第2話 見えているのに
「むぅ~見えなくなりましたね……でも、方角は覚えましたよ。ふふふ……」
先程まで黙って上空を見上げていたと思ったら、急に走り出した女性冒険者は「必ず追いついて見せますからね」と口角を上げニヤリと笑う。
そんな眼下の様子が分かるハズもない俺はこれからの出会いに期待せずにはいられない。
「しかし、なんでまたエルフの国なんですか?」
「え? 何が不思議なの?」
「いえ……ですが、エルフでしょ。私にはどうもあまりいい印象がないのですが……」
「確かに。ギルマスに元奥さんといい、とんでもない人達ばかりだからね」
「でしょ! だから、少し考え直した方が「だからだよ」……えぇ!」
「だからね、言うなれば俺もオジーもハズレくじしか引いてない……と、そう思わない?」
「ハズレくじですか。まあ、確かに言い得て妙ですが」
「だからさ、実際にエルフの人達が住む国に行けば、母数も大きくなるからハズレくじを引く確率も少なくなると思わない?」
「母数が増えれば、確かに……ですが、私達の運も鑑みると……必ずそうなるとは思えないのですが」
「いいの! こういうのはその場のノリが大事なの! もう走り出したんだからアタリを引くまで引き続けるだけだよ」
「そんなに軽く考えて大丈夫なんでしょうか」
「いいの! それより、そろそろじゃないの?」
「そうですね。あ! アレがそうですよ」
「あぁ……確かに分かり易い目印だね」
俺達の進行方向にそびえ立つ大きな木……世界樹が視界に入って来た。
「ねえ、オジー」
「なんでしょうか?」
「目標の世界樹が視界に入ってから結構な時間が経っていると思うんだけどさ、全然近付いている気がしないんだけど」
「そうですね。ですが、見えている内は間違っていないのでしょうから、このまま行くしかないでしょ」
「……そうなんだけどさ」
目標の世界樹が見えたと喜んだのはいいが、全然近付いている気がしない。
結構な時間を飛んでいると思うけど、あとどれくらい飛べばいいんだろうかと停止させ空間把握で脳内マップを作成してみると「おぅふ……」と思わず声が出る。
「ヒロ様、どうしました?」
「あのね、今さ地図で確認したんだけど……」
「どうされました?」
「あと、半日は移動しないとダメみたい」
「それがどうしたのですか?」
「どうかしたのかって……だって、半日だよ。半日!」
「それくらいいいじゃありませんか。普通に歩きなり馬車であれば数ヶ月の距離ですよ」
「あ! それもそうか。じゃ気を取り直して……ん?」
「まだ何か気がかりなことでも?」
「えっとね、どうも監視されているっぽい」
「え?」
目に見えているのに全然近付けないからどういうことなのかと脳内マップで確認するとあと半日飛び続けないと辿り着けない距離だということが分かった。
そんな事実を突き付けられ辟易としていたが、オジーから馬車や徒歩に比べれば全然楽勝じゃないですかと言われ、それもそうかと納得していると脳内マップに敵意を示す赤い光点が一つ、二つと増えていく。
「認識阻害は正常に効いているんでしょうか?」
「ん~多分ね。でも、それ以前にこの高さだよ。ほら、足下に何があるのかさえよく見えないのにさ」
「そうですね。それにこの辺りはもうエルフの国に入っているでしょうから、こちらを監視しているのは……おそらくエルフの狩人部隊でしょうね」
「どうしよう?」
「とりあえずはそうですね。彼らが何もして来ずに監視だけに留めているのはこの高さまで届かせる攻撃手段を持たないのか、それとも単に……注意しているだけなのか。どっちなんでしょうね」
「それも行けば分かる……って、ことだよね」
「守ってくれるんですよね?」
「オジー、それって逆じゃない?」
「だって……エルフ、怖い……」
「えぇ~」
多分だけど、俺達は既にエルフの国境を越えたことで、監視対象として認識されたみたいだけど、エルフ達からも俺達の高さまでは手が届かないらしく手を拱いている様だった。
それでも行くしかないでしょと世界樹目掛けて再度、動き出す。
「隊長、動きましたよ。隊長!」
「聞こえている!」
「ならば「どうしろと?」……どうって……」
「相手は俺達が持っている矢は届かない。よしんば届いたとしても刺さるほどの力は残っていないだろう。かすり傷すら着けられまい」
「なら……」
「魔法か? 誰があの高さまで届かせられる?」
「届かなくても「落とせばいい……か?」……はい」
「だから、その方法は? とさっきから聞いているだろうが!」
「……」
「誰もないのか?」
「「「……」」」
「とりあえず伝令だ。『見かけないヒト族らしき人物二名が怪しげな方法で世界樹を目掛けて飛行中。今の所敵意は感じられない』とな」
「はっ!」
エルフの国境守備隊隊長……マキシは頭上を飛んで行くボンヤリとしか見えない二人を睨み付けながら「まあ、飛んでいるアイツらよりも早く着くことは無理だろうな」と、独り言ちる。
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