第46話 諮られた!
俺はまだお子様達が俺の右肩に注目しているので、肩に乗っているセツをそっとテーブルの上に下ろすとお子様達の視線もテーブルの上へと集中する。テーブルの上に載せたのは行儀が悪いかなと思っていたら「コホン」と領主が軽く咳払いをしたことで、セツに前のめりになっていたお子様達もビシッと姿勢を正す。
「あ~ヒロ殿、それはその生き物は……スライムであっているだろうか?」
「ん~多分そうだと思います」
「多分とは?」
「村の人にもスライムとは思えないと言われたので……」
「ああ、そうだな。私が知っているスライムはそんな風に丸っこくはない。どちらかと言えば、その姿は路上に撒かれたとし「あなた!」ゃ……あ、すまない。食事の前だったな」
「はぁ」
テーブルの上で何やら張り切って動いているセツに対し領主がそもそもスライムなのかと質問してきたので多分そうだと思うと答えれば、領主は自分が知っているのはゲロ状のモノだと言おうとして奥さんらしきご婦人にキツメに注意されてしまう。
「では、食事の前に私の家族を紹介しよう。先ずは私の妻のティリアだ」
「ティリアです。客様に会うのは初めてですが、なんと言いますか……思いっ切り普通の方なんですね」
「止めなさい。失礼だろ」
「はい……でも、セシルもそう思ったのでしょ?」
「奥様、その話はここでは……」
「あら、そうだったわね。ごめんなさい」
「まったく……」
領主がご婦人を奥さんだと紹介してくれたが、開口一番にディスって来ましたけど? そんな奥さんを領主が軽く窘めたが、奥さんは「だって、セシルが言ってたし」とまた、性懲りも無くバクダンを落としてくるし、セシルは慌てて奥さんに対しシッと人差し指を口に当てる。
いや、もういいんだけどさ。容姿に関しては正直俺も諦めているんだから、回りの人達も諦めて欲しいと思う。正直、肥満と言えるほどメタボってはいないが、下っ腹が少々掴めるのはなんとかしたいと思っている。背の高さとしては一七〇ちょいなので、小さいとは言わないが、多分だけどこっちの世界の男性の平均身長は高いんじゃないかなと思っている。だって、見た目が白人の西洋系だからね。
そんな風に思っている内に領主の家族紹介が終わってしまった。正直名前は聞き漏らしたが、見た目と大きさ的に長女、長男、次男の三人だと分かる。長女は多分だけど一〇歳になるかどうかだろう。その碧い目はセツをジッと捉えて放さない。弟達も同じだ。そして、セツはその視線を揶揄うように触手を伸ばしたり縮めたり振ったりしながら子供達の目を楽しませている。
「コホン、お前達も興味があるのは分かるが、目の前にお客様がいるのだ。少しは興味をもってくれないか」
「「「は~い」」」
「ははは、では。流れで自己紹介させて頂きます。私の名前は空田 広志と言います。歳は二三歳で独身です」
「「「へぇ~」」」
「……ははは、興味はなしですか」
「ちなみに私はヒロ様の妻になりますから!」
「「「……」」」
「え? 無視ですか」
領主がセツに夢中な子供達の注意を引いて俺の方を見るように言ってくれたので、俺は自己紹介を始めたが、反応の薄さから好奇心は欠片も感じられない。そしてこの際にとセシルが俺の背後から俺と婚姻予定だと宣言するが、子供達は何も反応しない。
「ふぅ~セシル、俺はまだ了承してないからね」
「ふふふ、分かってますよ。照れているんですよね」
「まあ、それでもいいけど……検討中だということを忘れない様にお願いね」
「はい! 愛情を育むんですよね。分かってますから!」
セシルはそう言って胸の前で腕をグッと構える。俺はそんなセシルを見てから領主の方を見れば、領主は慌てて目を逸らす。俺はその領主の態度に「ん?」と疑問を感じてしまう。そんな領主の態度に「謀ったな、シャア!」と思わず言いたくなる。
「さ、食事にしようじゃないか」とそんな態度を誤魔化すように領主は食事の準備を始めてくれとオジーに伝えれば、食堂の扉が開かれテーブルの上に卓上コンロが用意され、その回りには薄切りの牛肉っぽいのが並べられた皿と白菜や白滝に焼き豆腐っぽいモノが並べられていく。
「失礼します」とセシルではないメイドのお姉さんが卓上コンロに火を着け、上に載っている深めの鉄鍋に脂身を投入すると、それを菜箸を使って鍋底に満遍なく塗る。
ある程度、脂が出て来たところで、牛肉っぽい何かの薄切りを投入し、醤油、日本酒、砂糖を入れ味を調整してから白菜、焼き豆腐、椎茸、エノキダケ、長ネギ、白滝と次々に投入していく。そして、俺の前に置かれた少し深めの小皿に生卵を割って入れ「どうぞ」と差し出す。
「これって、もしかしてすき焼きですか?」
「ほぉ~さすがに客だけあるな。やはり、分かるか」
「分かりますよ! でも、この牛肉っぽいのは何のお肉なんですか?」
「それはレッドカウという牛の魔物肉だ」
「魔物……」
「そうだ。魔物の肉は初めてか?」
「そうですね。村では魚と玉子でしたから」
「そうだったか。だが、心配することはない。美味いから是非、味わって欲しい! 客の世界ではすき焼きは最上級のもてなしだとも聞いている」
「まあ、確かにそうですね」
「そうかそうか、やはり文献は正しかったか。さ、遠慮無く食ってくれ」
「はい」
俺は目の前のすき焼き鍋でグツグツと煮込まれている具材に箸を伸ばそうとすると「お取りします」とさっき、給仕していたメイドさんが俺から小皿を受け取り「何がいいですか?」と聞いて来たがセシルが横から手を出してきた。
「こういうのは妻である私の役目ですから!」
「いえ、給仕は私の仕事です。それに領主様の前です。控えて下さい」
「ヒロ様!」
「セシル、ここは任せよう」
「そんな……分かりました……」
「ふふふ、では改めて何になさいますか?」
見えない女の戦いが始まったみたいだけど、俺は何も見なかったし、聞こえなかった。ね、セツ。
『ピ?』
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