第48話 不良品の処分について聞いてみた
オジーが一際豪華な扉の前に立つと「コンコンコン」と三回ノックしてから、部屋の中に聞こえるように「旦那様お連れしました」と声を掛ければ「入ってくれ」と、領主の声が帰って来る。
オジーは「失礼します」と扉を開けると、扉の前から一歩引いて俺に部屋の中に入る様に促す。
「あ、どうも」
「呼び立てて済まないな。ヒロ殿とゆっくり話がしたかったのだ。それにヒロ殿も聞きたいこと……いや、言いたいことがあるのだろう」
「分かりますか……じゃ「待て、オジーもうよいぞ」……」
「は! 失礼します」
「ああ」
部屋の扉が開けられると、領主はその中に置かれているソファに腰掛け、ロックグラスに入ったお酒を楽しんでいたようだ。そして俺にソファに座るように勧めた後に何か言いたげにしていたが、その前にとオジーには部屋出てもらい人払いを済ませる。
扉が閉まり、そのオジーが去って行く気配を感じると領主は俺に空のロックグラスを差し出し蒸留酒らしき茶色い液体を注ぐ。
「まずは出会いに乾杯しよう」
「はい、乾杯!」
「チン」と小さくなるくらいに互いのグラスをぶつけると俺はグラスの中の液体を一口だけ口に含み、喉の奥へと流し込み「カァ~」と思わず唸ってしまう。
「ふふふ、ヒロ殿には少々きつかったかな?」
「ええ、そうですね。俺にはまだ早かったようです」
「そうか。だが、これも其方達客が齎してくれた物だと聞いている。それで、ヒロ殿は何を齎してくれるのかな」
領主はロックグラスを掲げ、中の茶色い液体を灯りに翳して、俺に何が出来るのかと挑戦的な態度を見せる。
「その前に一つ……いや、二つかな。いいですか?」
「ふむ、申してみよ」
「在庫処分しましたね? いや、この場合は不良債権と言っても過言じゃないような気がします」
「ぶふっ……ヒ、ヒロ殿。いきなり何を言い出すのかな」
「いえ、もうその態度で丸わかりですよ。さっきも食事の途中で『しまった!』って顔してましたよね」
「な、なんのことかな?」
「惚けないで下さい。セシルにオジーのことですよ」
「……ヒロ殿の考えすぎではないのか? セシルはあの通り容姿だけは素晴らしいと思うのだが」
「ふふふ、口が滑りましたね」
「な、なんのことだい?」
「さっき、『容姿だけ』はと言いましたよね?」
「き、気のせいじゃないのかい?」
「これでもそう言い切れますか?」
「え?」
俺は密かに起動していたスマホの録音スイッチを止め、さっきのやり取りを再生して領主に聞かせると「ヒロ殿、それはなんだ!」と興奮した様子で聞いてくるが、今はそこじゃないと興奮している領主を宥めて、改めてさっきの発言を聞いてもらう。
「確かに私の声だが、それがなんの証拠になる?」
「ま、そうなりますよね。ですが、聞かせる相手が違えば反応も異なると思いませんか?」
「相手を代える?」
「はい。例えば奥様に聞かせると、どう思われますかね。自分以外の女性の容姿を褒めるご亭主に対しどんな気持ちになるでしょうね?」
「……」
「またはセシル本人、またはセシルのご家族に聞かせたらどうなるでしょうね。ふふふ」
「ぐっ……何が望みだ?」
「別に」
「え?」
領主は先程の発言をなんとか認めたことになるが、そんなに奥さんが怖いのだろうか。俺としては領主が容姿を褒めていたとセシルに報告し、俺への興味を領主へとスライドして欲しいという願いがあったのだが、それは奥さんのこともあり無理だと悟った。
そして、俺に対し「何が欲しい」と聞いて来たが、俺はいらないと答える。すると、領主はハァと嘆息してから「認めよう」と言った。
「セシルに関してはヒロ殿が思っている通りだろう」
「あ~やっぱりね」
「そう言うな。確かにあの容姿だと言うのに浮いた話が一つもない。だが、今まで一度も無かった訳ではない。たまにだが、セシルを紹介してくれと言うので見合いの様な席を設けることもあったが……結果は今の様子から分かるだろ」
「はぁ~まあ、そうですね。でもだからって俺に押し付けるのはどうなんでしょうね」
「だが、容姿はあの通りだ。風呂で全て見たのだろ。ん?」
「そりゃ、確かに……でもですね」
「言うな。確かに押し付ける形にはなったが、分かってくれ!」
領主はテーブルに頭が付くくらいに俺に対し頭を下げる。俺はそれを見て何も言えなくなるが「貸しですよ」と領主の後頭部に声を掛ける。
領主はバッと顔を上げると「セシルを好きに出来ると言うのに貸しはヒドくないか?」と言い放つが、俺はそれに対し「性格が良ければの話です」と口をとがらす。
「だが、天は二物を与えずと言うぞ」
「それって容姿以外に何もないって認めるんですね」
「ぐっ……違……わないか」
「それに忘れているかもしれませんが、オジーも問題ありですよね?」
「オジーか? 気のせいだろ?」
「俺は殺されかけましたよ?」
「……」
「やっぱり、思い当たることがあるんですね?」
「すまん!」
「もう、いいです。その後頭部は見飽きましたから」
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