第6話 まさかの
「ふふふ、それはないですわ! 私より綺麗な女性がヒロ様の側にいるハズがないでしょ!」
「いえ、実際にクリス様がいる訳ですし、それはないかと」
「ぐっ……それは確かにそうかも知れませんが、クリス様ではないのでしょ?」
「ん~そうね。私もクリス様は綺麗だとは思うけど……なんか違うのよねぇ~」
「「違う?」」
「そう。なんて言ったらいいのかな。えっと……あ、そうそう例えるなら……」
「「例えるなら?」」
「近寄り難い貴婦人?」
「「……」」
「え? どうしたの?」
「ウララ様が言っていることがまったく理解出来ません」
「それは私も同じです。大体、貴婦人ってなんですか?」
「私にそう言われても困るんだけど……でもね、確かに綺麗っちゃ綺麗なんだけど、容易に気安く相手にしてはイケないようなそんな厳かな雰囲気も感じちゃったのよねぇ~年齢的にも私達より上に感じたし」
「「厳か?」」
「そ! だから、貴婦人って言っちゃったんだけどね」
「失礼ですね。私は誰の物でもありませんわよ」
「「「え?」」」
俺と一緒に扉の向こう側で行われている会話に聞き耳を立てていたリーアさんは婦人扱いされたことが我慢出来ずに扉を開け、先輩達の前に姿を見せると「冗談じゃありません!」と憤慨して見せたが先輩達はいきなり現れたリーアさんにただ驚くだけだった。
「ですから、訂正して下さい!」
「「「え?」」」
「もう! 私は婦人なんかじゃありません! ミセスではなくミスなんです!」
「え? あぁ、そっち!」
「ちょ、ちょっとウララ様。一人で納得していないで私達にも分かる様に説明して下さい」
「そうですよ。いきなり『ミスですから!』って言われてもなんのことか分かりませんから」
「あぁ……あのね」
先輩はポカン状態なユリアとセシルに対し丁寧に説明すると「なるほど」と納得してはくれたのだが「で、結局はどこのどなた様でどうしてヒロ様のお部屋にいるんですか?」と根本的な質問を返してきた。
「それは招待されたからですわ」
「ちょ、ちょっと俺はそんなことしてないからね」
「ですが、私のことを振り解こうとはしませんでしたわ」
「いや、それはそんなヒマがなかったと言うか……あぁ、もう!」
「ちょっと、ヒロ。そこのとこ詳しく説明してもらえるんでしょうね?」
「そうですわね、ウララ様はともかくとして私には説明を聞かせてもらえる権利があると思います」
「ちょっとユリア、横入りは許さないからね。そもそも最初に名乗りを上げたのは私なのだから、私に第一夫人の権利があるんですから。だから、先ずは私がちゃんと話を聞きますので。さ、ヒロ様。それと……「リーアです」……そ、リーアさんも一緒にどうぞ」
そう言ってセシルがその場を仕切り、俺の部屋へと押し込もうとするが残された先輩達が大人しく言うことを聞くわけもなく「ちょっと待ったぁ!」と大声を出す物だから「何事ですか!」とこめかみに青筋を浮かばせながら家令であるご老人が俺に対し説明を求めて来たので「そういうことは速やかにご報告願います」と言われ、伯爵の執務室へと俺とオジー、リーアさんの三人で連行される。
先輩達も一緒にと家令にお願いしてみたが「ご報告が先ですので」と適当に遇い踵を返す。
ハァ~と嘆息と共に額に手を当て疲れた様子の家令に「大丈夫ですか?」と思わず声を掛けるが「そう思うのでしたら少しはお控え下さい」と言われてしまう。
「俺のせいじゃないし」と言い返そうと思ったが、どう考えても俺の行動の結果だし言うだけムダだと思い「はい」とだけ返事する。
家令は執務室の前に立つと扉をノックし「旦那様、よろしいでしょうか」と中にいるであろう伯爵に声を掛ければ「うむ、入れ」と声が返され「失礼します」と家令が扉を開け俺達に入る様に促す。
「ん? ヒロ殿。こんな時間にどうしたのだ? ん? んんん? ひ、ヒロ殿、そちらの肩は一体?」
「旦那様、ヒロ様からご報告したい旨があるとのことでお連れしました」
「え? お、俺は「ありますよね?」……あ、はい……」
「ふむ、分かった。では聞かせてもらおうか」
「えっとですね……」
伯爵はペンを置き俺達にソファに座るように促すと、その対面に座り家令にお茶を頼みリーアさんをチラリと見てから「さ、話してくれ」と言うが目が据わっているのはどういうことでしょうか?
どことなく伯爵もリーアさんの存在が厄ネタだと直感しているらしく表情は柔らかいが目が据わっていない。
俺はオジーに補足を頼み、今日あったことを余すことなく話し終えると伯爵はハァ~と嘆息し「その話を信じろと?」と俺の目を真っ直ぐに見てくるが「嘘ではありませんよ」と答えるのが精一杯だった。
「ふむ、オジーまで一緒になって私に嘘をついてもなんの利もないのは確かだが……失礼だが、そちらの女性は……『着いて来ちゃいました』と軽く扱ってはいい人物ではないと思えるのだが。リーア殿……あなたの身分がハッキリしないのでそう呼ばせてもらうが構わないか?」
「ええ、もちろん」
「では、リーア殿。あなたの目的はなんでしょうか? 何故、ヒロ殿に着いて来てしまったのでしょうか? お聞かせ願いますか」
「ふふふ、単なる好奇心です」
「「「はい?」」」
「ヒロさんまでそんなに不思議がることではないでしょ」
「いやいやいや、単なる好奇心ってそれだけのことで俺に着いて来ちゃったの?」
「ええ、そうですよ。それが何か?」
「いやいやいや、何かってそんな簡単に」
「でも、他にどう繕っても結局は好奇心なんですから。ふふふ、もちろんヒロさんに対する好奇心が一番ですけどね」
「ヒロ殿……」
「いやいやいや、そもそも国内外へと探索して来いって王命ですからね」
「確かにそれは私も知っている。だが、無闇矢鱈と重要人物と思える方を攫ってくる様な真似をしろとは言われていないと思うが?」
「だから、話を聞いてました? 俺は不可抗力なんですからね。そうだよね、オジー」
「……」
「オジー?」
伯爵もリーアさんの雰囲気、世界樹にいたと言うこと、世界樹の近くにいたエルフの人達の慌てようを俺達から聞き、エルフにとっての最重要人物であることは間違いないと確信しているようで、そんなリーアさんを攫ってきてしまった形になったことで俺を見てハァ~と嘆息を繰り返すだけだった。
「あ!」
「どうしたのだヒロ殿。何かこの場を好転させる妙案でも思い付いたのか?」
「いえ、単純にリーアさんって何者なのか確認していなかったなと思い出しまして」
「「……!」」
「私のことですか?」
「はい」
「ひ、ヒロ殿……もう今日は止めておいた方がよいのではないか? 明日にでも王に謁見してもらえないか確認するから、その場まで保留でもよいのではないだろうか?」
「でも、気になりませんか?」
「そ、それは確かにそうだが……」
俺の疑問に伯爵は今日はこれ以上のことは聞きたくないとばかりに先延ばしにしようとするが、俺としてはリーアさんの立場と言うかどういう人物なのかをハッキリさせたいという思いが強い。
そんな俺と伯爵の会話を横で聞いていたリーアさんが「ふふふ、私は私ですよ」となんの答にもならないことを言う。
「だからね、その私が何者なのかをハッキリさせて欲しいんですよ」
「それは私に興味がある……そういうことでしょうか?」
「言い方ぁ! でもまあ、間違いではないのかな?」
「そうですか。まあ連れ合いになるのでしたら、知ってもらった方がいいのは確かですね。私は「ちょ、ちょっと待って!」……なんですか?」
「さっき、連れ合いになるって言った?」
「はい。言いましたよ。私はで「ちょっと待って!」すね……もう、ヒロさん。さっきからなんですか? 私のことを聞きたいのじゃないんですか?」
「そりゃ、聞きたいし、知りたいしハッキリさせて欲しいよ」
「ふふふ、そこまで知りたいと想ってもらえるのはこれほど嬉しいのですね」
「え? いや、それより連れ合いってどういうことなの?」
「うふふ、ヒロさんは語彙力が乏しいのでしょうか? いいですか。男女が連れ合いになるというのはですね「それは分かっているから!」……おや? では、何が疑問なのでしょ?」
「全部だよ! 全部! なんでいきなり俺とリーアさんが一緒になることになっているの!」
「それも説明が必要ですか?」
「当たり前でしょう!」
「……私達はエルフの国である『リリージュ』からここへ駆け落ちして来たでしょ」
「「「え? えぇ!!!」」」
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