第43話 壊れていく道徳心
気付いたら、そこにいたとしか言えないのだがオジーの隣で、さも当たり前の様に座卓の上からひょいひょいと手当たり次第に口に放り込んでは、手足をバタつかせて美味しさを表現している少女が確かにいた。
「リーアさん、もしかして……」
「ええ、その様ですね」
「でもよぉ~なんて言うかよぉ~」
「幼い?」
「そう、それだ!」
「まあ、見た目はそうですけど、やっぱりリーアさんやガルちゃんと同じ歳なんでしょうか?」
「うふふ、ヒロさんが引っ掛かるのはそこですか」
「俺達だって十分、若いだろうが!」
「ええ、そうですけど……この人はなんというか……」
「なんじゃ?」
確認するまでもないとは思ったけど、念の為とリーアさんに確認してみるが、やはりそうらしい。
でも、俺としてはその見た目の方が気になった。
リーアさんやガルちゃんは見た目から、成人女性だと認識出来る。
だけど、さっきから美味しそうに頬張っているその姿はどう見ても……成人女性と言うにはほど遠い。
そんな風に思って見ている俺に少女が気付き「なんじゃ?」とチョコまみれの口を開く。
「えっと、もしかしてだけど……間違ったらゴメンね」
「よい。許す」
「ちょ! 何、この子! ちょっと何様よ!」
「ふむ、こういうのは久々じゃの」
「むぅ~だから、何様なのよ!」
「よかろう。ならば「だから、守人だろ」……なんで先に言うのじゃ! 折角、妾が!」
「はいはい、いいからいいから、口の周りを拭いてからにしようねぇ~」
「くっ……何をしている? はよせい!」
「え? 私?」
「お前の他に誰がおる?」
「え? ヒロ、どゆことなの?」
俺の方をジッと見て視線を動かさないままの少女に向かって確信を得るために断りを入れてから尋ねようとしたところ、少女の不遜な態度に横から割り込み憤慨するが、少女はそんな先輩の態度も面白そうにしている。
そして少女が俺の質問……と言うよりは先輩の問い掛けに対し自分が何者なのか答えようとしたところでガルちゃんが面倒臭いとばかりに答を言えば、今度は少女が憤慨する。
そんな少女を揶揄うようにガルちゃんが口の周りを拭いてからにしろと言えば、少女はほらと先輩に向かって顔を突き出す仕草をする。
その仕草はまるで先輩がお世話するのが当然とばかりで、先輩も俺に助けを求める様に上目遣いで見てくるが、俺はそれを黙って頷き肯定する。
「えぇ~なんで!」
「いいから、はよせい!」
「もう、絶対に納得出来ない!」
先輩は文句を言いながらもハンカチを取り出すと少女の顔を念入りにゴシゴシとそれはもう力強く拭き取る。
「むぅ~痛いのじゃ! 少しは加減せい」
「少しは我慢しなさい。イヤなら自分ですればいいじゃない」
「ん? 何故、妾がそんなことを?」
「は? あんたってホント何様よ!」
「だから、其奴が言うたであろう。守人様じゃと。お主、もう耳が遠いのじゃな」
「くぅ~ヒロ!」
「はいはい。で、その守人様が何用でここに?」
「おう、そうじゃった! いや、実はの……」
先輩に為すがままに顔を拭われ綺麗になったところで、この世界樹の守人であろう少女に気になっていることを聞いてみると、少女はゆっくりと話し出す。
少女の名前はルリ、年齢は守人ならと言うことで非公表だが、見た目はティーンエイジャー後半でその頭にはちょこんとケモ耳があり、腰の下あたりから先っちょが白く金色の大きな尻尾がフリフリと揺れている。
身長は百五十センチ未満で、その胸部はガルちゃん達と同じくらいかな? だけど、やっぱり気になるのは、その見た目だ。
「聞くまでもないと思うけど、もしかして……」
「うむ、そうじゃ。妾は狐の守人じゃ!」
「なるほど」
「その見た目ですしね」
「見たまんまだな」
「え? それだけ? ウソでしょ?」
「ウララ様、今更ですよ」
「……」
少女……ルリはその見た目通りで狐の守人だと言い、俺達はそれを素直に受け入れるが、先輩だけは納得していない様だったが、オジーに今更と言われれば黙って退くしかない。
「で、肝心の用件は?」
「お、そうじゃったの。なに、大した理由はない。強いて言うなら、コレじゃな。うん、うまい!」
ルリの用件は思った通りと言うか、今までの二人と同じで単に匂いに釣られて出て来ただけだった。
「それよりも、他にはないのかの? こんな馳走は初めてじゃ。お、これは「ダメ!」……むぅ、何をするのじゃ!」
「これは未成年にはダメなの!」
「ん? なんじゃ歳のことを言っているのか? なら、何も心配はいらぬぞ。妾は多分だが、そこの二人と同じ歳じゃからの。ほれ、納得したなら寄越すのじゃ」
「あ!」
「ゴキュゴキュッ……プハァ! うまいのじゃ!」
「ヒロ、止めないの?」
「いや、だって未成年でもないし。それにここは異世界だから、そもそも日本の法律なんか「そういうことじゃないの!」……え?」
「だって、見てよ。ほら!」
「ん?」
「どう見てもコスプレしている女子高生が発泡酒を呑んでいるようにしか見えないじゃない! 私に少しだけ残っている道徳心が壊れそうなのよ!」
「あぁ~それは慣れるしかないですね」
「えぇ~そんなぁ~私の道徳心が……」
先輩の思いを他所にルリはいつの間にか立ち上がり、左手を腰に当て発泡酒を右手に持ちゴクゴクと美味そうに飲み干し「もう一杯!」と俺にお代わりを要求してきたので、俺も黙って新しい缶を渡す。
ルリは俺から奪うように新しい発泡酒を手に取ると、慣れた手つきでプルタブを開けゴキュゴキュと喉を鳴らす。
そしてそれを見ていた先輩は「いやぁ!」と謎の悲鳴を上げている。
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