第41話 だって、モブだもの
第34話の内容が第35話と重複しているとのご指摘をいただき確認したところ、まんま第35話の内容でした。
第34話の本文を掲載しましたので、読んで頂ければ幸いです。
「其方が客か?」
「はい。旦那様、ヒロでございます」
風呂からスーツを着て出たところを俺をここまで案内してきたおじさんに連れられ、今は偉そうに一段上からこちらを見下ろしている領主らしき男性の前に立たされおじさんが恭しく頭を垂れて俺を紹介している。
領主というから、貴族様なのだろうと思っていたが、それなりの身分の様で「こちらの招きに応じてくれて感謝する」と言い自己紹介を始めた。
「私はフィガラ王から、ここジャミア領を任されている『マクシミリアン・フォン・ジャミア伯爵』だ」
「あ、はい」
椅子に座って俺をジッと見ていた領主が立ち上がり、綺麗な動作で自己紹介をしたのだが、なんというか身長も高く綺麗な金髪を短く整えた姿は言うなれば『金髪の中井貴一』だ。
想像してみて欲しい。中井貴一が金髪にして襟回りがフリフリで豪華な装飾が施された上質そうな衣服に身を包んでいる姿を。
そんな金髪の中井貴一が俺をつま先から頭の天辺まで見てから呟く。
「私も客に会うのは初めてだが、何というか……」
「モブ過ぎますか?」
「そうだな」
「ぷっ……あ……」
領主は俺を見た感想を言い辛そうにしていたが、おじさんが俺を的確に表現すれば、後ろに控えていたセシルも思わず噴き出してしまった様なので振り返り軽く睨んだ俺に気づきバツが悪そうになる。
「なんか期待外れで色々とスミマセンね」
「いや、私もそれ程客に詳しい訳ではないのだが、こちらに渡ってきた客は米を伝えた老人男性、衣服に対し執着を見せたJKなる者、ハーレムを夢見て牢獄送りになったDKと、それぞれが民に埋没することが難しいと思える程の容姿だったと聞いている。なので、其方を見て感じたのは……」
「モブ中のモブ……だと」
「ぷっ!」
また、セシルが堪えきれずに噴き出すが、今更俺の容姿は変えられないので無視して話を続ける。
「それで期待外れの俺はどうなりますか?」
「ん?」
「「ヒロ様、言葉づかいを「よい」……え?」」
「よいと言った」
「ですが、旦那様。旦那様に対する礼儀としては「よい」……あ、はい」
俺が領主に対してぶっきら棒な様子で話しかけたものだたら、おじさんとセシルは慌てて俺に対し言葉づかいを正すようにいうが、領主がそれを制する。
「ヒロの言葉づかいは確かに伯爵である私には不遜とも取れるが、最低限の敬語は使われている。だから、今はこれでよい」
「「はっ」」
領主の言葉におじさんとセシルは頭を下げて会釈する。
「で、其方をどう扱うかだったな」
「そうです。俺に何を期待しているのかは分かりませんが、俺をどうするのかをお聞かせ下さい」
「ふむ、そうだな。其方は陛下に会うことは避けられない。これは今までの客と同様に先ずは陛下に会っていただく」
「あ~やっぱり」
「まあ、その前にある程度は、この世界と言うよりは、この国での常識をそこのオジーとセシルより学んで欲しい」
「オジーって?」
「私です」
「え、オジーっておじさんのこと?」
「そうです。ヒロ様が私が名を告げる前から『おじさんおじさん』と呼ぶので、これも客の能力なのかと思っておりました」
「いや、普通におじさんでしょ」
「……私は二十八歳です。まだ、おじさんと呼ばれる年齢ではありません」
「え?」
「何か?」
「いえ、別に……」
おじさんことオジーを改めて見てみるが、二十八歳と言うには少し淋しい頭頂部とどこまでがオデコなのだろうかと問い詰めたくなる生え際に少しだらしないお腹回りを見て「いや、どう見てもおじさんでしょうが!」と声を大にして言いたくなるが、今は領主の前だから遠慮しておこう。
「期間としては一月だ。その間に必要な礼儀作法と常識を学んで欲しい」
「はぁ……」
「どうした?」
「いえ、別にそれはそれで俺としても助かるので別にいいんですが、どこか安い宿でも紹介してもらえれば助かります」
「ん?」
「え?」
一月は長いなと思い、領主にどこか安宿でも紹介して欲しいと言うと、領主がキョトンとした顔になり、セシルの方を見て「言ってないのか?」と問い掛ける。
「あ……申し訳ありません。まだ、お伝えしておりませんでした」
「ふむ、まあよい。で、其方が当面の間、住むところはこの屋敷だ」
「はい?」
「イヤか?」
「いや……あ、イヤではなくてですね、俺は言うなれば平民ですよね。それなのに御貴族様の……伯爵様の御屋敷に住んでもいいのでしょうか?」
「ふはは、私に対してぞんざいな感じはしたが、そうかそうか。其方は無礼ではなく単に恐縮していただけだったか」
「はぁ……まあ、そういう感じですかね。会社内でもそれほど位の高い相手と話す機会もそんなになかったので」
「つまりは、どう接していいかが分からなかった。そういう訳か」
「……はい」
「まあよい、其方は客だ。確かに身分としては平民に位置するであろうが、これからの働き次第では陛下より貴族位を賜るかも知れぬぞ」
「えぇ~」
「なんだ、イヤか?」
「イヤと言うか。貴族になると色々と責任が面倒というのもありますが、その……」
「なんだ?」
「ヒロ様。必ずしもあの服装をする必要はありませんよ」
「え、そうなの?」
「はい。特にヒロ様は言いにくいのですが、あまり……」
「似合わないと?」
「……はい」
平民である俺が貴族である領主の御屋敷で過ごすのは抵抗があると言えば、領主は面白そうに気にするなと言う。そして、俺は客だから、何かを成す可能性もあり、それが国王に認められれば貴族になれるかもよと言う。
だが、俺は貴族になりたいのかと言われれば、正直面倒ごとが多そうなので「それはちょっと」と言葉を濁して、もう一つ気になることがあり、それを受け入れられないと言っていいものか悩んでいるとセシルが横から助言してくれた。
ああいう『貴族です』的な衣装は無理して着る必要は無いし、着たとしても俺には似合わないと言われてしまう。
確かに着たくはないが、それでも「似合わない」と言われれば傷付くのだから不思議だ。
「モブだからなのかぁ」
『ピィ!』
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