第28話 あなたの子です
「ヒック……こりゃたまらん……」
「じゃ、もういいよね」
「おう……」
俺はいい具合にほろ酔いになっているお爺さんに一言告げれば、お爺さんはフラフラになりながらも俺に手を振り見送ってくれた。
もちろん、店を出る前に発泡酒の空き缶を回収するのも忘れない。セツのご飯だからね。
「それはそれでいいとして、お昼からまともに食べてないからお腹が空いた……」
『ピ?』
毎食コンビニおにぎりが悪いとは言わないけど、さすがに違う物を食べたい。朝食は奥さんお手製の和食を食べさせてもらったけど、このままじゃコンビニおにぎりの味に飽きてしまいそうで怖い。
「と、いってもこの村自体はそんなに大きくなさそうだし……食事を提供しているお店があるかどうかも怪しいとこだな」
とか、そうやってグダグダとしている内に日が暮れ始める。
「しょうがない。今日は諦めておにぎりとポテサラでしのぐか。村の探検はまた明日にしよう」
『ピ!』
今日一日は服と靴を揃えるだけで終わったなと家の前まで来るとリノさんが「お帰り」と出迎えてくれた。
「あ、ただいま……っていうか約束していましたっけ?」
「約束はしていないわよ。私が勝手に待たせて貰っただけだから」
「ん?」
「ふふふ、そう構えないで下さい。そんなに身構える必要はありませんから」
「いや、でも……」
「うふふ、そうですね。じゃあ、主人も待たせているので家に行きましょうか」
「……はい」
奥さんに手を引っ張られる形で村長の家の中へと招かれると、既に村長は椅子に座っていて「お、来たか」と俺を歓迎する。
俺は村長に勧められるまま、椅子に座ると「先に夕食にしましょうね」と奥さんがテーブルの上に夕食を並べ始める。
俺の前に並べられたのは小振りの茶碗に盛られたご飯に豚汁、そして肉じゃがっぽい何かだ。俺は肉じゃがっぽいのを指して「これはもしかして」と奥さんに尋ねれば「本場の味に比べたらどうかとは思いますが……肉じゃがですよ」と答える。
「確かにジャガイモにタマネギ、それに白滝まで入っている。でも、この肉は牛肉っぽいけど……牛がいるのかな」
「あ~それはね、ブラックカウよ」
「ぶらっくかう?」
「そ、牛型の魔物よ。おいしいわよ」
奥さんに勧められ、肉じゃがが盛られた器を手に取り、牛肉っぽいなにかを箸で掴んで口に入れれば「うまい!」と思わず口に出る。
「ね、美味しいでしょ。冒険者ギルドから『いいお肉が入りました』って連絡があったからね。これは是非ヒロ君に食べてもらわないとって奮発したのよ」
「はぁ……でも、なんで?」
「だって、ヒロ君の子だもの」
「ぶっ……はい?」
「だから、ヒロ君の子が出来たの」
「へ?」
俺の頭の中にはなんでここまでと疑問符が一杯だけど、奥さんはニコニコして嬉しそうだから今は純粋に食事を楽しむことにした。
食事を終え奥さんに奮発した理由を聞けば奥さんは俺に食べさせてあげたいと思い、このお肉を用意したという。そして、その理由が『俺の子が出来たから』と言うじゃありませんか。いや、でもアレは未遂で終わったし、そういうことを致す前に止められたから、冤罪でしかないんだけど。
俺は『無実だから!』と奥さんを見てから村長を見れば、村長は黙って頷いている。
「いやいやいや、なんでそこで頷くかな。そこは否定するなり俺を責めるものじゃないの? なんで肯定するかな?」
「いや、確かにヒロの子だと俺も思っているからな」
「だから、なんでなん? 俺がそういうことをしてないのは知っているでしょ。そもそもそういう隙間もないくらいにべったりだったじゃない。なのになんで『俺の子』ってなるのさ」
「あ~それはな……」
村長が言うには、俺が仕出かしたことでなし崩し的に燃え上がった形にはなったけど、奥さんが言うには間違いなく授かった気がするらしい。だから、俺のおかげとなるのは分かるが、いくらなんでもそれが『俺の子』にはならないだろう。
村長と奥さんが一緒になってから十数年経つが、それなりにコトは致すものの子供を授かることはなかったらしい。だが、俺がしたことが元で燃え上がったのはいつものことだけど、その日は何かが違ったらしい。奥さん曰く「男には分からないわよ」らしい。
でも、流石に一日でそこまでハッキリ分かるものなのかと疑いたくなるが奥さんの嬉しそうな顔を見ると頭から否定することも出来ない。でも『俺の子』と言うのは止めて欲しいと頭を下げて頼めば「分かったわ」と納得してくれた。
「でも、ヒロ君のお陰だと言うのは間違いないの。だから、恩に感じることは受け入れてほしいの」
「俺からも頼む」
「……いや、でも」
「ホントなの! 母になった瞬間に分かったの!」
「いや、でも……」
「いいの! とにかく今の私のお腹の中には主人との子供がいるの。それは間違いないの。ヒロ君も思い当たることがあるんじゃないの?」
「なに! 俺の目が届かないところでお前は!」
「いや、勘弁してよ。二人はずっと一緒だったでしょ」
「あ、そうだな」
「そうよ、あなたってば……あんな「リノ!」……あら、ごめんなさい」
奥さんに言われ、俺が何か仕出かしてしまったのかと腕を組み考えてみる。だが、俺がしたことは魔力を通す為に少しだけ道幅を広げた拡幅工事を行ったようなものだ。
そんな風に考えてみると「もしかして」と少し思い当たることがあった。
「でもなぁ~」
「何か思い当たることがあったみたいね。でも、今は聞かないでおくわ」
「え? 知りたいんじゃないんですか?」
「そうね。知りたくはないとは言えないけど、でもヒロ君も確証がもてないでしょ。なら、これはこれでいいと思うの。多分だけど、ゴサックとハンナちゃんからも感謝されるわよ」
「あぁ~」
俺は昼間っから盛っていたゴサック達のことを思いだし、あれは間違いなく出来ているだろうなとほくそ笑む。
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