第49話 出て行けと言うなら置いていくだけだし
「何て言ったらいいのか、アイツは少々掛かりすぎると言うか。忠誠心が強すぎな面がある。ヒロ殿を誅殺しようとしたのも私を思ってのことだろう」
「確かにそれは感じましたね。でも、いくらなんでも俺がモブ顔過ぎるって理由で始末しようとするのは些か行きすぎだと思いますがね」
「確かに。だが、それでも無事にここまで辿り着いたのだから、其方のことはオジーなりに感じることがあったのだろう」
「まあ……」
確かにオジーの行きすぎた忠誠心は方向さえちゃんとしていれば頼もしいものになるのだろう。だけど、セシルのことはどうなのだろうともう一度蒸し返してみれば「私にも立場というものがあってだな」と領主が語り出す。
領主が言うにはセシルの親である子爵と領主は寄子と寄親の関係にあり、頼られれば無下にすることも出来ずにどうしたものかと思っていたところに俺というエサが飛び込んできたことで、教育係という名目で俺に押し付ければ恵まれた容姿からいつかは懇ろになるものだと考えていたらしい。それにセシルの親も客である俺との関係を持つことで寄親としての面目も立つと考えたらしい。
「今は、これで納得してもらうしかない」
「分かりました。ですが、貸しにしたことまでナシにはしないで欲しいですね」
「ああ、それは大丈夫だ。信頼して欲しい」
「それを額面通りに受け取れと言うのは難しいですね」
「ふむ、それもそうか。分かった。何か他の手を考えてみよう。ところで、話は戻るが……」
領主は不良債権の話は終わりと締めくくり話は元に戻り、俺に何が出来るのかと聞いて来たので、俺はインベントリから発泡酒を三本取り出す。
「ん? 今、どこから?」
「それはおいおい。これが何か分かりますか?」
「……いや、だが『発泡酒』と書かれているからにはアルコールの類なのだろう」
「はい。これはこうやって……ゴキュゴキュ……プハァ!」
「ゴクリ……」
俺は領主の目の前で発泡酒のプルタブを開け、喉に流し込むと幸せいっぱいな感じを演出する。
領主はそんな俺の様子を見て、不思議そうにしていたが発泡酒の缶を手に取ると俺がして見せたようにプルタブを引き上げ、直接口にして喉の奥へと流し込めば「プハァ! 美味い!」と満足そうに頷く。
「どうです? まあ、異世界だとエールと言われる類のモノになるかと思いますが、原料や製法は缶を見れば、ある程度の想像は付くかと思われます。俺は飲む専門で製造については丸っきり分かりませんがね」
「ふむ、分かった。それについてはこちらで検討してみよう。うまく行けば我が領の特産品となるかも知れぬ。だが、ちと困ったな……」
「ん?」
領主は既に飲み干した発泡酒の空き缶を手でぶらぶらさせながら、暗に足りないと訴えてくる。
「まだ、一本残っていますよ?」
「ああ、そうだな。だが、味を確かめるのに一本だけではなぁ~」
領主はそう言って俺をチラッと見てくる。
「ハァ~言わんとしていることは分かりますが、流石に何もかもタダで提供するほど人がいいとは思っていませんので」
「むっ……この屋敷に世話になると言うのにか?」
「それは領主としての客保護の役目からなのでしょ。俺には関係ない話ですし、出て行けと言うのなら、セシルとオジーを置いて出るだけです。まあ、その場合に国王から何を言われるか、セシルとオジーにどう説明するのかは分かりませんがね」
「ぐぬぬ……」
「どうします?」
領主は俺にもっと出せと言うが、俺もタダでこれ以上提供する気はないと毅然とした態度で跳ね返す。それに屋敷を出て行けと言うのなら、押し付けられた形のセシルとオジーも置いて行くと言えば、領主はぐぬぬと何も言えなくなる。
「分かった。では、どうすればよい?」
「決めて下さい」
「私に値段を付けろと?」
「ええ。安く買い叩くもよし、高い値を付けるもよし。全ては領主の判断として捉えますので」
「賢しいな。だが、其方の気持ちは分かった。ならば、一本一枚でどうだ?」
「一枚ですか?」
「ああ、そうだ。一枚だ。これなら文句はあるまい」
「……」
俺はビールに比べ二〇〇円もしない発泡酒が銀貨一枚の千イエンならば十分元は取れるだろうと了承する。
「そうか、了承してくれるか。では、これで」
「はい、じゃあ」
「ん?」
「え?」
領主がテーブルの上に金貨を五枚並べたので俺はインベントリから五〇〇本取り出し並べるとお互いに驚いた顔になる。
「ちょ、ちょっと待て! いきなり、そんな額は出せないぞ」
「え、一枚ですよね?」
「ああ、そうだ。一本金貨一枚だ」
「あ、そうですね。では……」
「ちょっと待とうか?」
「いえ、待ちません。ですが、五本はサービスで一〇本置いて行きますね」
「……ふん、まあいい。こちらから言い出した値だからな」
「ありがとうございます。あと、その空き缶も金属に詳しい方がいれば、研究する価値はあるかと思いますよ」
「これがか?」
「はい」
「これにどんな価値があると言うのだ?」
「分からないのでしたら、少し強めに握ってもらえば分かると思います」
「強めに? おぉ!」
領主は俺が値段を勘違いしていたことに何か言いたそうだったが、自分から言い出した手前、払いすぎだから返せとは言えないのだろう。
だが、俺も少々貰いすぎかなと思い、アルミ缶の製法について調べる価値があると提案してみるが、領主が半信半疑だったので、手で持っている空き缶を握りつぶしてもらうと、その柔らかさに驚いた顔を見せる。
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