第32話 だって、ヒトそれぞれですから
『……』
「ぷぅ……まだ、眼を覚まさない……ヒロ様、大丈夫ですよね?」
「大丈夫だって。それよりもさ、今度はどんな進化を遂げるのか楽しみじゃない?」
「進化といいましても……ぷぅはスライムですよ?」
「だけど、話せるよね?」
「……ですが」
俺がいくら大丈夫と言っても目の前でグッタリしているぷぅを見て嘆息するオジーには、これ以上何を言ってもダメだろうと、俺もリーアさんに任せてきたセツが心配なりホントに大丈夫だよなと不安になる。
~伯爵邸のヒロの自室~
「で、いつまでそうしているつもりですか。セシルさん」
「……」
「ヒロさんの話では、もうすぐここに伯爵のお子様が泣きながら飛び込んで来ると言ってます。その格好のままでいいんですか?」
「……」
リーアはベッドの上で異様に膨らんで微妙にプルプルと震えている場所に向かって声を掛けるが、反応はない。
「あまり、言いたくはありませんが……お子様達の前に出られない格好であると自覚しているのであれば、直ぐにベッドから出てトイレなり浴室で整えて下さいね」
「……分かりました」
シーツを払いのけ出て来たのはリーアが指摘したように乱れたメイド服を直しながら、少し不貞腐れた感じのセシルだった。
セシルはリーアに軽く会釈をするとトイレに駆け込む。おそらく身だしなみを整えているのだろう。
すると、セシルがトイレに入るのとほぼ同時に子供達が泣きながら「ヒロ様ぁ~」と両手にスライムを乗せた状態で駆け込んできた。
グスグスと袖で目元を拭いながら「どうにかしてぇ~」とスライムを差し出してくるが肝心のヒロがいないことが分かると子供達は更に大声で泣き出す。
そしてその騒ぎに気付いた伯爵が「一体、何の騒ぎだ」と顔を覗かせるが、子供達は泣き喚くばかりで要領を得ない。
なので、伯爵も収拾が付かずどうしたものかと考えているとリーアが「あの……」と、両手に乗せたセツを伯爵に見せながら、今の状況を説明する。
「ふむ。では、今のこの状況は以前にもあったようにセツの進化の過程によるもの……だと、そういう訳なのですね」
「はい。私も詳細までは分かりませんが、ヒロさんの説明ではそう仰ってました」
「分かりました。では、この子達のスライムもやがては目を覚ますのですね」
「ええ。私には多分としか言えませんが……」
「いえ。それが分かっただけでも十分です。ユリア、後は頼む。そして……セシル! そこにいるのだろう。起こらないから、出て来なさい」
伯爵がリーアの説明を聞き、子供達にスライムは死んだのではなく進化の過程で眠っているように大人しくしているだけだと話し落ち着かせると、近くにいたユリアに子供達の世話を頼み、ついでとばかりにトイレに隠れているセシルにも声を掛ければバツが悪そうに無言で出て来た。
「セシルよ、あまり言いたくはないが……その、なんだ……あまり、感心されることではないな」
「……申し訳ありません!」
「いや、休憩時間に好きなことをするのは別に構わないのだが、結果的にヒロ殿に迷惑を掛けるようであればメイドとしてそれはどうかと考えた方がいいのではないのか」
「分かってはいるんです! でも……どうしても我慢が出来ないんです!」
「そうか。でも、それを私に言われてもな……」
「旦那様も好きな人の匂いに包まれてみたいとか、想像したことはありませんか?」
「……すまない。私にはそういうのはちょっと」
「なんでですか!」
「いや、なんでと言われてもな……」
伯爵もそういった気持ちが分からないでもないが、個人的には理解し難いことなので言葉を濁せばセシルはそれが面白くないようで伯爵に食ってかかるが、それを見ていたリーアに「別にベッドでなくても洗濯前の下着とかではダメなんですか?」と問い掛ければセシルはフッと鼻で笑う。
「そんなこと、私が試していないとお思いですか!」
「あ~すみません。私の考えが足りなかったようですね」
「ええ、足りません! 既にそんなことは十分に試しました! ですが、下着類では私自身を包み込むには足りないのです! リーア様なら分かってくれますよね?」
「いえ、分かりません」
「なんで!」
「なんでと言われても……なんででしょうね。あ、でも……ちょっと分かる気がします」
「分かってくれますか!」
「はい。言われてみればヒロさんが時折、鼻の穴を思いっ切り広げてくんくんしている時がありましたわ」
「え?」
「どうしました? これってセシルさんが言っていたことでしょう?」
「……私といる時にはそんな素振りは見せてもらえませんでした。私は体臭でもリーア様に負けたのでしょうか……」
「え~と、なんかゴメンなさいね」
「謝らないで下さい!」
リーアとセシルのやり取りが終わるまで黙って待っていた伯爵が、くんくんと自分の体臭を確認していたのはまた別の話で、遠い未来に「お父様、臭いです」と言われるとは思ってもいないだろう。
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