第54話 おじさんと二人でお買い物
『ピィ!』
「ふふふ、セツはご機嫌だね」
『ピィ!』
「ヒロ様は……そのスライム? の言葉が分かるのですか?」
「まあ、なんとなくだけどね」
「そうですか……」
オジーと一緒に御屋敷を出るとオジーが馬車を用意しますと離れようとしたのを「歩くからいいよ」と止めれば「ホントに歩くんですか?」と凄くイヤそうな顔で俺を見る。
「なんで? 折角の散策だから歩きの方がいいんじゃないの?」
「もう一度、聞きますがホントに歩くんですか?」
「だから、なんでよ? 何か問題でもあるの?」
「そうですね。まず、ここは貴族様専用の御屋敷ばかりの貴族街です」
「はぁ……」
「なので、ヒロ様が仰られている街の散策なんですが、貴族街の散策ではなく、その先にある平民達の居住区画になるかと思われます」
「まあ、そうだよね。ちなみにここから貴族街を抜けてその……平民街? 平民区画? 庶民街? なんて言うのか分からないけどさ、どれくらいの距離があるのかな。それと貴族街って俺が普通に歩いても大丈夫なのかな?」
「そうですね……」
俺の質問にオジーが答えてくれたのは「この御屋敷から平民街までは大体ですが、五キロあるかないかくらいでしょうか。馬車でなら二,三十分、歩きだと一時間強というところですね。それと、貴族街を私達の様な平民が歩いて回ることは普段はありません。なので、私達が歩き回っていれば不審者として貴族街を警護している衛兵に詰所へと連行された後に旦那様へと素性確認されるまでは軟禁されるでしょう」と淡々と言われたので「馬車にしようか」とオジーにお願いすれば「分かりました。では、少々お待ち下さい」と小走りで駆けていった。
「お待たせしました。お乗り下さい」
「ありがとう」
オジーが用意してくれた馬車へと乗り込む。御者席には知らない白髪のおじいさんが座っていた。
「目的地は平民街と聞いていますが、どちらまで行けばよろしいでしょうか?」
「先ずは、商店が建ち並ぶ通りまでお願いする」
「分かりました。では、出発いたします。はい!」
『ブルル……』
俺達を乗せた馬車は三十分程で貴族街を通り、今は平民区画との境にある衛兵が常駐している門を抜けたところだ。
「平民区画に入りましたので、目的地の商店の通りまでもう少しお待ち下さい」
「分かった」
御者席のおじいさんがコンコンと馬車の外からノックして声を掛けて来たのにオジーが返す。
数分して馬車が停まり「着きました」とおじいさんが声を掛けて来る。
「着きました。降りましょうか」
「うん、ありがとう」
オジーが先に馬車の外に出て俺が降りるのを待っている。そして、俺が降りるとオジーは御者のおじいさんに「三時に迎えに来てくれ」とお願いすると、おじいさんは軽く会釈してから馬車を走らせる。
「では、参りましょうか」
「うん、いいんだけどさ。なんでこの通りなの?」
「何故と仰られましても……住宅街を散策しても不審がられてしまいますし、我々の生活を知りたいのであれば、商店や市場を見てもらうのが一番だと思いまして、はい」
「あ、ああ、そうだね。確かに住宅街をジロジロ見て回るのは不審者以外の何者でもないよね。分かったよ。じゃあ、気になったのがあったら説明お願いね」
「はい。お任せ下さい」
時間はまだ十一時前でお昼には少し早いが、食堂らしきお店では仕込みの途中なのか、鼻腔を刺激する。
「ねえ、オジー。まだお昼には早いけどさ、美味しいお店で食べたい」
「ふむ、そうですね。私のお奨めでよければ……」
「うん、いいよ。お願いね。そうだね、大体一時過ぎくらいでお願いしたい」
「分かりました。では、それに合わせてご案内しましょう」
「うん、お願い。あ、そうだ。忘れない内にお願いしたいんだけどさ」
「はい、なんでしょうか?」
「部屋着が欲しいんだ」
「はい?」
「だからさ、部屋でリラックス出来て、御屋敷の廊下を歩いても失礼にならない程度のが欲しいんだけど」
「また、難しいですね」
「ダメかな」
「そうですね。先ず、自室限定でしたら、それほど悩むこともないのですが……御屋敷の中を歩いても恥ずかしくないもの、失礼にならないものとなると、ありません」
「え? ダメなの?」
「はい。先ず御屋敷にはお客様がいらっしゃる場合がありますので、それなりの格好でないとお相手の方もそうですが、旦那様にも失礼になりますので。ですから、面倒だとは思いますが、自室を出られる場合には例え、少しの間でも恥ずかしくない格好をお願いします」
「うわぁホント、面倒だね」
「そういうものだと慣れていただくしかありません」
「分かったよ。後、下着もあればお願い」
「はい、分かりました」
オジーに俺が欲しい物を先に伝えたところで、散策を始めたのだが時折、背後でチラチラと気になる影に気付く。
「ねえ、オジー」
「シッ! 振り向かないで下さい」
「いや、でも……」
「いいですから。多分ですが、まだ害意は感じません。なので、今は無視して下さい」
「……いいのかなぁ」
「ああいうのは、人が多いところでは仕掛けて来ませんので。今は無視でお願いします」
「分かったよ。あ、オジーここ見ていいかな?」
「衣料品店ですね。ふむ、この店なら大丈夫でしょう」
オジーからOKが出たので「こんにちは~」と店内に入る。
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