん~かなり無理があるかと思いますけど?」
「そんなぁ~」
ケリーさんから話を聞いたギルマスは見た目で分かる様に顔を俯かせ落ち込んでいたが、ケリーさんが俺を揶揄っている内に復活したのか、激昂しだした。
そして、ケリーさんに留めを刺され、さらに落ち込んだ。見えない胸の話でここまで落ち込むのだから多分女性なんだろうと思うが、女性なら直ぐに俺が言ったことを理解出来たと思うのだけど、どうして気付けなかったんだろう。とか、そんなことを考えていたら、ケリーさんが察したのか「それは今までカップサイズなんて気にしたことがないからですよ」といたずらっ子のように微笑みながら教えてくれた。
「だって、男性に間違われるほどですからね」とケリーさんが言った瞬間にギルマスは俺の顔をキッと睨み付けると「お前のせいだ!」と言うと同時に俺の横に立つと俺の右手を握り「ほら、あるだろ! 頼むから、あると言ってくれ!」とギルマスの胸に俺の手を当て懇願してきた。
俺は慌てて手を離そうとしたが、ギルマスに思ったよりも力を込められていたので、振り解くことも出来ずに困ってしまう。だが、ここまで追い込んだのは自分にも責任はあるのかなと、取り敢えずは感触を確かめようと思ったのだが……「ん?」と口から出てしまう。
「どうした! あるだろ! あると言え!」
「えぇ! 脅しですか」
「いや、そうではない。だが、あるだろ!」
「ん~」
「どうした! 恥ずかしいのは私も同じだ。さあ、その口から言ってくれ!」
「分かりません」
「へ?」
「「ぶっ!」」
俺が言った「分かりません」でまたオジーとケリーさんはツボに入ってしまい思わず噴き出してしまいギルマスは二人を睨み付ける。
そして、俺の顔を見て手を見て、もしかして当てている場所が違うのかと不思議そうに見ているが、俺は追い討ちを掛けるように「かろうじて突起物があるのは分かるのですが」と申し訳なさそうに言えば、オジーとケリーさんはその場で笑い転げ、ギルマスは激しく落ち込むが、俺の手は離してくれない。
「来い!」
「え?」
「私が女だと証明してやるから、来いと言っている」
「へ?」
「ちょ、ちょっとギルマス! それはちょっと問題ですよ」
「何がだ! 私が相手をしてやると言っているのだ! 褒美であろう」
「いえ、それは……」
「ギルマス、ヒロ様をお離し下さい」
「オジーまで……お前もさっきまで笑っていたじゃないか。ならば、私の気持ちも分かるだろう!」
「まあ、そうですが……一応、ヒロ様は領主様のお客様でもありますし、陛下の前に無傷なままでお連れすることになっておりますので」
「私は傷付けるつもりはないぞ?」
「はい。それは分かっていますが、心の傷というのもありますので」
「どいつもこいつも……分かった!」
「ほっ……」
オジーの説得? でギルマスはやっと俺の手を離してくれたが、まだ何か不満があるようで俺の顔を睨んだまま視線を外さない。
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