第22話 そうは問屋が……
ヒロが会議室から追い出されたのを見て「ヤルか?」と呟いた一人の冒険者に古参らしい冒険者が「まだだ」と引き留める。
「今なら、ミーもいないしアイツ一人だ」
「確かにな」
「だが、何も今すぐにヤル必要もないだろ」
「だから、なんでだよ!」
「落ち着け! アイツは冒険者ギルド出張所で冒険者登録を済ませたよな」
「ああ、そうだな。だから、それがなんだ?」
「ってことはだ、アイツはまだ『(仮)』の状態だ」
「まあ、そうだな。それで何が言いたい」
「いいか、俺達は冒険者だ」
「ああ、分かっているさ」
「で、アイツも登録を済ませたとは言え冒険者『(仮)』だ」
「あ~もうだからなんだよ! 早くヤッちまおうぜ!」
「はぁ~だからな、何度も言うがアイツは『(仮)』だ」
「だから、それは分かったって!」
「い~や、ちっとも分かっていない。いいか? 『(仮)』ってことはだ、冒険者でもなく一般人でもない中途半端な立場なんだよ」
「だから、それがどうしたんだって言ってるんだよ! 関係ないだろうが!」
「ったく、ちょっとは頭を冷やせ。いいか、俺達冒険者ギルドに所属している冒険者が一般人に暴力を振るったら問題になるだろうが!」
「……でも、アイツは」
「だから、さっきからしつこく『(仮)』だと言っているだろうが! そんな状態で皆でよってたかってフクロになんかしたら、絶対ミーに嫌われるぞ」
「それは困る! どうすんだよ! アイツもやれない、ヤッたらミーに嫌われるじゃ、八方塞がりじゃないか!」
「だから、落ち着けと言っている」
「また、それかよ……」
「いいか、アイツだって『(仮)』のままじゃ、冒険者を続けることは出来ない。いつかは『(仮)』じゃなく正式登録する必要があるんだ。俺達はそれをジッと待ってればいいだけの話だ。分かったか?」
「「「なるほど!」」」
ヒロとミーのやり取りを見た時から憤っていた若者が古参からの説明に納得した様子を見せると、周りにいた他の冒険者も得心がいった顔になる。
彼らが言うようにヒロは『(仮)』を外す必要があるため、どこかの冒険者ギルドで本登録を済ませる必要がある。だが、その後にこの村に戻ってくる可能性が皆無であることまでは知らない。
「くくく、何も知らずにアイツが帰って来るのが楽しみだな!」
「ああ、その時は冒険者の先輩として特訓してやろうじゃないか!」
「そうだな。それこそ手取り足取り組んず解れつ……ジュルッ」
「「「……」」」
そんな風にヒロのこれからのことを勝手に決めつけていた冒険者達の横をミーが通り過ぎようとしたところで先程の若い冒険者が声を掛ける。
「ミ、ミーさん……よ、よければ、一緒にどうですか?」
「あら、ふふふ。ありがとうございます。ですが、少しばかり急ぎの用がありますので今日は失礼しますね」
「ミーさん、さっきの男は大丈夫だったんですか?」
「さっきの? ああ、ヒロ様ですね。ええ、大丈夫ですよ。あ、そうだ! ついでに皆様にお伝えしておきたいことがあります」
「「「……ゴクリ」」」
若い冒険者に呼び止められたミーはどこか気が急いている様子を見せるが、いつもの様に和やかな雰囲気で応対する。そしてヒロから何もされなかったかと心配する様子を見せれば、ミーは何かを思いだしたように皆に告げることがあると言うので、一緒に聞いていた冒険者達は「ひょっとしたら、俺に告白かも……」と淡い期待を胸に持ち思わず生唾を飲み込みミーの次の言葉を聞き逃すまいと前のめりになったところで、ミーが言った言葉に自分の耳を疑う。
「ちょ、ちょっと待って! 今、耳掃除するから!」
「おい、俺の耳あるよな?」
「あるぞ。俺の耳はどうだ?」
「……ある。なら、今のは」
「皆さん、どうしました?」
「「「……」」」
集まっている冒険者達全員が自分の耳がちゃんとあるか疑ってみるが、互いに確認してもちゃんとあるし、もちろん声や音もちゃんと聞こえる。そしてそれが分かるとさっきミーが言ったことが本当なのかともう一度確認するしかない。
「ミーさん、さっきの話は本当なのか?」
「ええ、本当ですよ。いい機会ですし」
「「「いやいやいや!」」」
「ここ以外ならどこでも良いからって転属願いを出していたんですけど、いつも無視されていたので私も思いきって辞めることにしたんです。今まで本当にありがとうございました。では、私は引っ越しの準備をしないといけないので、これで失礼しますね」
ミーは冒険者達に綺麗なお辞儀をして、その場を立ち去るがミーが顔を上げても冒険者達は誰も反応しない。ミーはそんな様子に「まあ、挨拶は済ませましたし」と踵を返せば「逃がしませんから」と家路を急ぐ。
しばらくしてチッパーが会議室から出て目にしたのは、その場に立ち尽くし呆然としている冒険者達の姿だった。
チッパーは妙なことがあるものだと、そんな様子を気にすることなく「こんなことに気を取られている場合じゃない」と、冒険者達の横を通り過ぎようとしたところで、一人の冒険者に腕を掴まれる。
「え、なに?」
「チッパー、聞きたいことがある」
「な、なによ」
「あんたは胸は薄いが情には厚いと、ここにいる皆がそう思っている」
「そう……って、ちっとも褒めてないじゃない!」
「そんなあんたに確かめたいことがある」
「スルーですか……もう、いいわよ。で、なに?」
「今、ミーが冒険者ギルドを辞めると言ったが、本当か?」
「……」
チッパーは内心「しまった。先を越された!」と思ったが、顔には出さずに「そうみたいね」と答えれば、冒険者は掴んでいたチッパーの腕に力を込める。
「い、痛ッ! なによ! 離しなさいよ!」
「まさか、アンタがいびって辞めさせるんじゃ……」
「はぁ? 何言ってんの。んなワケないでしょ!」
「そうか……」
「ねえ、納得したならそろそろ離してくれない? 私も急ぎの用があるんだけど?」
「ん? まだギルドを閉める時間じゃないだろ? まさか、お前も……」
「い、痛ッ……だから、痛いって!」
「おい、誰か使いに行って来い!」
チッパーを掴んだままの冒険者はミーに続いてチッパーまで冒険者ギルドを急いで出ようとすることに対し不安を感じ、他の冒険者に用事を頼めば一人の冒険者が「使いですか?」と前に出る。
「ああ、そうだ。用件は……そうだな。『チッパーが業務を放棄して逃走の恐れあり』だ」
「はい、分かりました! じゃ、急いで領都の冒険者ギルドまで行って来ます!」
「おう、頼んだ。依頼料は後払いで頼むな」
「はい、分かりました!」
「え……ちょ、ちょっと、何を勝手に「勝手にだぁ?」……ひっ」
チッパーは腕を掴んでいる冒険者に勝手に犯罪者扱いされていることに腹を立て、文句を言おうとするが冒険者に凄まれ怯えてしまう。
「ミーに続いてお前までいなくなったら、ここはどうなるんだ?」
「……さあ」
「さあって……お前なぁここの受付はお前とミーの二人だけだよな」
「……はい」
「なら、その二人がいなくなれば誰が受付業務をするんだ?」
「……さあ」
「いないよな。確かに他のギルド職員はいるにはいるが、事務作業出来るのはいないと思うが、どうだ?」
「……その通りですね」
「そんな受付でもお前は普段からサボり気味でミーにばかり押し付けていた様にも見えていた。ミーはそんな職場に嫌気がさして出て行ったんじゃないかと俺は……俺達は思っている。もっと、早く相談してくれれば……こんなの始末するのは苦でもないのに……くっ」
「え? いやいやいや、なんで私が虐めたことになってるの? そりゃ、確かにちょっとはサボり気味だったのは認めるけど、虐めたりはしてないからね!」
「フン! そんなことは今更、どうでもいい! お前は冒険者ギルドの使いが来るまでは、ここに軟禁だ!」
「えぇ……」
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