第64話 置いてけぼりですか
う~ん、どうしたものかと腕組みして考えていると先輩が俺の肩をトントンと突く。
「なんですか?」
「何を悩んでいるのかな~と思って」
「いや、何を悩むって……そりゃ、いきなりなんとかしてくれと言われても俺はそこまで技術チートとか出来ないしと思って」
「え? そんなこと」
「そんなことって言いますけど、俺は免許は持っていますけどどうやって車が動いているのかまでは知らないですから」
「どうやってって、そりゃエンジンでしょ」
先輩がフフンとそんなの私だって知っているわよと鼻息荒く言うが、俺だってそのくらいは知っている。
だけど、問題はそこじゃない。
「いや、いくらなんでもそれくらいは知っていますって! ただ、問題はどうやってそのエンジンを動かすのか仕組みが分からないってことです。ウララだって仕組みまでは知らないでしょ?」
「えっと……確か……ガソリンが必要で……」
「はい。俺と同じかそれ以下ってことですね」
「で、でもヒロにはアレがあるじゃない」
「アレ?」
「アレよ、アレ!」
「え?」
「もう!」
先輩の言葉にピンと来ない俺に業を煮やしたのか先輩がポケットから取り出そうとした物を見て俺は慌てて、それを止めさせる。
「ウララ、ソレはダメです!」
「え? どうして?」
俺はスマホを取り出そうとした先輩を慌てて止めると先輩は俺の顔を不思議そうに見る。
「なんでダメなの?」
「こんな場所でそんな危ないモノを出したらダメじゃないですか!」
「危ないモノ? なんで? 爆発なんてしないよ? バッテリーも純正品だし」
「ハァ~そうじゃなくて……あぁ! もう、いいから! そんなの出したら、もうこの場所から一歩も外に出られなくなりますよ」
「そんな、大袈裟なぁ~……って、マジ?」
俺がスマホを出さないように言うと先輩はそんな大袈裟なとマジメに取り合わなかったが、俺が表情を崩さないことから、心配になったのか小声でマジ? と聞き返すので俺は黙って頷く。
「でもさ、それはちょっと大袈裟すぎない?」
「ホントにそう思うのなら、俺は止めません。どうぞご自由に」
「……」
それでも先輩はまだそんな大したことじゃないと、またスマホを出そうとしているが俺の言葉が覆らないことにそっとポケットから手を出す。
「ねえ、どうしてそう思うの?」
「では、逆に聞きますがソレをこっちの人達が使えると思いますか?」
「……最初は無理だろうけど慣れれば使えるでしょ?」
「じゃ、ソレが地球と繋がるのはどういう状況か覚えていますか?」
「それは……あ!」
「思い出しましたか……」
「うん。ごめん……」
先輩はスマホを使えば色んな情報を得ることが出来るからと王様の要求に応えられるでしょと言いたかったらしいのだが、そんなことを公表すれば国宝扱いの教科書以上の扱いを受けるだろうことは間違いないし、それを扱える俺達は益々自由がなくなるだろう。
それにこのスマホは俺が側にいないとアンテナが立たないから、俺が離れてしまうと使えない。
そうなると俺はこの国から出られなくなる。
せっかくの異世界を楽しみたい俺には迷惑でしかない。
「分かってくれたなら、それでいいです」
「でも……せめて馬車の乗り心地くらいなら……」
「まあ、それくらいなら「本当か!」……え?」
俺の説明を受け入れてくれた先輩は納得したようだけど、せめて馬車の乗り心地くらいはよくならないかと先輩が縋ってくる。
俺もそんなには乗らないが、確かにお尻が痛いのは確かだ。
じゃぁ、それくらいならなんとか自分の知識で出来るかなと答えると、背後から「本当か!」と肩をガシッと掴まれたので、ちょっと痛いんだけどと振り向けば、そこには王様が期待の眼差しで俺をジッと見ていた。
俺はその様子に「あれ? もしかして今までの会話も聞かれていたのかな?」と不安になったけど、スマホって単語なんて何か分からないだろうし取り敢えずはセーフかなと思っていたら王様が俺を強引に振り向かせ「それで本当に馬車の乗り心地は改善されるのか!」と改めて聞いて来た。
俺はコレも一つの『異世界あるある』かなと考え、頭の中では板バネと懸架式ならなんとかなるだろうと王様に「はい、多分ですけど」と答えれば「そうか!」と今度は両手をガッシリと握られたままブンブンと振られる。
だが、王様は握ったままブンブンと振っていた手を止めると「だが、いくら馬車の乗り心地がよくなろうとも長距離移動には……」と、また俺に期待の目を向けてきた。
俺は王様の手をゆっくりと離すと「こういうのは一気に進めるのはよくありません。一つずつゆっくりとです」と尤もらしく話せば王様も「そうか……それもそうだな」とウンウンと頷く。
「で、それはいつ完成するのだ?」
「え? いつって言われても……」
「いつなのだ!」
「えっと……」
王様から問い詰められた俺は「少々、お待ちを」と声を掛け、ノートとボールペンを取り出し、板バネと懸架式の馬車の仕組みの概要図を書いて王様に渡す。
「これは?」
「これが今の俺に出来る精一杯です。コレを元に馬車の職人なりに試作品を作成を依頼して下さい」
「ふむ、そうだな。分かった。職人に任せよう」
「お願いします。では「待て」……え?」
「どこへ行く。まだ話は終わっていない」
「えぇ~」
王様に馬車の改良案を手渡し、その場から去ろうとしたところで王様からまだ話は終わっていないと引き留められる。
「ヒロさん。長くなりそうだから、私達はベネの所に先に行ってますね」
「まあ、頑張れな」
「迎えには来るのじゃろ?」
「え? ウチのところって……え? どうやって?」
「それは……」
「あぁ! そうなん! じゃ、ウチに捕まって!」
「あ……」
リーアさんは俺が捕まったのを見て、待ちきれないとばかりに先に行くと宣言し、ガルちゃん達もそれに同意するが、行き先に指定されたベネはどうやって行けばいいのか分からず困惑するがリーアさんがそっと耳打ちしたことで納得出来たのか皆を自分の周囲に集めサクッと転移していった。
そして、ちゃっかり先輩も……。
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