第34話 ホントに言っちゃダメだから!
「ぐへへ……お前ら……ひぐっ……」
「頭? ぐぁっ……」
「おい、どうした? あがっ……」
野党の頭目が何度も右手を挙げて合図するも森の中からの援護射撃が始まらないことに業を煮やして手下達に襲撃させようと声を発しようとしたところで頭目の様子がおかしくなる。側にいた手下が心配そうに頭目の様子を見ると顔を抑えてバタリと倒れる。
その様子に手下達も驚き、頭目に駆け寄ろうとしたところで、同じ様に顔や喉を押さえて苦しそうに藻掻きながら、その場に倒れる。
「おい、どういうことだ?」
「分からん……だが、相手が何も出来ないのなら、今のうちだな」
「そうね。少し気の毒になるけど……襲ってきたんだもんね」
隊商の護衛達もバタバタと倒れる野党の様子に驚いていたが、野党達が何も出来ないのを契機と捉え野党達に近寄り捕縛する。
俺は野党達が護衛の手に寄って捕縛されるのを見て、こっそりと箱詰めを解除する。
「……あれは貴方がなされたのですか?」
「あなた? あれ、さっきまでお前って言ってたのに?」
「……お許しください。客としての貴方のお力を見くびっていました。申し訳ありません」
「おぉ~見本の様な手のひら返し」
「それで、あれは貴方がされたのでしょうか?」
「うん、そう。おじさんも身に覚えがあるでしょ。アレだよ、アレ」
「アレ……ですか」
「そう、でも殺しはしてないよ。その辺は護衛の皆さんに任せたいんだけど、ねぇちょっと聞いてもいいかな?」
「はい、なんなりと!」
「なんか、調子狂うなぁ……ま、いいや。あのさ……」
俺は護衛の人達が捕縛した野党を一纏めにした後に何やら紙束の様な物と野党の顔を見比べながら、その場で留めを刺し首を切り取っているのを不思議に思いおじさんに問いかける。その前に俺もセツに射手を仕留めさせたり、今の目を背けたくなるグロい光景なのにそれほど不快感を感じないことも不思議に思う。ま、その前のゴブリンを切断した時もそれほど不快に感じなかったのだけど、これも異世界特典なのかとあまり気にしないことにする。
で、おじさんが言うには護衛が見ているのは手配書の束で、その中の人相書きに『生死不問』がある場合には移送の手間もあるので首だけにしているらしい。後は、生きたまま犯罪奴隷として奴隷商に売り渡す為に生かしておく場合もあるが、ここから奴隷商がいる領都までは行程があるため、その対価が見込まれないヤツはここで始末されるらしい。
「なるほど」
「あの……」
「何?」
「いいのですか?」
「何が?」
「いえ、ですから……仕留めたのは貴方ですよね? ならば、その対価を要求する立場にあるのかと思うのですが……」
「え、いらないよ。面倒だし」
「へ? ですが……」
「あのね……」
おじさんは俺が仕留めたのだから、その対価を要求すべきだと少し興奮気味に話すが、俺からしてみれば後始末をしてくれる手間だと思えば問題ないことと、今は目立ちたくないからと話を締めくくるが、おじさんは納得しない。
「じゃあ、おじさんがあの生首を持って行くの?」
「え?」
「だって、あの首がないとお金がもらえないんでしょ。それに他に生かしている連中の面倒も見ないとダメなんでしょ。だから、その手間が省けたと思えばいいじゃない」
「ですが……」
「俺との約束を忘れたの?」
「は! いえ、そんな訳では……ただ、少し勿体ないというか……」
「はい、もうこの話はお終い! そもそも野党に遭遇しなかったと思えばいいでしょ」
「ですが……」
「あまり、他所のお金に手を突っ込まない方がいいと思うよ。長生きしたいでしょ」
「……はい」
まだ納得いってない様子のおじさんに『あの生首』を持って行動するのかと問えば、露骨にイヤな顔をするが首とお金を交換する以上は必要だ。でも、生首と一緒はイヤだと言う。それに自分がしたことでもないのに対価を要求しないのかと俺に言うが俺としては目立ちたくないし、どうやって始末したのかを説明するのも面倒だから放置一択だ。
おじさんは俺の対価を要求すれば、必然的に俺のことを話すのと同意だと言うことにやっと気付いたのか、自分の首を撫でながら漸く落ち着くのだった。
「勿体ない……」
「まだ、言います?」
「……いえ。もう言いません」
「ホントに? 領主にも言わない?」
「……ダメですか?」
「ダメに決まってるでしょ!」
「ハァ~分かりました。で、用足しはいいんですか?」
「もう、引っ込んじゃったよ」
「そうですか。では、出しますよ」
「うん、お願い」
おじさんは嬉しそうに首を並べている護衛達を横目に羨ましそうに見ていたが、俺が注意すると、俺の忠告を思い出したのか嘆息しながら御者席に戻る。
俺も馬車の中に入り、セツに包んでもらうと夢の中へと入り込む。
それから、途中の村や町に泊まったり食事を済ませながら三日も経つと、「今日の夕方には着くと思います」とおじさんが言う。
俺は漸く退屈な馬車での移動が終わる喜びと共にまだ見ぬ領都がどんなものかと好奇心が溢れ出す。
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