第42話 話が終わって
「私からの話は以上だ。何かあればオジーかセシルを通してくれ」
「えっと……」
「退室してもよいということです」
「あ、そうなんだ。では、失礼します」
「ああ」
領主からの話は終わりだと告げられ退室してもいいと言われ、一応挨拶したはいいがこれからどうすればと思っていたところセシルに「お部屋にご案内します」と言われたので黙って後を着いて行く。
~謁見の間~
「アレが客だと?」
「はい。詳細は言えませんが、私は彼が客であると確信しています」
「ならば、その理由を説明して欲しいのだが?」
「申し訳ありません。彼との契約があり例え旦那様でもお話しすることは出来ません」
「ふむ。では、彼はこの領に何を齎してくれると思う?」
「何を……ですか」
「ああ、あんなどこにでもいそうな若者が何を齎してくれると思う? 昔は米の作り方や言葉を伝えてくれた者達がいた。だが、ここ最近……と言っても百年単位の話にはなるが、比較的若者ばかりだと聞いている。だからなのか、大した知識もなくただただ家に帰りたいと喚き散らす者も多かったと聞く」
「はぁ」
「その点、先程の若者は特に悲観することもなく淡々としていたのが逆に興味が湧いてしまう。果たして彼はこの一月の間に何を齎してくれるのだろうな。今から気が逸ってしょうがないよ」
「……」
オジーの前で領主はヒロが何かを自領に齎してくれるものと期待しているようで、凡庸だと表現したのを既に忘れてしまっているようだ。オジーは既にヒロの非凡さは身をもって体験しているが、それを態々領主の耳に入れる気はない。なので今は領主の機嫌を損ねないように適当に相槌を打つことで誤魔化す。
「それにしてもセシルは勿体ないことをしたかな」
「それはどういう意味で?」
「いやな、性格はどうあれ、あの容姿だろ。少し味見した後でもよかったんじゃないかと思ってな」
「思うだけにしておいて下さい。私から奥様には言わないでおきますから」
「お、脅すのか?」
あの容姿で行き遅れと言われる年齢まで何もなかったのには、やはりどこか問題を抱えているのだろうとは思っていたが「やはり、性格に難ありだったか」とオジーは領主の言葉にどこか納得してしまう。そして「味見しておけば」の発言に対し聞かなかったことにするから、今後そういった言動を控える様にと領主に対し注意すれば、領主からは「脅し」と取られてしまう。
普通に伯爵という立場であれば、嫡子を設ける為にも正室の他に側室な妾がいても不思議ではない。だが、この領主の正室である婦人は自分以外の女性に愛情が注がれるのが我慢ならないと、領主に対し「それは浮気ですから!」と強固な姿勢を貫いている。そして領主も自分から惚れて一緒になってもらったという負い目から、そういった話はしないようにしているのだ。だから、オジーが黙っているというのもある意味脅しと撮られてもしょうがない。
そしてオジーはそんな領主に対し嘆息してから「怖いのでしたら、そういう言動は控えることです」と忠告する。
「あ、ああ……そうだな。気を付けるとしよう。でだ、話を戻すがセシルはあの若者をどう思っているのだろうな」
「……そうですね。私の所感では悪くはないと思います」
「そうか! ならば、この領に引き留めることも可能だな」
「さすがにそこまでは断言出来かねます」
「ま、そうか。そうだよな。陛下がどう判断を下すかまだ不明だものな」
「はい、そういうことです」
~ヒロ視点~
「こちらになります」
「ありがとう」
長い廊下を暫く歩きセシルが両開きの客室の扉を右手で開けながら、俺を部屋の中に案内すると、後ろ手で扉を閉める。
「え?」
「はい?」
「いや、『はい?』じゃなくて部屋まで案内してくれたお礼は言ったけど? あ、もしかしてチップが必要だったのかな?」
「違います!」
「へ?」
案内してくれた部屋の扉の前で俺とセシルが互いに見つめ合っている状態に俺は「ん?」となり、セシルが部屋から出ないのは俺からチップをもらってないからだろうかと慌てて硬貨を用意しようとしているとセシルは「違います」と言う。
「いや、だってここは俺に用意された部屋なんだよね。なら、セシ「一緒ですから」ル……はい?」
「私はこれからヒロ様と寝食を共にしますから!」
「え……えぇ!」
「そういうことなので、改めてこれからもよろしくお願いしますね。旦那様」
「チェンジで……」
「はい?」
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