第52話 何もかもが無毛
朝になりベッドの上で起き上がり昨夜の出来事を思い出す。
「まさか、生えてないとはね」
「何がまさかなのですか?」
「何って、ルリの……って、なんでいるんですか!」
「おはようございます。ヒロさん」
「おはようございます。リーアさん……じゃなくて……ハァ~もういいです」
「で、何がまさかなのですか?」
「……なんでもないです。それより、着替えたいのですけど……」
「はい、お手伝いします」
「そうじゃなくて……」
「はい?」
「……もう、いいです」
「いいのですか?」
目覚めて、すぐに脳裏に焼き付けられた昨夜の出来事が思い出され、独り言ちていたところで、リーアさんから質問された。
寝起きとは言え、言ってはいけないことだと言うのを分かっている為か、その質問には答えずに何故リーアさんがここにいるのかと逆に質問したが、それも今さらかと出掛かった言葉を呑み込む。
リーアさんに手伝ってもらいながら、着替えを済ませ食堂へと向かえばそこには既に先輩、ガルちゃん、ルリにオジーといつものメンバーが勢揃いしていた。
「おう、遅かったな」
「……昨夜、必要以上に疲れたみたいでね」
「そうか。ま、身体は大事にしないとな」
「ったく誰のせいで……」
「わはは、そう怒るなよ。お陰でいいもの見れただろ?」
「……」
ガルちゃんが言ういいものとは言うまでもなくルリのことだろう。
何も知らされることなく風呂場までワクワクしながら着いて来たはいいが、俺も一緒だとは聞いていないと踵を返そうとしたところで、リーアさんとガルちゃんに観念しなさいと捕獲された状態で衣服を剥ぎ取られ、浴場へと放り出されたのだ。
そのせいかルリは俺の方を見ないように顔を背けているのだが、ガルちゃんはそれに気付くと「もう生えたか?」とルリを揶揄えば「そんな直ぐに生えるか!」と怒鳴り返す。
ルリの隣に座っている先輩は二人が何を言い合っているのか分からずキョトンとしているが、ルリに「其方が気にすることではない」と言われれば、これ以上話を掘り下げることも出来ずに俺に口パクで「セツメイヨロ」と訴える。
そんなこんなで朝食を済ませ、自室へと戻れば後からいつものメンバーであるリーアさん、ガルちゃん、オジーが着いてくる。
そして新たなメンバーとしてルリもそこにいた。
「今日は四本目の世界樹へと行くのであろう?」
「うん、そのつもりだけど……ひょっとして着いてくるの?」
「うむ、そのつもりじゃ」
「でも……」
俺はチラリとリーアさん達の方を見れば、リーアさんは微笑み、ガルちゃんは頷いている。
「じゃ「ちょっと、置いてかないでよ!」……えぇ~」
ルリの参加は既に了承済みと言うことで、ルリのいた世界樹へと転移しようとしたところで扉が開かれ先輩が飛び込んできた。
「いや、でもウララはダメでしょ」
「ぐ……だ、大丈夫よ!」
「何が大丈夫ですか!」
「あ……」
扉を開くと同時に先輩が置いて行かないでと叫ぶが、昨日の奥様の様子から先輩が参加するのは絶対にマズいと俺の頭の中で警鐘が鳴り響く。
それでも先輩は大丈夫だからと訴えるが、その訴えも虚しく先輩の後ろで奥様が腕組みをしたまま「仕事を放ってどこへ行くつもりですか」と先輩を睨み付ければ、後に控えていたであろういつもの二人……セシルとユリアに目配せすると二人は流れるように先輩の両腕をガッシリとホールドし奥様に頷けば、奥様も黙って頷き「では、お騒がせしました」と優雅な仕草でお辞儀をすると先輩を連れ部屋から出ていく。
「あれも日常になるのでしょうか?」
「ん~どうでしょうね。それよりもさっさと行きましょうか。時間的には向こうはまだ夜でしょうから」
「お、時差ってヤツだな」
「些か、信じられないのじゃが……」
リーアさんの質問を軽く流し、俺は何もない内にさっさと出発しようと提案すれば、ガルちゃん、ルリも俺の側に寄ってくる。
最後にオジーを迎えれば、準備は万端なので俺は昨日の場所へと転移する。
「ふむ、確かにまだ暗いのじゃな」
「部屋の中じゃ分からなかったが、ホントに真逆なんだな」
「ずっと自分の世界に篭もっていては分からなかったことでしょうね」
転移した後にルリ、ガルちゃん、リーアさんがそれぞれが感想を言い、俺も枝の上から里の様子を窺えば、灯りがボンヤリと見える程度で暗かった。
「で、ここからはどうするのじゃ?」
「こうする」
「へ?」
俺はいつもの様に空間を固定し移動すれば、リーアさん、ガルちゃん、オジーは直ぐに俺と同じ様に結界の上へと飛び乗るが、ルリは何をしているのか分からずにオロオロしてる。
「どうした? 来ないなら置いていくぞ」
「お、お主ら……何をしたのじゃ?」
「何って……はは~ん、そうかお前、怖いんだな?」
「ば、バカを申せ! わ、妾が怖がるなぞ……」
「なら、早く来いよ。ほら、怖くねえんだろ?」
「くっ……」
なかなか乗り込まないルリに対しガルちゃんが揶揄い始めるが、ルリの足はすくんでしまったのか、そこからなかなか動き出そうとしない。
ルリは服の裾をギュッと握りしめ、何とか足を進めようとするが、ソロ~ッと足を持ち上げては引っ込めるという動作を繰り返すばかりでなかなか、その先へと進めずにいる。
「おいおい、早くしねえと生えちまうぞ!」
「生えるか! っていうか、関係ないのじゃ! えぇ~い、とう! ど、どうじゃ!」
「はいはい、よく出来ました。えらいえらい」
「ば、バカにするでない!」
「はいはい、そういうのは生えそろってからにしようねぇ」
「く……悔しいのじゃ」
「もう、いいかな?」
「はぁ……構いません。出して下さい」
いつまでも躊躇しているルリをガルちゃんが揶揄えばそれに発憤したのかようやっとルリが乗り込んで来たので、出発していいのかと確認すればリーアさんが嘆息しながら行きましょうと言う。
これは無毛な争い……いや、不毛な争いか。
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