第46話 そんなお約束
「えっと、ルリ様?」
「妾はなんなのじゃ……」
「「はい?」」
ライオを優しく抱き起こし介抱しているエルザの元にいつの間にかルリが近寄りえぐっえぐっと涙を堪えて二人に問い掛けるが、問われた二人もルリが何を言いたいのか分からずに困惑する。
「そういうのは、この最強統一トーナメントが終わってから妾のいないところでするのが約束だったハズじゃ!」
「「あ……」」
「妾だって……分かっていたのじゃ。じゃが、夢くらい見てもいいじゃろ……いつか、妾よりも強い王子様が白馬に乗って迎えに来てくれると……なのに……なのに……うわぁぁぁ~~~ん!」
「「「……」」」
ルリの独白から察するにルリへの挑戦は本気だったとしても勝ったらルリを娶ると言うのは単なる戯れ言でしかなかった。
これは俺の推測になるのだが「妾を娶るには妾より強い男だけなのじゃ!」と言い放ち、ならばと里の者達が『ルリ様にふさわしい最強王者は誰だ!』となったのではないかと。
だが、守人であるルリに勝つには、いくら力に自信がある獣人とは言え勝つことは難しいと悟り、いつの間にか挑戦権を得るために戦うのが成人の儀式となってしまったのではないかと思う。
そしてそんな俺の推測を裏付けるかの様に一人の老いた獣人がルリに近付き「ルリ様、その辺で許してもらえないでしょうか」と声を掛け「元はルリ様のワガママに付き合ったのが起源と聞いております故」と言う。
「長よ、妾はそんなことは知らぬのじゃ!」
「ふはは。まあ、かく言うワシも先々先祖の代から申し伝えを聞くばかりで確証はありませんが、元々はルリ様が『妾の夫になりたければ妾より強いのが条件じゃ』と触れ回ったからと聞いております」
「そ、そんな昔の話は知らぬのじゃ!」
「まあ、そうでしょうな。ですが、この里……いや、今は国ですな。この国の若者ならば、一度ならずともルリ様に憧れ、いつかはと夢に見る者も少なからずいるのも事実」
「うむ。それはそうじゃろ。妾はこんなにプリチーなのじゃからな」
「ですが、いくら国一番の最強の猛者でも守人であるルリ様に勝つのは到底ムリというものです」
「そ、それは其方達の努力が足りないだけなのじゃ」
「……はい。最初はそう考えていたようですが、やはり俗世間に生きる我々の力では守人たるルリ様に勝つのはムリだという結論に達するのはそう長くはありませんでした。ですから……」
長が言うにはルリへの挑戦権はそのまま国としてのイベントとして続けることにしたはいいが、肝心のルリに勝てることはハナからムリだと納得しているのであくまでもルリと戦ったという事実のみが重要視されることとなり、最強トーナメントに参加するのが成人への通過儀礼として重要視される様になるが、先程のライオとエルザの様にお互いが好き合っていても家族などの反対から、婚姻が難しい場合には「ならば、ルリ様への挑戦権を得よ」と言われるらしい。
ルリ自身もそれは薄々気付いていたらしく、だからさっきのお約束なのかと納得出来る。
だが、ライオがルリに投げ飛ばされたことで我慢出来ずにエルザが駆け寄ったことで、ルリに挑戦し敗れて演舞場を去ってから、想われ人に介抱され恋を成就するという今までの約束が足蹴にされてしまい、それを直視したルリが涙目になることになったのだ。
「まあ、そういう訳なのでこの若い二人を諫める様なことは「イヤじゃ!」……え?」
「「え?」」
長が良い感じに話しをまとめようとしていたが、ルリはそれに対しイヤと言い、長だけでなくライオとエルザも驚く。
「る、ルリ様?」
「イヤなものはイヤなのじゃ!」
「ですが、ルリ様……ルリ様がイヤとなればこの二人は……」
「知らないのじゃ!」
「「「えぇ!」」」
イヤだイヤだと首を横に振るばかりのルリのご機嫌をなんとか取り成そうと長が気を揉むが、ルリはイヤだと言うばかりだ。
「ヒロさん。このままでは……」
「ああ、そうだな。さすがにヒドすぎるな」
「せっかく幸せになりそうだったのに……」
ルリの心情も分からなくはないが、俺もそうだがリーアさん、ガルちゃん、先輩も「そりゃないぜ」というのが本音だろう。
「ヒロさん、なんとかなりませんか?」
「そうだぜ。ありゃ、どう見てもアイツのワガママだろう」
「でも、ルリの気持ちを考えると……」
今にも大声を上げて泣き出しそうなルリちゃんと、そんなルリちゃんを当て馬にしてしまったという罪悪感に苛まれているライオとエルザに長に対しリーアさん、ガルちゃん、先輩が俺になんとかしろと要求してくる。
そんな皆の要求に俺は嘆息しつつも先ずはルリを引き離すのが先かなと考え、演舞場へと転移すると「お邪魔モノは失礼します」とだけ伝えルリを伴い世界樹へと転移する。
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