第4話 元いた場所に戻しましょう
「はぁ~食ったし呑んだし……そろそろ眠くなってきたかな……ん~」
「では、戻りますか」
「うん、そうしようか」
「へ?」
俺とオジーと綺麗な女性との珍妙な食事会? を終えようと俺とオジーとセツとぷぅで片付け始めるとお姉さんが不思議そうにその様子を見ながら「戻るって?」と聞いてきた。
「だって、お風呂に入りたいし……ここは虫もいっぱい出そうだから」
「そうですね。それにいつ魔獣や魔物に襲われるかも心配ですしね」
「いやいやいや、虫はともかくですが……ここまでは魔物や魔獣の類は近付きませんよ。だから、安心して下さい」
「「……」」
「どうしました? 何故、手を止めないのですか?」
「だからね、俺はお風呂に入りたいし柔らかいベッドで眠りたいんです」
「そうですね。私もヒロ様と一緒に活動するようになってからは野営がムリになりましたしねぇ~」
「ですが、これから戻るとなるとそれこそ危険でしょう。こんなに暗いのですから。だから、ここにいましょう。ね? その方が絶対にいいですから!」
「「ごめんなさい!」」
「えぇ~!!!」
セツやぷぅは俺達の会話を気にすることなく俺達が集めたゴミをモシャモシャと嬉しそうにその柔らかな身体の中へと取り込んでいくのを見て「ゴミを片付けてもらってばかりでゴメン」と心の中で手を合わせるとセツが『気にしないでいいよぉ~主ぃ~』と言ってくれぷぅも触手をブンブンと勢いよく振ってまるで気にするなと言っているようだ。
ゴミも残すことなく綺麗に片付け「来た時よりも綺麗になったかな」とオジーの方を見るとオジーも頷いたので「じゃ」とお姉さんに声を掛け転移しようとしたところで、上着の裾が細く白い指に引っ張られているのが見えた。
その細く白い綺麗な指先からズ~ッと目線を動かせばお姉さんが俺の上着を掴んでいたので「えっと離してもらえますか?」と声を掛けるが、お姉さんは下を向いて首を横にフルフルするばかりだ。
「あの、聞いてます? 離してもらえないと帰れないんですけど……」
「……!」
「え?」
「なんで帰るの?」
「え? いや、だから言いましたよね?」
「ここにずっといればいいじゃないですか!」
「いや、さすがにそれはマズいでしょ。ね、オジー」
「私に聞かないで下さい」
「あ、そう。じゃ、オジーを残しますから」
「え?」
「あ、ちょ! ヒロ様! それはさすがに巫山戯すぎでは!」
突然、現れた俺達を受け入れてくれたお姉さんだが、その俺達がいなくなることで淋しくなるのがイヤなんだろうなとは思うけど、世界樹の根元には篝火を焚いてこちらを心配そうに見ているエルフ達がいるのだから淋しくはないでしょと言えば、また首を横に振る。
「彼らは違うのです」
「え?」
「彼らはあなた達の様に普通には接してくれません。それにここまで登ってくる人もいません。だから、久しぶりに楽しい時間を過ごせて嬉しかったのです……」
「「あぁ~」」
俺の上着を掴んだままの状態でお姉さん……リーアさんは自分がどれだけ淋しい思いをしているのかを俺達に訴えられ共感することは出来るが、だからってここで暮らせはないだろうと俺の上着を掴んでいる細い指を傷付けない様にどうにか剥がそうとしているが、どこにそんな力があるのかと不思議なくらいにギュッと握られている。
そんな俺の姿を見てオジーがコソッと「上着を脱げばよいのでは」と耳打ちしてきたので俺は「あぁ!」と得心しリーアさんが下を向いている内にと上着を脱ぎ、オジーに「手を離すのと同時に転移するから」と口パクで伝えるとオジーも「分かりました」と口パクで伝えると同時に親指と人差し指でオーケーサインを作りスススッとリーアさんとは逆位置に立ち俺の肩を掴んで来た。
俺はオジーに目配せしオジーも頷いたので上着を離しパサッと音がする前に転移すると同時に何かが腰に抱き着いて来たのを感じた。
「まさか……」と思いはしたが伯爵邸の自室に戻ると同時に「はぁ~」と嘆息するしかなかった。
「ヒロ様……あまりこういうことは言いたくありませんが、そうホイホイ異性を取り込むのはどうかと思いますが」
「え? いや、違うよね? オジー、なんで俺だけの責任みたいに言っているの? オジー、ねぇ聞いてる?」
「では、屋敷の者が気付く前に元の場所に置いてきて下さい」
「あ、そうか。それ「イヤです!」……え? えぇ~」
まさかと思っていたけど、やっぱりまさかで腰の違和感はリーアさんが抱き着いた感触で間違いなかったようでオジーに相談したところ捨て猫捨て犬を拾って来た子供に親が言うように「元いた場所に捨てて来なさい!」と言われ「それもそうか」と納得しリーアさんを連れて転移しようとしたが、その気配を察知したのかリーアさんは俺から素早く離れ拒否の姿勢を取る。
「ちょ、ちょっとリーアさん。もう遅いですから静かにお願いします」
「あ……そうですね。ですが、私は戻りませんよ」
「いや、それはダメでしょう」
「ええ、それこそエルフの国との争いの火種になりかねません」
「ほらぁオジーもこう言っているじゃない。ね? だからさ、ここは大人しく「イヤです!」……あ! だから、声を抑えて」
「あ……でもですよ……」
俺達から少し離れた位置に立ったリーアさんは元の場所に帰ることを力一杯拒否する。
でも、オジーが言うように世界樹の元から連れ去ったとなれば争いになるのは誰の目にも明らかだ。
つい大きな声を出してしまったことにリーアさんは慌てるが、その後に「そもそもヒロさん達がどこの誰かなど誰が知っているのでしょうか?」と言う。
俺もオジーもその言葉に「あぁ!」と納得するが「ですが」とオジーが言葉を続ける。
「お忘れかも知れませんが、私達はここから一直線にエルフの国……世界樹を目指しました」
「うん、そうだね。それが?」
「ハァ~それを国境にいたエルフの守備隊らしき連中に目撃されましたよね」
「うん、いたね。だから、それが何?」
「ハァ~」
またオジーが大きなため息と共に「あの連中は私達が飛んで来た方角を確認しています。もう、分かりますね?」と言うが「だから、それがなんなの?」と俺が言えばオジーは口を開けたまま信じられないモノを見るような目で俺を見る。
「……いいですか。私達が飛んで来た方角を辿れば、この国に辿り着くのは間違いないってことです!」
「え? あ!」
「分かってもらえましたか」
「うん。でもさ、途中に国境っていくつかなかった?」
「あ……」
俺は空を飛んでいたので詳しいことは分からないが、エルフの国に辿り着くまでに通常は数ヶ月掛かるとオジーが言っていたのを思いだし、そんなに遠いのなら間にいくつか国があるんじゃないかと問えばオジーもそれを思い出したようだ。
「それならば、国の者がここまで来るのに結構な時間が掛かりますね。では、それまで私は楽しむことにします。うん、今決めました!」
「「えぇ!」」
リーアさんは追っ手が来るのに数ヶ月単位の猶予があると分かると急に顔を綻ばせ嬉しそうに「ここで楽しみます!」と宣言するのだった。
それと同時に部屋の扉が「コンコンコン」とノックされ「ヒロ様、お戻りになられたのでしょうか?」とユリアの声がすると同時に「早く開けなさいよ」とセシルの声も聞こえ「何しているの?」と先輩の声も聞こえてきた。
「ヤバイ! どうする? どうしよう? どうしたらいいの?」
「……」
「オジー、分かってるの? なんでそんなに落ち着いているの?」
「私にはヒロ様の女性関係については口を挟める立場ではありませんから」
「え? それ、本気?」
「ええ。本気と書いて本気です」
「ぇ……」
そんなオジーとやり取りしている内にリーアさんが「は~い、今開けますね」と扉を開けてしまった。
「あ……」
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