第29話 お願いだから、お父さんと呼ばないで!
「ふぁ~おはよう、セツ」
『ピ!』
まだ、眠たいなと瞼を擦りながらセツから抜け出し、体全体にクリーンを掛ける。まあ、別にしなくてもセツに包まれていたから細かい汚れもキレイにはなっているんだけどなんとなくだね。
なんとか頭を覚醒させ、朝ご飯でも思っていると玄関が開かれ「あら、今日は起きているのね」とリノさんが顔を覗かせる。
「おはようございます。早いですね」
「おはよう。セツちゃんもおはよ」
『ピ!』
セツが奥さんに触手を振って挨拶すると、奥さんはふふっと笑い「村長からお話があるそうよ。ついでにご飯も一緒にと思って」と言われたので「はい、ありがとうございます」と返事をしてからセツを右肩に乗せ家を出る。
「おう、来たか。まあ、座って飯でも食おう。話はその後だ」
「はぁ……」
「ちょっと待っててね」
村長に挨拶しようと思ったが、何か良くない話をしそうな雰囲気だったので、会釈だけして椅子に座る。
「さあ、どうぞ」
「いただきます!」
奥さんがテーブルの上に朝食を並べてくれたので、俺は手を合わせてから箸を持つと、先ずは豆腐と油揚げの味噌汁に手を伸ばす。
「うん、美味しい」
「ありがと。お父さんにそう言って貰えると、この子も喜ぶわ!」
「……その話まだ、引っ張ります?」
「あら、ダメ?」
「ダメでしょ! 本当のお父さんが横にいるのに! それに他の人が聞いたら、絶対誤解しますって! 村長も黙ってないでなんとか言って下さいよ!」
「……」
「村長?」
「まあ、気にするな」
「気にしますって!」
「俺がいいと言っても?」
「村長が認めたら、余計ややこしくなるでしょ!」
「そうか?」
「そうです!」
「ふむ、ならヒロのことをなんて呼べばいいんだ?」
「ヒロ一択でしょ! 何を悩むんですか!」
「でもなぁ俺もリノもお前に感謝している。それは嘘じゃない」
「それは分かります。でも、だからって俺がお腹の子のお父さんと言われても困ります」
「……分かった。別の方法を考えよう」
「いや、別にそこまでしてもらうことじゃ……」
「あら、ダメよ。ヒロ君には感謝してもしきれないんだから」
「はぁ」
いきなり『お腹の子のお父さん』と言われ呑んでいたお味噌汁を思わず噴き出しかけたが、なんとか堪えて奥さんに対し冷めた視線で苦情を言えば、そんな悪いことなのかなと惚けた様子で首を傾げる奥さんに呆れてしまう。なので横にいる本当のお父さんである村長にどういうことなのかと尋ねれば、村長は気にしないからと言うが、俺が気にするからと言いなんとか止めて貰う様に頼む。
だが、村長としては感謝の気持ちから『お父さん』と呼ぶことにしたそうだが、迷惑以外のなにものでもないと感謝される側の俺が頼んで止めてもらう。
俺は改めてお味噌汁を呑んでから、まだ熱々の卵焼きに箸を付け朝食を済ませる。
「ごちそうさまでした」
「ふふふ、キレイに食べてくれてありがとうね」
「茶を飲んだら、話をしようか」
「はぁ……それって聞かないとダメ?」
「ダメだな」
「ちなみに……いい話、それとも悪い話?」
「ん~よくもあり、悪くもある?」
「それってどっちなん?」
「それはお前が決めてくれ。じゃ、話すぞ。あのな……」
俺の質問に対し村長はよくもあり、悪くもあるとどっちつかずで判断は俺にしろと言ってから話し出す。
村長が話したのは、領主からの迎えの馬車が今日の昼過ぎに着くらしい。そして直ぐにでも俺を拾って行きたいとのことだった。
「え? それだけ? なら、いい話じゃないの? どこも悪い話はないけど?」
「あるだろ!」
「え? どこに?」
「どこにって……お前村を出るんだぞ?」
「でも、それは最初っから決まっていた話でしょ」
「……お前には情ってもんがないのか!」
「いや、俺が行かないと困るって言ってたのは村長でしょ」
「……そうだったか?」
「そうだったかって……俺が行かないと村全体で罰せられるって言ってたじゃない。もしかして、あれってウソなの?」
「ウソじゃないぞ。ウソじゃないが……お前は淋しくないのか?」
「そりゃ、ちょっとは淋しいとは思うけど……行かないとダメなんでしょ」
「ああ、そうだ」
「じゃ、しょうがないじゃない」
「お前はそれでいいのか?」
「は? 俺にどうしろって言うの?」
「どうするって……どうする?」
「いや、俺に聞かれても……」
「「ん~」」
「ふふふ、二人ともバカなことを言ってないで落ち着きなさい」
村長がいういい話は迎えの馬車が来ること。悪いことは俺が村を出なきゃいけないことだと言うが、俺にはいい話なんだけどと言えば村長は「冷めたヤツだな」と俺をなじる。
でも、俺が王に会わないと結果的に、この村の人達が罰せられるんだから結局は出ないとダメなんだけど、村長は自分が言っておきながら俺に対しどうにかしろと無理難題を言ってきた。既に答えが出ている問題に対し村長と俺がう~んと唸っていると奥さんはお茶のお代わりを注ぎながら落ち着く様に言う。
「あのね、そんな難しく考えることないでしょ」
「でも、お前「だから、会うだけなんでしょ」な……ん?」
「だから、王様にヒロ君が会えば、村としての責任はないんでしょ。もっと分かり易く言えば、領主からのお迎えの馬車に乗って村を出たら、責任は領主に移るんじゃないの?」
「「あ!」」
奥さんの話は至極単純でこの村の責任は俺が領主の馬車に乗って、この村を出た時点で俺を王様に会わせるという責任は領主に移行するということだった。
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