第23話 異世界の奪衣婆?
俺は冒険者ギルドでそんな騒動が起きているとは知らず、衣料品店と思われる店に「すみませ~ん」と扉を開けながら中に入ると「いらっしゃい」と奧から声がするので見れば、少しふくよかな中年女性と目が合う。
「おや、見かけない顔だね」
「はい、昨日この村に来ました」
「昨日……ああ! そうだよ、どこか見覚えがあると思ったら、ゴサックと言い合っていた人じゃないか。で、何用だい?」
「あ、えっと……」
俺は今は手持ちが全くないのでどんな衣服があるのかだけでも確認したいと正直に話せば、店主と思われる中年女性は俺を頭の天辺からつま先までを何度も往復させると「いいよ」と一言だけ告げると、「その替わり」と俺に向け右手人差し指を向け、「ソレと交換だね」と言う。
「はい?」
「あんた、客だろ。そんな格好だもの分かるわよ。ふふふ」
「えっと、ソレってのはコレのこと?」
「そうだよ。客が着ていた服なんて、ここら辺じゃ見かけない素材が使われているんだろ。それにシルエットも私が知っているのと全然違うし、いいねェ~」
「……」
「ま、そういう訳だから。ここにある物なら適当に選んでもアシが出ることはないから安心しな」
「はぁ……」
店主が「ほれ、選ぶのに邪魔だろ」と左手を差し出すが、俺はその左手の意味が分からず、とりあえず握ればいいかと握り返せば「あら、嬉しいじゃないって違うわよ!」と手を払われたので俺が首を傾げると店主は嘆息し「上着だよ、その上着を寄越しなって言ってんの!」と強めに言われた。
俺はスーツの上着を要求され、思わず身構えるが店主はまた嘆息し呆れた調子で言われたのは……
「あのね、これでも亭主がいるから、男は十分過ぎるほど足りているから。それにこんな形の私にも好みってのがあるさね。いいから、上を合わせたりするのに上着を着たままなら邪魔だろうから預かるって言ってんだよ。勘が鈍い子だね」
「あぁ……なら、最初からそう言えばいいのに」
「いいから、ほれ」
「はい、大事に扱ってよ」
「分かってるよ。ほぉ……なるほどなるほど……」
俺は着ていたスーツを脱いで店主に渡せば、店主は俺の手から引ったくるように奪い取ると一通り眺めると、裏返したりしながら縫製具合などを確認しているようだ。
「ほら、こっちはいいからアンタは自分が欲しい物を探すの!」
「あ、そうだった」
俺は店の中に陳列されているシャツやズボンを手に取り自分の体に合わせサイズを確認していると、店主から「気に入ったものはあったかい?」と声を掛けられた。
だが、気に入るもなにも色やデザインで選べるほど多様性もないので俺は生成りのシャツと深緑色のズボンを持ち「これで」と店主に渡す。
「うんうん、これなら……そうだね。ちょっとお待ち」と言って店の奥に行き、少しして「はい、お釣りだよ」と俺の手に硬貨を握らせる。
「え?」
「なんだい、少ないかい? 少ないって言われてもそれ以上は出せないよ。それにもうこの服は私のモノだよ」
「あ、いやそうじゃなくて……」
「じゃ、なんだい?」
「実は……」
俺は店主が言うように昨日、こっちに来たばかりの客でこっちの常識が全くの皆無であること、だから貨幣価値も全く分からないことを正直に話せば、「そういうことは早く言いなよ」と嘆息しながら「いいかい」と俺に説明しだす。
貨幣の単位は「イエン」で、
鉄貨一枚で一イエン
銅貨一枚で十イエン
銀貨一枚で千イエン
大銀貨一枚で一万イエン
金貨一枚で十万イエン
「……こんなところだね。貴族や商家なら大金貨や白金貨とかも手にする機会があるだろうけど、私達平民じゃ金貨がせいぜいだね」
「分かりました。で、お釣りが……七万九千イエン……え?」
「なんだい、やっぱり少ないのかい?」
「いや、そうじゃなくてお釣りでこれなら、元値がいくらなのか気になって」
「そういうことかい。お兄さんの服が上下で十万イエンだろ。そのシャツが五千イエン、ズボンが六千イエン、だから……お釣りが七万九千イエンだ」
「……」
「なんだい?」
「金額が合いませんけど?」
「え? 十万イエンから、五千イエンと六千イエンを引いて七万九千だろ? 合ってるじゃないか」
「いや、だから……七万九千イエンに一万千イエンを足しても九万イエンにしかなりませんけど……」
「え? あ、ホントだね。こりゃ、失礼」
「……」
「なんだい? 私を疑うのかい?」
「いいえ。ですが商売でお金を扱う人が、こんな単純な計算ミスをするのかと……思わなくもないですよ」
「チッ、意外と見てるね。ああ、そうだよ。だけどね言っちゃぁなんだけど、こんなことはしょっちゅうだからね。これを教訓にちょろまかされない様に注意するんだね」
「はい、ありがとうございます。で、どこで着替えればいいんですか?」
「は?」
「いや、だからですね。今、俺が着ている物を渡さないとダメですよね」
「ああ、そうだよ。渡さないなら盗人として捕まえてもらうさ。だから、早く寄越しなよ」
「いや、だからその場所を聞いてるんですけど?」
「はぁ? 何言ってんだい。誰もお兄さんの裸なんて興味がないから早くしておくれよ」
「……分かりました」
俺は『ここは異世界なんだから、前の世界の常識はないんだ』と自分に言い聞かせながらシャツのボタンを一つずつ外しながらシャツを脱げば、店主は直ぐにシャツを手に取り「コレも売るつもりはあるかい?」と聞いて来たので「いいですよ」と答えれば「ありがとね」と機嫌良さそうな顔になるが、今度は俺が肌着代わりにしているTシャツに目が釘付けになる。
「ちょっと……」
「あ、ごめんなさいね。おほほ……」
そしてズボンのベルトを外し、脱いだところで店主の目が今度はトランクスに注視しているのが分かる。
「ちょっと、止めて下さい!」
「ソレ見せて!」
「え?」
「いいから、見せなさい!」
「え、イヤです」
「大丈夫、大丈夫だから。天井のシミを数えているうちに終わるから、ね? いい子だから」
「いや、それも違うから!」
「とりあえず全部寄越せや!」
「えぇ!」
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