第65話 切実なる願い
俺の目の前でリーアさん達……そして、先輩までがちゃっかりと消えた。
そして呆然としていた俺の両肩には王様と何故か涙ぐんでいる伯爵の手が添えられていた。
「えっと……」
「ほ、本当に期待していいんだよな! な!」
「え?」
「今更、ナシは止めてくれよ! 本当に信じていいんだよな!」
「えっと……話がよく見えないんですけど?」
「あ……」
咄嗟に俺から提案したこととは言え、馬車の乗り心地を改善可能となれば普段から馬車移動が欠かせない王様が強く懇願するのは分かる。今も俺の肩に手を載せたままだが、伯爵の方は俺の肩から手を離すと正面に回り俺の手を両手でガッシリと握り『信じていいんだな』と懇願するように俺を見据える。
「正直、痛いんですけど……」
「あ! も、申し訳ない! だ。だが、本当に大丈夫なんだよな? 信じてもいいんだよな?」
「はい?」
「ジャミア伯よ。それではヒロ殿も困惑するばかりだろ。ちゃんと話した方がいいと思うんだが「陛下!」……ま、確かに話しづらいことではあるか。よし、ここは私達だけにしてもらえるかな」
俺の両手を痛いぐらいに握っていた伯爵が手を離すと同時に王様が伯爵に対し、なぜそこまで乗り心地に対し切望するのかをちゃんと話した方がいいのではと提案し、回りに控えているメイドや衛士に対し人払いを頼むと、それぞれが会釈をし全員が退室したのを確認した王様が「よし!」と頷き、伯爵に対し促すように微笑む。
それを見た伯爵も周囲に人がいないことを改めて確認し、覚悟を決めたように固唾を呑むと俺に対し「実は……」と重い口を開く。
伯爵の独白を聞いた俺は「え! そんなこと!」と思わず言ってしまったが、当の伯爵は「そんなこととはなんだ!」とお冠だ。しかも「私も好きでこんな話をした訳ではない! だが……陛下がそれではヒロ殿が納得しないだろうと言うから……」と俯く。
そしてそんな二人をニヤニヤしながら見ていた王様は「まあ、そういうことだ」と話を締めくくろうとするが伯爵は顔を上げると口角の端を上げニヤリとし「陛下も他人事ではないでしょ?」と徐に爆弾を投下する。
「な、何をいう! わ、私がその様「ウソはいけません!」な……うぐっ」
「と、いうことです。ヒロ殿、馬車の乗り心地の改善に期待するしかないのだよ!」
「……まあ、話は分かりましたが、別にクッションを用意するなり対処法はいくらでもあるのではないですか?」
「「ない!」」
「え?」
「それぐらいのこと、我々が試していないとでも?」
「いくら、クッションを使おうとも馬車での長距離移動となればクッションもくたびれてしまい移動半ばで使い物にならなくなる」
「なら「あ~そう、ヒロ殿が考えているであろう予備のクッションを用意することも考えたことがないとは言わない。だが、長距離移動ともなればなるべく荷物を減らし、必要最低限の物にすることが大前提となる。いくら、私の身を守るためとはいえ、たかが尻ごときで荷物を増やす様な我が儘は言えない。分かってくれ……」
そんな伯爵は俺の両手をグッと握り直すと俺の顔を見ながら「どうかこの通り」と頭を下げる。
俺はそんな伯爵に対し、分かりましたからと言えば伯爵はバッと顔を上げ「本当か!」と更にグッと顔を近付けてくる。
俺はそんな伯爵をなんとか手で制しながら、とりあえず手を離して下さいとお願いし、なんとか了承してもらうと同時に伯爵を落ち着かせる。
そして王様に対し「そういう訳なのでナルハヤで腕利きの鍛冶師を用意して下さい」とお願いすれば「そ、そうだな。私も他人事ではないし……あ、いや。今のは忘れてくれ。そういうことだ。頼むぞ」と扉の向こうに声を掛ければ『承りました』と返事が聞こえた。
なら、これで用件は終わったかなと「では」と言いかけたところで再度、肩をガシッと掴まれ「え?」と振り返ると王様が凄い笑顔でニコニコしながら「どこへ行くつもりだ?」と問われたので素直にベネの所に行くつもりだと答えれば「よろしい」と言って王様が頷く。
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