第26話 おしゃれは足下から
「いいけど、その前に俺の質問に答えてよ」
「質問……なんじゃったかな?」
「いや、だからさ……色んな単位の他に俺達客が齎した物がないのかってのと、獣人とか他の種族に対する禁忌とかだよ」
「おぉ、そうじゃったな。ワシから言えるのは……」
「言えるのは?」
「知らん」
「……はい?」
「じゃから、そんなに言われてもワシからしてみれば、どれがお前達客から齎されたものかと言われてもそんなん知らんし」
「そんなぁ~」
「じゃがな、他の種族に対する禁忌なら知っとるぞ」
「もう、それだけでもいいですから教えてください」
「なんじゃ、その態度は……もうちっとお年寄りを労ろうという気持ちがないのかのぉ」
「じゃあ、さっき俺に教えて欲しいって言ったのはナシでいいってこと?」
「ぐっ……それは欲しい。ああ、分かった。分かったから、お前もちゃんと教えるのじゃぞ」
「いいよ」
店主のお爺さんはそういうと俺に対し右手を差し出してくるので「ん?」と首を傾げれば「おいおい、お前らの世界では合意した場合はこうやって握手を交わすものだと聞いたんじゃが?」と言うので、俺は慌ててその右手を握り大袈裟に振って見せる。
「あ、ああ~握手ね。はいはい、これでいいよね」
「なんだかなげやりじゃのぉ、まあええ……」
お爺さんが言うには耳、腹、尻尾さえさわらない様にしておけば、まず問題ないということだった。他はセクハラに気を付ければいいということだった。
「へぇ~セクハラって単語が普通にあるんだね」
「おう、ワシが子どもの頃に伝わって来たぞ。なんでも自分がイヤなことをされたらそれがセクハラだとな」
「うわぁ~」
「ん? 違うのかの?」
「ん~大筋は合っているけど……一般的じゃないっていうか……いや、でも気持ち的には変わらないのかな。まあ、うん、された方の気持ち次第ってのは変わらないか。でも、お爺さんの子どもの頃にはもうあったってこと?」
「セクハラか?」
「うん、そう。お爺さんが二十代なら分からないでもないけど、多分……還暦は過ぎているよね」
「そうじゃな、白寿も近いぞ」
「そんなのまで伝わっているんだ。って、時系列が合わないんだけど……」
「世界を渡るのなら、そういうこともあるんじゃろうて。それよりもお前の番じゃぞ」
「あぁはいはい……」
俺は自分が欲しいとお爺さんに聞いたサンダルとスリッパについて説明しようと思ったが、言葉だけで説明するのはちょっと難しいかなと思い、鞄の中にメモ帳とペンを入れていたことを思い出す。
インベントリから鞄を取り出そうとしたところで、あ! と思い付く。
「もしもの為にこれも複製しといた方がいいよね」と考え、先ずは五セットを用意する。鞄の中の財布も複製されたことになるので、当然財布の中のお金も増えたことになるが、こちらでは使う予定もないし捕まえに来る人達もいないので気にしないことにする。
そうやって増やした鞄だけど、この場でインベントリから出すのは控えてポケットの中から出すフリでインベントリの鞄の中からメモ帳とペンだけを取り出す。
「じゃあ、絵で説明するね。えっと……離れてもらっても?」
「お前、それはなんじゃ!」
「何ってメモ帳とペンだけど?」
「おぉ~! これが噂に聞いた文具セットなるものじゃな」
「まあ、そうともいうけど……で、説明を始めてもいいのかな?」
「おぉ、そうじゃった、そうじゃった。お願いする」
「じゃあね……」
俺はメモ帳にスリッパとサンダルの絵を描き、お爺さんに説明する。
「……って、使い方なんだけど、どうかな?」
「まあ、どんな物かは分かったが、必要か?」
「うん、必要。絶対に必要だし、売れば爆売れ間違いないと思うよ」
「ホントかのぉ……」
お爺さんは俺が描いたスリッパとサンダルの絵と俺を交互に見ると疑わしい目で問い掛ける。
「いいから、いいから。試してもらえれば分かるから。でも、その為には先ず物がないと履き心地も何も説明出来ないでしょ。だからさ、パパッと作っちゃってよ」
「お前な、パパッと作れと簡単に言うが……」
お爺さんは腕を組み眉をしかめ難しそうな顔をしている。多分だけど、俺が描いた絵から必要な部材とか、裁断の方法とか工程を考えているのだろう。
「このサンダルなら、簡単だと思うんだけど。ほら、足形に合わせた板を靴底にして、後は細い革紐で結べばいいだけなんだし、ね?」
「ん~そう言われると……」
俺はお爺さんの好奇心を煽るためにも「ほら、簡単でしょ」と言いながらもみ手ですり寄れば、「お前の言う通り物がないことには話にならんのは事実じゃ。よし、作ってみるか」と両手で足をパンと叩いて立ち上がり「手伝って貰うぞ」と俺にニヤリと笑いかける。
「任せて」と俺はお爺さんの後から作業場の方へと足を踏み入れる。
そこは、色んな革や作業道具が並べられており、如何にも『ザ・工房』という雰囲気がある。
「へぇ凄いですね」
「ふふん、そうじゃろ。さて、先ずはお前の足の型を取るぞ」
「はい、お願いします」
それから、お爺さんに足の型を取って貰い材料を用意した後の作業は早かった。アッという間に俺用に作られた革サンダルが出来た。
「ま、こんな感じじゃ」
「おぉ、じゃあ早速……うん、いいよ!」
「そんなにか?」
「うん、ありがとうね」
「……」
俺は履いていたブーツから革サンダルに足を通せば、ブーツで蒸れていた足が一気に解放され爽快感を味わう。
そして、俺の喜びようからお爺さんは直ぐに自分用の革サンダルを作るとサッと履き「うん、いいものじゃな」と満更でもなさそうだ。
「じゃあ、次はスリッパをお願いね」
「爺ぃ使いが荒いヤツじゃのぉ~」
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