第16話 あっち!
俺がオジーとリーアさんに挟まれ葛藤していると「リーア様!」と見るからにこの村? の長老と言う感じのご老人が腰に手を回し、杖をついてひょこひょこと他の皆より一歩前に出て来た。
「あら、あなたは確か……」
「はい。この村の長を務めさせて戴いております……イズラです。お目に掛かるのは数十年ぶりでしょうか」
「そうなりますか。で、その長であるあなたが前に出てくるのですから、よほどのことなのでしょうね」
「いえ、それほど大袈裟なことではありません。ただ……」
「ただ?」
「はい。突然のこととはいえ、リーア様のご成婚。そしてそれに伴い新婚旅行に行かれる前に一席設けたいと思いまして」
「うふふ、それは嬉しい申し出ですね。どうしますか、ヒロさん」
「……ごめん。ムリ!」
「「「え???」」」
イズラと言うご老人……お爺さんだと思っていたけど、実はお婆さんだったようだ。そのご老人が言うには俺とリーアさんの成婚を即席で申し訳ないが村の皆で祝いたいと言う。
だが、俺はそれをムリと即答したことでイズラだけでなくリーアさんや他のエルフまで驚いている。
「ヒロさん、理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「そうです。何故にムリなのか理由くらい聞かせてもらいたいものです!」
「いやいやいや、いくらなんでもさっきまで許さない! って言っていたのに急にお祝いしたいと手の平返しで言われて何を信じろと?」
「あ!」
「「「……」」」
リーアさんも今更ながら気付いた様だけど、遅いよ。それにお祝いの席だからとお酒を勧めてくるだろうし、そのお酒に何か混入されても酔っていればそれを認識するのは難しいだろう。
そうなるといくら結界とかで守っていたとしても最後まで抵抗できるかどうか難しいだろうし、お酒の席でハニトラを仕掛けられてリーアさんとの仲違いを企んでいるかも知れないし……まあ、その場合はチッパイばかりなのでちょっとは抵抗出来るんじゃないかなと自信はある。
と、言う訳でこんな四面楚歌の状態でお酒を呑んで気を抜くわけにはいかないと言えば、イズラ達エルフはグッと口籠もる。
「ほら、そんな顔していたら俺の勘が間違えてないって言っているようなものじゃない」
「イズラ、見損ないました……」
「り、リーア様! お、お待ち下さい!」
「言い訳ですか。はぁ……いいでしょう。言い訳出来るのであれば聞きましょう」
「は、はい……」
それからイズラはリーアさんのことがどれだけ大事で、この国……リリージュにとってもどれほど大切な存在なのかをリーアさんに向かって説いているが、リーアさんにとってはどうでもいいのか欠伸が出そうになるのを我慢しているのが隣にいる俺から見ても丸わかりだ。
「……以上です。これで私達がどれだけリーア様を大切にされているか分かって頂けたものと思います」
「ふぅ~言いたいことは以上でいいですか?」
「リーア様?」
「イズラ。先程も言いましたが、私はここでの暮らしは苦痛でしかありませんでした」
「リーア様!」
「まだ、私が話しています」
「すみません……ですが、私達は決してその様な「分かっています」……ならば!」
「ですから、私は一度あなた達の元から離れて見たいと思っているのです」
「そ、それはどういう意味でしょうか?」
「はい。それはですね……」
イズラがどれほどリーアさんを大切に扱っているかをダラダラと長く話したがリーアさんには少しも届いてなかった様で、これがもし俺なら鼻ホジしながら「ほいで?」と聞き返しただろう。
そしてここでの生活は腫れ物の様に扱われていたこともありリーアさんにとっては苦痛でしかなかったと訴えれば、イズラはそんなつもりはないと訴える。リーアさんもそれは分かっている様で、だからこそ互いに一度離れてみてはと提案するのだった。
「では、私達が悪い訳ではない……と、そう思ってもよろしいのでしょうか」
「ええ。それはあなた方にお任せします。私がそう受け取っていたというだけのことなので……」
「そうですね。分かりました。ですが、せめて国王に「また、それですか」……リーア様」
「はぁ……いいですか。私はこの国に属しているつもりはありません。ただ単に世界樹がこの地にあり、その周りに勝手に国が出来たというだけのことです。なのに私に後から来た何者かに謙れと……そう言うのですか」
「ひっ!」
イズラはリーアさんから俺をなんとか引き離そうという計画は引っ込めたようだが、せめて国王に一言だけでもとリーアさんに縋るようにお願いすればリーアさんはそれを止めさせ「何故自分がわざわざ?」とイズラを睨み付けながら口にすればイズラは自分の背中に冷たいものがツゥ~と伝っていく。
まあ、俺からしてみても先に住んでいる俺に対し近くに越してきたヤツが「何かするなら俺に一声掛けろや!」と言われれば噴飯ものだ。
「いいですか。私が守っているのは後から出来たあなた達の国ではありません。あくまでもこの世界樹だけなのです。まあ、結果的にこの世界樹の周りも守っている様な形にはなっていますが、そこのところを勘違いしないように翌々言い含めて置いて下さいね。頼みましたよ」
「は、はい! 分かりました! 国王には確かにその様にお伝えします。ハハァ~」
「「「ハハァ~」」」
リーアさんのお願いにイズラだけでなく多くのエルフが跪きリーアさんに向かって頭を垂れる。
「分かってくれたようでなによりです。それとお祝いの方はあなた方が純粋に私達を祝いたいと言う気持ちになってから改めて受け取りたいと思います。では、ヒロさん。行きましょうか」
「えっと、もういいのかな?」
「はい。これからの私は何にも縛られることはありません。文字通りヒロさんの好きにして頂いてもいいのですよ?」
「え? それって「コホン! ヒロ様」……オジー」
「それ以上のことをこの場で言うつもりですか?」
「え? あ!」
リーアさんに好きにしていいと言われ、俺の頭の中にはあんなことやこんなことがいろいろ思い浮かび、それを確認しようとしてオジーに軽く肘鉄をくらって止められる。
オジーが言うにはまだリーアさんを信奉しているエルフ達の前でハレンチなことを言えば、どうなるのかくらい分かるでしょと言われてしまえば黙るしかない。
俺は反省しつつ「じゃ、行こうか」と言えばリーアさんは嬉しそうに右手を差し出してくるので俺はそれを左手で受け取り、オジーは俺の背中からソッと抱き着く。
「オジー?」
「今だけ我慢して下さい。私だって我慢しているんですから」
「はいはい。分かったよ。じゃ、え~とイズラって言ったよね」
「はい。なんでございましょう」
「しばらくの間、リーアさんをお預かりしますね」
「は、はい! 我々はリーア様のお帰りをいつまでもお待ちしております。皆様方のご健勝を心からお祈りしております」
「うふふ、イズラ。今までありがとうございまいした。私も長年だらだらと目的もなく過ごしてきましたが、間違いなく今、この瞬間が楽しいと言えます。次に会うときはまた違った私をお見せ出来ることでしょう。では、それまで互いに健勝であることを祈りましょう」
「はい! はい、ありがとうございます!」
「「「ありがとうございました!!!」」」
多くのエルフに見送られながら、俺達は上空へと上がり、今更ながら「何処へ行こうか」と相談するのだった。
俺達の足下ではまだ多くのエルフがこちらを見上げている。
彼らの為にも早く決めてあげたいのだが、初めての異世界で何処がいいと言えるハズもなくましてやガイドブックなんてものが有るはずもない。
「『異世界の歩き方』なんてものはないしな」
「次を決めていないのであれば、ご提案があるのですが」
行ってきますと上に上がったはいいものの、何処へ行けばいいものかと悩んでいたらリーアさんから提案があると言われ「リーアさんは、どこか希望があるの?」と聞き返す。
「はい。希望と言いますか、この世界には私と同じ様に世界樹を守りながら日々を暮らしている者がいると聞いています。少なくとも私を含め八人はいると」
「んんん?」
「ヒロ様、私の昔伝え聞いた記憶ではこの世界は八本の世界樹によって守護されていると」
「え? って、ことはリーアさんはその他の七人に会いたいってこと?」
「はい。今までの私であればただ単に自分が任された世界樹を守ることだけでしたが、幸いにも私はヒロさんと出会うことが出来ました。ですから「いいよ」……はい?」
「うん、なんとなくリーアさんの言いたいことは分かった。うん、行こう!」
「はい!」
「……いいのでしょうか」
「オジー、いいか悪いかなんて行ってみないと分からない……でしょ?」
「まあ、確かにそうですが……誓ってもいいですが、絶対に厄介なことになりますよ?」
「じゃ、オジーは「行きますから!」……なら、余計なこと言わないで黙って着いて来て」
「分かりました。よぉ~く分かりました。はい、私の平和な安穏とした生活は今、この時をもって捨てることにしました!」
「ん? ちょっと前まで剣呑だったんじゃ?」
「それは、済んだことですから。それ以降はホントに……ホントに今まで感じたことのない平和な日々だったんですからね」
「まあ、そういうことにしておこうか。で、リーアさん、方向はどっち?」
「私も詳しくは知りませんが、幸いにも目印は二つ見えていますのでお好きな方に」
「え? 目印って……あぁ~そういうことね」
リーアさんが目印はあるって言うのでリーアさんが指差す方向を見ると確かにちょっとだけ木の先っぽの様なモノが今居る場所を中心に前後を挟む様に二箇所見える。
「じゃあ、あっちにしようか」
「分かりました」
「どうか、何事も起きませんように!」
『オジー、それはどうかと思うよぉ~』
『ぷぅ~フラグだよねぇ~』
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