第39話 暴走しちゃうかも
リーアさん達を迎えに行く前まで話しはちょっと遡る。
「あ! そういや、リーアさんに試して貰ったのはいいけど、いつ迎えに行けばいいか聞いてないや。ん~どうしようかなぁ~」
『主ぃ~まだ大丈夫そうだよぉ~』
「え?」
リーアさんを迎えに行くのをいつ頃にすればいいのかと考えていると、肩に乗っていたセツがまだ大丈夫だと答えるのを聞いて「ん?」と不思議に思ったけど、それもそうかと軽く流してしまった。
「そうだね、もう少し後でいいか」
『うん!』
それから、しばらくして「もうそろそろいいかな」とリーアさんのいるであろう世界樹へと転移する。
「リーアさん、話は終わりました?」
「……ヒロさん?」
「はい、ヒロです。えっと、どうしました? まさか、ガルちゃんに?」
「おいおい、なんで俺が悪者になるんだよ!」
「ふふふ、違います。ガルちゃんは何も悪くはありません」
「ホントに?」
「だから「ホントです!」……ほら、リーアもこう言っているだろ」
「……分かりました。じゃ、帰りましょうか」
「はい!」
「おう!」
リーアさんは泣いていたようなので俺はハンカチを渡す。
何をどう話したのか分からないけど、確かセツの進化の秘密とやらを話すのが目的だったハズなのに、どうして泣くことになったんだろうと不思議に思うが、二人に両腕にしがみ付かれたことで両腕に当たる柔らかさに意識が集中してしまう。
そして二人が決意するかのように「絶対に離さないから」と言うが、離したくないのは俺も同じなので転移する間の束の間の幸福を味わう。
「おい、リーア。多分だけどコイツ分かってないぞ」
「ふふふ、そんなこと関係ありませんわ。私は私で着いていくだけです。ガルちゃんはガルちゃんでお好きにどうぞ」
「おい! 俺だって……でもよぉ~さっきのは俺なりに頑張って言ったのによ~」
「まあ、いいじゃありませんか。さ、ヒロさん帰りましょ」
「……じゃ、帰りますね」
俺の両腕にしがみ付いたまま、リーアさんとガルちゃんは顔を近付けて何か言っていたけど俺にはよく聞き取れなかった。
聞こえていたとしても俺が突っ込んでもいい結果にはならないだろうと無視を決め込み御屋敷の自室へと転移する。
「あれ? もう終わったのかな」
「誰もいませんね」
「まだ酒臭いな」
部屋へと戻れば、さっきまでいた人達の姿は見えず、掃除もされた様で空き缶やゴミの類は一切なかった。
「まあ、いないのならいいか。じゃ……」
「はい?」
「なんだ?」
もう部屋に戻ったのだし、幸福も十分に感じたし、寝る前にお風呂に行きたいなと思っているが、二人はまだ俺の腕にしがみ付いている。
俺は二人にそろそろ離してもいいんじゃないかと話しかけてみるが二人は「何?」と言った感じで離そうとしない。
「あのですね……もう、十分堪能したのでそろそろ離して頂けないかと……」
「堪能ですか?」
「あぁ! それってアレだろ? こういうことだろ? 当ててるんだよ! うりゃ!」
「ガルちゃん!」
「……」
俺が余計な一言を言ったばかりにガルちゃんの何かのスイッチを押してしまった様でガルちゃんはより一層押し付けてくるし、リーアさんもそれを止めようとしているのかは知らないが、俺の腕を離さないままなのでリーアさんの密着度も強くなる。
「あぁ~もう、いいから一度離れて下さい!」
「お……おぉ悪かったな」
「もうガルちゃんが悪ノリするからですよ」
「おい、リーアも人のこと言えないだろうがよ!」
「私がなんですか!」
「あぁ? 俺はお前が貸してくれたレデ「ガルちゃん!」ィコ……悪かったよ」
ちょっと強めに言い過ぎたかなと思ったが、ガルちゃんは覚えたての何かを試して見たかっただけの様で、それが悪ノリに繋がったみたいだ。
でもリーアさんとガルちゃんの間に何があったんだろうか? どことなく距離感が縮まった様な気がするし、さっきも貸してくれたと言っていたから、何らかの貸し借りがあったのは事実みたいだ。
確かレディコと言っていた様だけど……まさかね。
それはそれとして二人が離れてくれたので、俺はタオルと替えの下着類を取り出し部屋から出ようとすると、どういう訳だか二人も部屋を出るようだ。
まあ、他人の部屋に居続けるのも気が退けるのだろうと大して気にはしなかったが、その後も風呂へと続く廊下をずっと俺の後から着いてくる。
二人もお風呂に入るのが習慣化したのかなと軽く考えていたけど「いや、ダメでしょ」と振り返り二人に向かって「俺は風呂に入ります」と言えば「はい」「おう」と二人が答える。
「いやいやいや、だから俺は一人で入るから! リーアさん達も入るなら、その後でいいでしょ」
「なんでですか?」
「おう、そうだぞ。何も初めてって訳じゃないだろ」
「あ……」
言われてみれば、それもそうだなと思うが……いつ暴走するか分からない俺の気持ちを考えてくれよと俯き呟けばリーアさんが「私はいつでもいいですよ」と俺の暴走を期待しているかの様に囁く。
ガルちゃんにもそれは聞こえたようで「お、俺はまだだからな」と顔を赤くしている。
「ハァ~分かりました。ですが、ここは伯爵の御屋敷で他人様の家と言うことを忘れないで下さいね」
「あら、では……ふふふ、分かりました。そうですね、私も今更焦る気はありません。それにガルちゃんの用意……いえ、この場合は気構えでしょうか。それを待つ間にチャンスはいくらでもあるでしょうから」
「そ、そんなには待たせないぞ。な、なあヒロ」
「え? いやいやいや、別に俺は「あら、お気に召しませんか?」……いえ、もう十分過ぎるほどです」
「じゃ、アレか。俺達が年増過ぎるのがイヤとか?」
「あぁ~別に二人が創世から悠久の刻を生きているのは今更だし、それに見た目は普通に綺麗な二十代だし」
「お! それって俺のことか?」
「もう、ガルちゃん。はしたないですよ。それにわざわざ確認しなくてもヒロさんの顔を見れば一目瞭然じゃないですか。ね、ヒロさん?」
「……分かっているのなら、揶揄わないで下さい!」
「おぉ! 照れてるのか? 照れてるな! うんうん、そうかそうか。俺も満更じゃないってことだな」
「先に行きます!」
リーアさんに俺が暴走するのは期待しないように言い含めたつもりが、いつの間にか二人を受け入れるのが前提の話になり、終いにはガルちゃん達を綺麗だと言ってしまった結果、俺は自分の顔が赤くなるのが分かり思わず俯けば、それを覗き込み確かめたガルちゃんが嬉しそうに囃すものだから、俺は二人と一緒にいるのが恥ずかしくなり一人風呂へと急ぐ。
「もう、ガルちゃんが揶揄うからですよ」
「おいおい、俺だけが悪者か? リーアが顔を見ろって言ったんだぞ」
「それはそうですけど……でも、これで分かりましたね」
「ああ、十分に脈はあるな」
「では……」
「ああ、行くぞ」
二人はヒロの後を追うように風呂場へと急ぐのだった。
そしてそれを廊下の角に隠れるようにして見ていた三つの影が動き出す。
「どうしよう……ただでさえ出遅れてるのに」
「行き遅れてもいますね」
「随分、余裕じゃないの!」
先程の三人の会話を思わず盗み聞きする形となった三人。
ウララは最初の対応を誤ったことをまだ引き摺っており、ユリアはまだ若いからと余裕を見せ、セシルはそんなユリアに文句の一つでも思ったが「私達も急ぎましょう!」とのウララのセリフに頷き風呂場へと早足で急ぐのだった。
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