第21話 そして誰もいなくなる
~ヒロが出て行った後の会議室では~
「で、どうなの?」
「なにがですか?」
「なにがって、さっきの男よ。あなたがなんの理由もなく親切にするなんてねぇ」
「失礼ですね、私だってそういう時くらいありますから」
「ふ~ん、それはいいから。で、どうなのよ」
「ふふふ、知りたいですか?」
「いいから、教えなさいよ。あんな失礼なヤツでも何か一つくらいはあるんでしょ。早く教えなさいよ」
「えぇ~もうチッパーは最悪な出会いしたんですから、もうムリだと思いますわよ。それに……ねぇ」
ミーは絡んでくるチッパーを軽く遇いながら、自分とは違い過ぎる控え目な部分に視線を向ければ、チッパーもミーの視線を感じながらも反論してみる。
「くっ……いいの! 少しくらいはここからいくらでも挽回出来るわよ!」
「少しくらい……ホント、少しですね。ふふふ」
「ミー、まだ酔ってるの?」
「そう、そこなんですよ! ヒロ様がそんじょそこらの単なる粗野な男とは違う理由は!」
「だから、そういうのを教えなさいって言ってるでしょ!」
「ふふふ、チッパーはヒロ様を見て気付かなかったのですか?」
「何がよ。単なるスケベそうな若い男だってことくらいでしょ」
「チッチッチッ、甘いですわ」
「え? どゆこと?」
ミーは顔の前で右手人差し指を振りながら、チッパーに話し出す。
「まず、ヒロ様は黒髪です」
「そう……だったかな?」
「瞳も黒です」
「そんなの分からないわよ!」
「肌は白でも黒でもありません」
「そんなの顔しか出てないから分からないじゃない」
「まだ、分かりませんか。では、ヒロ様が着ていた服を見てどう思いましたか?」
「どうって……まあ、確かにこの辺では見かけない格好だわね」
「では、靴はどうですか?」
「だから、そんなに見てないんだって! もう何を言いたいのよ!」
「ここまで言っても分からないってのも問題ですね。相手を観察するのが基本の冒険者ギルドの受付嬢としては問題ですよ」
「いいの! 私は優良物件を見付けるまでの腰掛けなんだから!」
「チッパー、そういう如何にも『狙ってます』というあからさまな態度が引かれていると前にも忠告しましたよ?」
「そんなの忘れたわよ! で、どうなの?」
「はぁ~」
ミーはこれだけのヒントを与えてもヒロが何者なのかというよりもミーが気に入る優良物件の内容に興味があるようだ。ミーは、だからこそヒロに対する興味をもった方がいいのにと嘆息しつつチッパーに対し「ヒロ様は客です」と話す。
「え? ウソ」
「ウソもなにもヒントはあちこちにありましたよ。客にありがちな黒髪黒瞳、高すぎない身長に白とも黒でもない中途半端な肌色、それに見かけない格好をしていましたし、属性魔法の派生かも知れませんが、平民どころか貴族ですら使える人がいるかどうかと思われるスキルも使っていました。それに決め手は……」
「決め手は?」
ミーの語りにチッパーも最初は「あんな奴」と反論しようと思ったが、まだ酔っているのかどこか熱っぽく語るミーの表情と『客』という単語が発せられたことで『ゴクリ』と思わず生唾を呑み込む。
そして、ミーは「ヒロ様の決め手は」と一旦、話を区切れば、何かを思いだしたのか自分の身をギュッと抱きしめ「あなたも抱かれれば分かります」と言って天井を見上げポ~ッと顔を赤らめる。
「ミー、アイツになにされたの?」
「え? ヒロ様には何もされてませんよ。まあ、手を出してもらった方が私としては都合がよかったのですが……」
「え?」
「あ、いえ。なんでもありません」
「じゃあ、誰に抱かれたの? さっきはアイツ以外に誰もいなかったじゃない」
「いましたよ」
「え?」
「セツちゃんが……うふふ。あ~もう一度抱きしめたいわ。セツちゃん!」
「……は?」
チッパーはミーが何に対し思いを寄せているのかは分からないが、ヒロに対しては特別な思い入れはないと判断し「じゃあ、私が手を出しても問題ないわよね」と断りを入れるが、ミーは首を横に傾けキョトンとする。
「なによ! ミーは興味ないんでしょ。なら、問題ないわよね」
「いいえ、ありますよ」
「なんで?」
「だって、セツちゃんはヒロ様の従魔です。だから、セツちゃんを手に入れる為にはヒロ様と仲良くならないとダメなんです。それに……」
「なによ、まだ何かあるの?」
「いえ、コレばかりはチッパーと言えど、ヒロ様の個人情報なので話す訳にはいきません!」
「えぇ! さっきまで好き勝手に個人情報なんかダダ漏れだったじゃない」
「そうですね。ですが、ヒロ様が客だというのは、すぐに広まる話なので問題はないと判断しました」
「じゃあ、いいじゃない」
「いいえ。あくまでも客として王都に招聘されるので、それは大々的に宣伝されることでしょうから問題ないというだけです」
「じゃあ、アイツの個人的なことは私にも教えてくれないの?」
「はい」
「なんでよ!」
「だって、私はヒロ様に着いて行くので」
「はい?」
「あ、こうしてはいられませんね。領主からのお迎えが早ければ明後日には来るかもと言ってました。私も急いで準備しないと!」
「え、ちょ、ちょっと待ちなさいよ! どゆことよ、ねえ」
「あら、もうお話は終わりましたよ。あ、そうですね。私は冒険者ギルドを辞めます。そしてヒロ様に着いて行きますので、後のことはお任せしますね」
「え? ウソでしょ」
「いえ、ウソではありません。今、決めました。やはり、あの方を逃がすのはセツちゃんのことを除いても得策ではありませんので。では、そういうことで準備がありますので失礼します」
「え、ちょ……えぇ!」
ミーはセツをどうにかしてと考えていたが、セツを手に入れる為にヒロをどうにかするべきだということに気付く。そしてヒロの客という特性もこのまま見捨てるには勿体ないと気付き、ヒロに同行することを決意した。
会議室に残されたチッパーはミーが出て行った会議室の扉を黙って見ていたが、ミーが冒険者ギルドを辞めると言ったことを反芻し、これからのことを考えて頭を抱えてしまう。
「え~ちょっと待ってよ、ミーが辞めるってマジ? いや、マジよね。大体、あの子は思い込んだら突っ走る性格だから……戻って来ることは期待しない方がいいわよね。じゃあ、ここは私一人になるの? じゃあ、私の天下ってこと? いくらでもやり放題ってこと? そうか……私の天下か……ふはは! 『ひれ伏せよ!』って、ダメじゃん! 大部分をミーが仕切っていたのに私一人残されてもダメじゃん!」
チッパーはその場で頭を抱えて蹲るが、少しして「そうだ!」と立ち上がる。
「ミーが勝手にするんなら、私も勝手にしていいわよね。それにミーより先に動けば、ミーは……ふふふ……ははは! 見てなさい! 私は絶対巨乳になるんだから! って、違ぁう!」
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