第34話 騒動の終焉
『もう、主ってばぁ~相変わらずダメダメだねぇ~』
「……返す言葉もありません・いや、って言うかさ。なんで皆はこんなセツを受け入れているの?」
「ヒロさん、何を仰っているんですか?」
「何って……だって、おかしいでしょ!」
『主ぃ~セツのこと嫌いなのぉ~』
「あ、待って待って! 泣かないで! そんな意味じゃないから!」
テーブルの上で俺にダメ出しをするセツを見ながら、どうしてこうなったと不思議に思っていたけど、それ以上に不思議なのが回りの反応だ。
今、この俺の部屋にはもちろんだけどリーアさんがいて、当然のようにセシルがいて、そして想像していた通りに伯爵のお子様達がまだ目元を赤くしたまま、それぞれ思うがままに進化を済ませたスライム達と戯れていた。
だから、俺は側にいたリーアさんに思っていたことをぶつけてみれば、リーアさんは素っ気なく何を言っているのかとキョトンとした顔で返してきた。
そして、そんな質問をした俺に対しセツが自分の姿を見直し自分のことが嫌いなのかと涙をグッと堪えているのが分かる。だから、俺も慌てて違うからと言うが、セツは我慢出来なかったのか『うわぁぁぁ~~~ん!』と大声で泣き出してしまった。
俺はこのままじゃセツが干からびてしまうと慌てることしか出来なかったが、リーアさんがスッとセツに手を差し出しセツを抱きしめると「大丈夫よ、大丈夫だから」と優しく声を掛ける。
そんなリーアさんの声が届いたのかセツもグスッグスッと泣き止み、『だって主がぁ~』とまた泣き出しそうになるのを「そんな訳ないでしょ」と言い、俺に頷いて見せるので俺もリーアさんの側に近付き、その腕の中にいるセツを優しく撫でながら「俺がセツを嫌いになるわけないだろ」と声を掛ける。
『ホントに……ホントに嫌いになったりしてないぃ~』
「当たり前だ! セツはこっちに来て最初に出来た友達だし、家族だ! そんなセツを嫌ったりするわけないじゃないか!」
『でも、さっきおかしいって言ったぁ~』
「あ、あれは……」
「うふふ、セツちゃん。あれはね……」
リーアさんが俺の気持ちを丁寧にセツに説明してくれたことで、セツの機嫌もよくなり……よくなったのだが『うふふ、そうだったんだぁ~』と面白そうに俺を見てくるのだが、俺はそれを見てちょっとだけ背筋がブルッとした。
「なあ、セツ。お願いなんだけどさ」
『イヤァ~』
「えっと、まだ何も言ってないんだけど?」
『だって、わかるもん!』
「分かるって?」
『元のまん丸に戻れっていいたいんでしょぉ~だから、だめぇ!』
「えぇ!」
『もう、主ってばぁ~こんなに可愛いのに何が気に入らないのぉ~』
「いや、気に入る、気に入らないじゃなくてね。ん~なんて言えばいいのかな~」
「ホント、ヒロさんは説明が下手ですね」
俺がセツにお願いしたいことがあると言えば、セツがそれを先回ってイヤだと言って来た。
そしてセツは今の自分がどれだけ可愛いか見て欲しいとでも言うようにその場でクルクルと回って見せ、その度にスカートの様なモノがヒラヒラと舞う。
俺はセツが自分の足で立ちクルクルと回り楽しそうにしているのを見て、ホントに可愛いと思うがそれだと困ることになるのは避けられない。だから、どうにかして理解してもらえないかと頭を抱え込むとリーアさんが面白そうに微笑みながらセツを手に取り「ヒロさんはね」と話しかける。
リーアさんからの話を聞くと納得したのかセツは『もう、主はしょうがないなぁ~』と言ってポシュッといつものまん丸に戻り、俺の肩に登って来た。
『もう、セツが誘拐されるかも知れないのが心配なら、ちゃんとそう言えばいいのにぃ~』
「うん、分かったよ。俺の心配を分かってくれてありがとう」
『でも、こことか安心出来る場所ならいいんでしょぉ~』
「うん、そうだね」
セツも分かってくれて有り難いと思っていたが、面倒ごとは他にもあった。そう、伯爵の子供達に分け与えたスライムもそれぞれに自分の好きな形状へと変化していたのだ。
でも、相手は子供とは言えお世話になっている伯爵家の子供達だ。俺から強く言えることなど出来ないし、今元に戻れと言っても大人しく元に戻ることはないだろうし、例え元に戻ったとしても子供達は納得出来ずにまた、泣き叫ぶだろうことが想像出来る。
俺がどうしたものかと考えていると同じ様に悩んでいる様子の伯爵が目に入り、やはり俺と同じ結果が容易に想像出来るのか腕を組んだまま頭を振っている。
「……済まないヒロ殿。子供達には私からよく言い聞かせるからやってもらえないだろうか」
「いいんですか?」
「……いい! いや、やって貰わないと困ることになるのは分かりきっているし、これからのことを考えれば、大事なことだ! 更に言うならば、絶対に外に連れ出して自慢するに決まっている! だから、そうなる前に……ひと思いにやってくれ!」
「ハァ~分かりました。ただ、フォローはしっかりして下さいね」
「ああ、分かっている」
伯爵も覚悟を決めたようなので、俺はセツにお願いし、セツも『分かったぁ~じゃ、やるねぇ~』と了承して『戻れぇ~!』と号令を掛けるとキャッキャと騒いでいた子供達が「あ!」と声を出すと同時に「なんでぇ!」と泣きだした。
まん丸に戻ったそれぞれのスライムに一瞬、驚いた子供達は急に泣きだし、両手にスライムを乗せ「どうしてぇ!」「戻してぇ!」「こんなのイヤだぁ!」と泣き喚き俺に「おじさん、どうにかしてぇ!」と訴えてくるが、俺は首を横に振り伯爵を見る。
すると伯爵が「止めなさい!」と子供達を一喝すれば、子供達はビクッとして泣き止む。
「涙を拭きなさい。ああ、タオルを渡してくれ」
「「「はい」」」
泣き止みはしたが、まだ涙の跡がついている顔をそれぞれのお付きのメイドが顔を綺麗に拭うと手の平の上に載せたままのスライムを見てまた泣きそうになる。
「元の姿に戻っただけだろう。何がそんなに気に入らない? 泣くほどイヤなら、ヒロ殿に返すか?」
「「「それはイヤ……です」」」
三人の子供達もやっと落ち着いたのか、「イヤなら帰せ」と言う伯爵の言葉に三人は首を横に振る。
「何故、イヤなんだ? もう、元のまん丸なんだぞ。さっきとは違うんだぞ」
「「「……」」」
「どうした?」
「「「ごめんなさい」」」
「なぜ、私に謝る。謝る相手が違うだろ」
「「「ごめんなさい!」」」
『『『いいよぉ~』』』
子供達三人は伯爵の言葉に素直にスライム達に頭を下げ、スライム達もそれを受け入れる。
それから伯爵は子供達になぜ、元の姿に戻させたかを懇々と説明し子供達もそれを聞き、素直に頷く。
これでスライム達の進化騒動は終わったと思っていたが、オジーだけは「そんなぁ~ぷぅ……」と何時までも未練たらしく泣いていた。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
おもしろい!
続きはどうなの!
応援してあげてもよくてよ!
と、思ってくれた方。
恥ずかしがらずに下にある☆を★にしてみませんか?
★は★★★★★までありますから好きなだけどうぞ!




