第50話 魔王様だからな
「これだけでも十分なお土産だと思いますけど、どうでしょう?」
「ふむ、なるほどな。確かに鉛とは違う硬さと柔らかさだな」
発泡酒のアルミ缶を握りつぶした領主は右手で顎をさすりながら、面白そうに左手に持っているアルミ缶を弄ぶ。
「分かった。これが客としての能力の全てだとは思わないが、其方が我が領に齎してくれる物としては、十分だ。ありがとう、礼を言う」
「なら、セ「それはもう無理だ」シ……どうにかならないんですか?」
「すまないが、それは無理だ。諦めてくれ」
「ハァ~分かりました」
それからは領主から先人が齎してくれた色々なことを話してくれた。その中で分かったことは稲作や日本酒に味噌造りに醤油などは渡ってきた老人が教えてくれたこと。算数や文字などは通学時に渡ってきたと思われる小学生、中学生の姉妹が持っていた教科書や辞書を元に広めたこと。中には電気の仕組みなども書かれていたようだが、開発には至らなかったと聞いた。そして、ハーレム願望を持っていたDKやJKは教科書の類は持っておらず、他に何かないのかと聞いても大した知識は得られなかったらしい。
「で、そういった人達はどうなったの?」
「気になるか」
「そりゃ、気になるでしょ。俺の先輩にあたるんだし、俺もこの先どうなるのかくらいは知りたい」
「ふむ、そうだな。まあ、私も詳しくは知らないが、最初の老人は皆に見守られながら往生したと聞いている。姉妹もある高位貴族の養女として迎えられ、幸せに暮らしたと記録にあったハズだ。そして、DK、JKについてだが……」
先達の老人、姉妹についてはいい環境で過ごせたことが分かったが、問題行動ばかりを起こしていたDK、JKについて話そうとしたところで領主の口が重くなる。
「もしかして、やらかして獄中生活になったとか?」
「まあ、それに近いな。私も詳しくは知らないし、知りたいとも思わない。だが、これだけは言っておく。ハーレムなんて夢でしかないからな。一夫多妻なんて考えない方がいい。これは私の経験からの忠告だ。忘れない様に胸に刻み込むんだな」
「重いなぁ~あ、そうだ! 肝心なことを聞くのを忘れていた!」
「ん? なんだ。私が分かることなら答えようじゃないか」
「魔王っているの?」
「ああ、いるぞ」
「へぇ~そうなんだ。いるんだねぇ……え? いるの?」
「ああ、いるぞ。何をそんなに驚くことがある?」
「え、いや。だって、魔王でしょ。そりゃ、驚くでしょ!」
「ああ、魔王様だな。至って普通の魔王様だ。そんなに驚くことでもあるまい」
「へ?」
「ん?」
俺は領主にこの世界に「魔王はいるのか?」と軽く聞いてみたら、領主の口からは「いる」と伝えられ驚いてしまうが、領主はそんな俺の様子を不思議がる。
「なら、勇者もいたりとか?」
「勇者? まあ、ある意味勇者と呼ばれる若者はたまにいるが、多分其方が思っている勇者とは違う意味合いの者だろうな」
「その勇者って無謀なことに挑戦する若者を指して言ったりします?」
「ああ、そうだ。その勇者で合っている」
「じゃあ、魔王討伐に向かう勇者はいない……ってこと?」
「ああ、いないな。第一、魔王様を討伐とはなんだ? この世界で魔王様を相手に戦を起こそうと考えている者はいないぞ。それにな、心配しなくとも魔王様に会えるハズだ」
「え? 会えるの?」
「ああ、会えるだろう。陛下と謁見した後は、其方を客として紹介する宴が開かれるだろうからな。その場に魔王様も現れるだろう」
「え?」
「ふむ、其方の言動と先の客の様子から、『魔王様は悪』であり『討たねばならない』と考えている様にも思えるが?」
「……はい、その通りです」
俺は領主に対し、俺達の世界では『魔王』とは『悪の権化』であり、人々に危害を加え、日々の生活を脅かす存在であることと、そんな魔王を討つために勇者が選定、もしくは召喚され聖女などの仲間と共に討伐の旅を行うのが、一般的なイメージであることを話す。
「そうか。だから、あのDKも『俺は勇者なんだから、何をしてもいいんだ!』と勘違いした言動ばかりを繰り返していたのか」
「あ~なんとなく分かっちゃった。でも、ホントに魔王がいるんだね」
「ああ、いるぞ。それと『魔王様』な。決して、敬称を忘れるでない」
「あ、はい。でも、魔王と呼ばれるのはなんでなの?」
「魔王様な。何も不思議なことではあるまい。魔族を纏める王様で魔王様と呼ばれているだけのことだ」
「あ、魔族も普通にいるんだ」
「ああ、そうだ。ついでに他の種族についても話しておこう」
「お願いします」
領主は俺に頷いてみせると新しい発泡酒を開けるとゴクゴクと二,三口飲んでから口の周りに付いた泡を手で拭うと「いいか」と言ってから、話し始めた。
領主が言うには、自分達の様な人族。森の奥深くに住んでいるエルフ族、岩山を好み鍛冶や酒造に優れた知識を持つドワーフ族、オオカミ、イヌ、ネコなどの獣の特性を持つ獣人族、龍の子孫と言われる竜人族、水中、水際を好む魚人族、有鱗族、それに翼を持ち自由に飛び回る有翼族に魔法に対し突出した力を持つ魔族がいると教えてくれた。
「はぁ……結構、色んな種族がいるんですね。そんなにいて種族間での争いはないんですか?」
「ある」
「え?」
「いや、正確にはあった……だな。まあ、それも遠い昔の話だ。今は、表立っての争いは皆無だ。仮に争いがあったとしてもチンピラ同士のケンカと変わらないだろう。要は種族間での争いなどはない」
「へぇ……意外と平和なんだな」
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