第31話 ね?
「いいよ、来いよ! 相手になってやろうじゃないか!」
「ほぉ……私に敵うとでも?」
「ふん、やってみないと分からないだろ。どっちみち、このままじゃアンタに殺られるだけだ。なら、少しでも足掻いてみせるさ」
「ははは、面白い! 単なる余興のつもりだったが……よかろう。来るがいい」
「行ってやらぁ!」
「おう、来い!」
「『箱詰め』……あ、成功したっぽい」
『……』
俺はおじさんに向けて『箱詰め』を発動すると、おじさんは見えない壁の中に閉じ込められたことで慌てているっぽいが、密閉されている為に声が漏れることはない。
『……』
「もう、ちょっと待ってて。ね?」
『……』
「だから、もうちょっと待っててって言ってるじゃん! ね?」
『……!』
「あ、もしかして『ね?』じゃないって言ってる?」
『……!』
「あ、落ちた……」
俺は藻掻いていたおじさんがばったりと倒れたのを確認してから箱詰めを解除し、おじさんの脈を確認し気絶したことを確認すると、今の内にとおじさんを動けなくするためにロープを探しておじさんをぐるぐる巻きにする。
「ん? これは……」
「気が付いた?」
「貴様! 私に何をした!」
「もう、だから落ち着いてよ。で、ないとまた……ね?」
「……」
俺が『ね?』と言えば、おじさんはさっきのことを思い出したのかブルッと身震いする。
「じゃ、もうしない?」
「……」
「するの? するのなら……」
「な、なんだ! 私をどうするつもりだ?」
「どうするって、さっきおじさんがしようとしていたのと同じことだよ」
「どういう意味だ?」
「だから、おじさんは『この村に来なかった』ってこと」
「は?」
「分からない? おじさんはこの村に来る途中に魔物に襲われて……お亡くなりになった?」
「はん! そんなこと出来る訳ないだろ」
「なんでそう思うの?」
「なんでって……俺がこの村に来るのは領主様が知っている」
「だから?」
「だから……え?」
「だからね、来たかもしれないし、来なかったかもしれない。大体、この村に来たって誰が証明するの?」
「それは……」
「無理だよね。おじさんは一人で来たみたいだし、それにこの村の人達を葬るって言っちゃったし、おじさんの味方をしようとする人はいないんじゃないかな。ね?」
「……」
おじさんはロープに縛られたままだからなのか、俺が手を出さないまでも村人を全員亡き者にすると言ってしまったことがもしバレたらと気が気じゃない。
「だから、おじさんは俺を連れて行けばお役目は果たしたことになるんでしょ。ね?」
「……分かった。お前の言う通りにしよう。だが」
「まだ、何かあるの?」
「お前が客だという証拠がない!」
「そんなの、この顔もそうだけどさ……おじさん達が知らない知識を披露することで証明になるんじゃないの」
「あ……」
俺の言葉におじさんも得心がいった様で大人しくなる。
「じゃあ、ロープを解くけど暴れないでよ。もし、また暴れる様なら、分かっているよね?」
「あ、ああ」
俺はおじさんのロープを解き自由にすると、おじさんは自分の体をパンパンと軽く叩いてから「済まなかった」と口にする。
「いいですよ。じゃ、行きましょうか」
「ああ、こっちだ」
おじさんに案内され家を出ると、家の前には馬車が停められていた。俺は馬車に乗り込む前にせめて村長達に挨拶したいと言って、村長の家に向かう。
「は~い。あら、ヒロ君」
「あの、領主からの迎えが来たので、これから一緒に行こうと思います。短い間ですが、お世話になりました」
「あら、そう。ありがとうね」
「……それだけ?」
「それだけよ。だってたった三日だもの。そんなものでしょ」
「はぁ……」
「ふふふ、ウソよ。でも、ここであなたを引き留めることは出来ないでしょ。だから、また帰ってらっしゃい」
「はい、行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい! お父さん」
「いや、だからそれは……」
「ふふふ、これだけしつこく言ってれば、忘れることもないでしょ。ね?」
「はい!」
村長には会えなかったが村長の奥さんには会えたので、これから領主の使いとともに領都まで出かけると伝えると、奥さんは行ってらっしゃいと送り出してくれた。
「お待たせしました」
「いいのか?」
「はい」
「じゃ、出すぞ」
「お願いします」
俺を迎えに来た馬車は箱馬車で俺は馬車の中に乗り込むと御者席に座ったおじさんに声を掛ければおじさんはゆっくりと馬車を走らせる。
異世界に来てからたったの三日だけど、俺が初めて訪れた村であることには代りは無い。まだ全部を見て回れてないけど、また帰って来てからにすればいいと今はこれだけでもと窓から見える村の景色を目に焼き付ける。
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