第4話 ホントならイヤすぎる。便利だけど……
「なあ、一つ聞いてもいいかな?」
「いいぞ。何が聞きたい」
「先ずは、ここが何処なのかを知りたい。そして俺は今後どうすればいいのか教えて欲しい」
「ふむ、まあいいじゃろ。先ずは……」
なんとか気持ちを落ち着けた俺は村長に対し、今俺は何処にいるのかを確認する。ここじゃない何処かに行くにしても出発点となる位置くらいはハッキリさせておきたいと考えてのことだ。なんせ、脳内マップには地形らしきものは表示されるが、地名らしきものは一切表示されていないため、自分では調べようがないのだからしょうがない。
そして村長が教えてくれたのは、ここはフィガラ王国のジャミア領のトリリア村というらしい。ちなみにここから、ジャミア領までは馬車で三日、そこから王都までが三週間ということから、この村が途轍もなく田舎だということは理解出来た。
ちなみにそんな王国の外れに位置するこの村の周囲に他の村もあるが、その先は海であり、何処の国とも接していないらしい。なので、何かあれば隣国に逃げればいいと思っていた俺の考えは脆くも崩れ去る。
一か八かで海を渡るという手がないこともないだろうが、海にも魔物はいるらしいので、止めておけと村長に止められた。
なんで俺がこの国から逃げようと考えていたのが村長にバレたのかと言えば、俺の質問に対する答えを聞いた時に顔を思いっ切り顰めたことでマルバレだったみたいだ。そんなん聞いてポーカーフェイスなんて出来ないし……。
「何が不満だ?」
「何がって、全部だよ、全部!」
「そうか? 俺には羨ましくも思えるがな」
「なら、変わってやるから、お前がやれよ!」
「いや、俺は門番であって客じゃねえし、くくく」
「ムカつく!」
俺が村長に聞いた『俺は今後どうすればいいのか?』と言う問いに対し、村長は王都までの『客献上ツアー』を提案して来たのだ。そんなん聞いて「はい、分かりました」と言えるハズもなく王都までの道中に晒し者にされることや、領主や国王との面倒なやり取りを考えただけでイヤになる。なので顔を顰めるのも無理はないと思う。
「ちなみにだけど……」
「なんじゃ?」
「拒否することは出来るのかな? 若しくは、拒否した場合のその後とか教えて貰えたりする?」
「ふむ、まあそうじゃな。ワシも客を迎えるのは初めてじゃからして、伝聞で聞いたことくらいしか分からんが、それでもよいかな?」
「よいよい、教えてくれ」
「ならば、先ず拒否することは無理じゃ」
「あぁ~そう来ますか。で、ブッチしたら?」
「ぶっち? まあ、ぶっちが何を意味するかは分からんが、推測するに拒否して逃亡した場合と考えればよいかの。まあ、その場合はじゃな……」
「ゴクッ……その場合は?」
「逃がした責任を取らされ、当事者を含む村の者、全てを投獄、または死罪……だと聞いておる」
「「「え?」」」
村長の言葉を聞き、俺だけでなく村長の奥さんに門番までが「聞いてないヨ!」と言いたげにビックリしている。
「まあ、そういう訳じゃ。ここは大人しく同行されてくれ」
「……あの」
「イヤか?」
「あ~その前に……もし、俺が逃亡したとなれば「するのかの?」……い、いやいや単に聞いただけだし……」
「うむ、そうじゃな。あまり変な気を起こさない方が互いの為だの」
「……善処します」
ちょっとだけ、ホンのちょっとだけ俺が『もし、逃げたら』と口にしただけで村長だけじゃなく奥さんや門番が殺気を発したのが分かった。村長は持っていた杖の鯉口を切るし、奥さんは包丁を持ち直したよね? 門番は槍を構え直したし。ってか、槍を持ち込みOKなのかよ!
「で、でもさ、俺が客だとしてもだよ、知っているのはここの三人だけでしょ。なら「遅いわ」……へ?」
「お前さんとゴサックとのやり取りを村中の者が知っておる」
「はい?」
「なんじゃ、気付いてなかったのか? あんな大声で村の入口でやり合っていたら目立ってしょうがなかろうて。それに普段から娯楽の類もない退屈な村で見知らぬ男が入口で騒いでいたら興味を持つなと言う方が無理じゃて」
「え~じゃ、この……門番のゴサックのせいで俺はドナドナされるのが決定したってことなの」
「どなどなが何を意味するか分からんが、まあそういうことじゃな。もう少し静かにしてやり過ごせば、違った未来があったかもしれんの。フォッフォッフォッ」
「なんか、すまんな」
「すまんじゃないだろぉ~お前のせいじゃないかよぉ~」
「まあ、お前のその性格じゃどっちみちどこかで客として追っ手が掛かるのは間違いないじゃろ。この村で良かったと思えるハズじゃて」
「えぇ~なんか納得出来ない」
「そうかの?」
「あ! そういえば……」
俺はもう王都までのツアーがキャンセル不可だと分かり無駄に騒ぐことは止め、それならばと今の内にやれることはやっておこうと気持ちを切り替える。
そして、この村に来てから気になっていたことを改めて聞いてみる。
「俺さ、ここ……この世界に来てから、まだこっちの文字を見たことがないんだけど、よかったら見せて貰えるかな。あ、あとは読み書きも教えてくれたら嬉しいんだけど……」
「「「……」」」
「え? 俺、なんか変なこと言った?」
こっちの世界に来てから、第一村人の門番であるゴサックと村長に、その奥さんとだけしか会話はしていないが、問題なく会話出来ていることから、これも異世界特典だろうとあまり気にせずに話していたが、俺がこっちの世界の言葉を教えてくれと言った瞬間に村長達三人が俺の顔を見てまるで可哀想な子を見るような目付きに変わったので、俺は不安になるが、その後の村長の言葉で正気を疑った。
「言葉は普通にニホンゴを話しているではないか? ならば、読み書きも普通にひらがな、かたかな、漢字にアルファベットにローマ字、数字も問題ないと思うが?」
「はい?」
「村長、コイツは義務教育の途中かも知れんな。こんな幼い顔しているんだし」
「ふむ、そうじゃな。義務教育の途中なら読み書きに不安を覚えてもしょうがないじゃろ」
「え? え、ちょっと待って!」
「なんじゃ?」
「今、ニホンゴって言った?」
「ああ、言うたが?」
「いや、おかしいでしょ! だって、ここは異世界だよね? 日本じゃないよね? あれ? 俺がおかしいのかな? いや、でも確かに言葉は通じているし……」
「何をブツブツと言っておる。客はお前が初めてと言う訳ではないと言ったじゃろ」
「え? いや、でも……」
「ワシも昔話でしか知らんがな、遠い遠い昔にある一人の客がこの地に降り立ち、まだあちらこちらで言葉が異なり、当然文字という概念すらなかった時代に、その客が言葉を統一し文字を起こしたと聞いておる。その文字は表音文字としては優秀だとなり、当時の王が認め、更には周辺国とも協議した結果、世界共通語として『ニホンゴ』が誕生したのだ」
「へ、へぇ~スゴイデスネ」
「だから、義務教育の途中でも心配することはない。なんなら、この村で義務教育を終わらせてから出立するように調整してやらんでもないぞ」
「あ、違うし!」
「何が違う? お前はまだ十四、五ではないのか?」
「……二十三歳です」
「「「は?」」」
「いやいやいや、それなら俺より年上ってことだろ? いやいやいや、いくらなんでもそれはないって!」
「ホントなの! これでもちゃんと生えているから!」
「わ、分かったから! 脱ぐな! いいか、脱ぐなよ!」
「ちっ」
「……」
村長の言葉に俺は改めてステータスを表示させれば、そこには『異世界言語理解』なんてスキルはなく村長が言っていた『ニホンゴ』の意味をイヤでも理解してしまう。そして、ニホンゴはこの世界での共通言語して使われているらしい。
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