閑話 上手く説明出来たかな
「お兄様! 私、聞いてませんわ!」
「クリスよ、感心しないな。少し行儀が悪いよ」
「そんなことより、どういうことなのか説明してください!」
「説明? 何をだ?」
「惚けないでください! ヒロ様のことですわ!」
「ああ……そのことか」
「そうです! そのことですわ。もちろん、ちゃんと分かる様に説明はして下さるのでしょうね」
「いや」
「くっ……お兄様!」
「まあ、少し待て」
「待てません!」
「なら、出て行け」
「ぐ……」
「説明を望むのなら、私の執務が終わるまで暫し待て」
「……分かりましたわ。ナルハヤでお願いします」
「ふっ……分かったよ。可愛い妹の頼みだ。少し頑張ってみよう」
私が執務室で大量の書類を前に奮闘していると誰かがノックもせずに乱暴に執務室に押し入って来たと思い顔を上げればそこにいたのは妹のクリスだった。
そして私を認めると「説明を!」と声を荒げる。
少々興奮気味のクリスをあしらいなんとか落ち着かせると私は執務を続ける。
「よし、これで最後だな」
「待ちくたびれましたわ」
「……顔を拭きなさい」
「え?」
「口元が汚れているぞ」
「は! お、乙女の寝顔を覗き込むのは例えお兄様と言えど問題ですわよ」
「……あのね、私が無断で寝ているクリスの寝室に入り込み顔を覗き込んだのなら、そうだろうが……ここはどこだか分かるかい?」
「あ! そ、そうでした……申し訳ありません」
「うん、分かってくれたのならそれでいい。では」
「はい。分かりました……って、そうじゃありませんわ!」
「お、おう……」
私が今日の分の執務を終え顔を上げた時にはクリスは待ちくたびれてしまったのか、座ったままの状態でうつらうつらとしていたのだが、その口元からは透明な液体がツーと伝っていたが、私の視線に気付いたのかクリスが覚醒し口元を軽く拭ってから私をジッと睨み付けた。
その後の会話でなんとか質問をはぐらかすことが出来たかと思ったが、それは甘かった様でクリスは絶対に聞き出すと態度を改める。
「で、聞きたいことって?」
「決まってますわ。ヒロ様のことです」
「ヒロ殿か。彼がどうしたんだい?」
「分かっていますでしょ。ヒロ様は冒険者です」
「うん、そうだね」
「そのヒロ様が冒険者として依頼を受け旅立ったと伺いました」
「へぇ~そう」
「ですが、ヒロ様は冒険者と言いましても指名依頼を受けられるような高ランクではないと伺っています」
「そう」
「なのにヒロ様は依頼を受け、既に旅立ったと伺いました」
「ふ~ん、それで私に聞きたいこととは?」
「惚けないでください! ヒロ様に依頼を受けさせたのはお兄様なのでしょ。ハッキリ仰ってください」
「そうだよ」
「へ?」
クリスが乱暴に執務室に入ってきたことから、十中八九ヒロ殿のことで言いたいことがあるのだろうとは思っていたが予想通り過ぎて欠伸が出そうになる。
しかも私が依頼を受けさせたことまで分かっているのに私が何も言い訳しないことに拍子抜けしたのか王妹として口に出してはいけない間抜けな声が出る。
「質問はそれで終わりかな?」
「……い、いえ。ならば、次の質問です」
「どうぞ。とは言え、なんでそんな依頼を……ってとこかな?」
「あ、当たっています。そこまで分かっているのなら教えてください。どうして、ヒロ様にそんな依頼を出されたのですか!」
「そりゃ、ヒロ殿を守る為だよ」
「へ?」
もう少し違った質問がされるかと思ったが、想定内の質問だったので慌てることなくヒロ殿に説明したのと同じ内容をもう一度クリスに話す。
「そ、そんなことの為に……」
「そんなことって言うけど、彼を手に入れる為ならばと自分の娘すら人身御供として差し出すことも厭わないかも知れないからね。そうなると一々断るのも面倒だろうし。いくらヒロ殿が客であっても高位貴族からのお願いを無下に断ることも難しいだろうからね」
「そんなのお兄様が「うん、出来なくはないよね」……ならば!」
「でもね、既にウララ嬢の面倒を見ると宣言したばかりだし、表向きにはなんの取り柄もないヒロ殿まで面倒を見るとなれば『王家が客を独占するのか!』と言われるだろう」
「ですが、ヒロ様は私の婚約者です! その婚約者の兄であるお兄様がヒロ様の面倒を見るのになんの不都合がありましょうか」
「うん、問題はそこなんだよね」
「はい?」
クリスはヒロ殿を狙う連中を相手にすることをそんなことと一蹴するが実際には一々相手の家格などを考慮し言葉や態度を気にするのは苦痛でしかない。
そしてクリスは『私の婚約者なんだから』と言うが、ヒロ殿本人は仮と考えている。
そのことを伝えるとクリスはキョトンとした顔で「なんで仮ですの?」と聞いてくる。
私はその言葉を聞いて嘆息しながら「それは君が一度はヒロ殿を振り払ったからじゃないのかな」と言えば「そんなことはしていません!」と鼻息も荒く反論してくる。
「ならば、大量の『お祈りの手紙』はどう説明する?」
「そ、それは……そ、そうですわ! アレは過去と訣別するために書いたものです。私はなんら恥ずべきところはありません」
「本当は?」
「数打ちゃ当たるとも言いますし……ハッ! ち、違いますわ!」
「うん、そうだね。君は全ての『お祈りの手紙』が返されたから、先日の婚約発表となったんだよね」
「そ、それは……」
「まあ、今更それをなかったことにすることは出来ないし、咎めるつもりもない」
「あ、ありがとうございます」
「でもね」
「ま、まだ何かありますか?」
「うん。クリス、君は私の妹であることは正しく理解しているかな」
「勿論です! 何をそんな当たり前のことを」
「そう。でもね、この前のいきなりの婚約発表といい、かつて想いを寄せた相手に手紙を送るなど、少し自分の立場を理解していないのかなと思わせる言動が目に付くのはどうなのかな」
「……申し訳ありません」
「まあ、それも魔力量が増えたことで気分が高揚したと思えば許せなくもない」
「あ、ありがとうございます」
「でもね、ヒロ殿は客と言えど、この国ではイチ平民として扱われる。そして君は王妹だ。意味は分かるね」
「……家格の問題ですか」
「そう。君がお嫁に行くのは兄としては諸手を挙げて賛成だ「では!」……よく聞きなさい」
「はい……」
「兄としては賛成だが、王としては賛成しかねるということだ」
「……」
「だから、ヒロ殿には家格について他の者に文句を言わせないくらいの存在になってもらうことを期待しての依頼だ。分かってくれたかな」
「……よくは分かりませんが、だいたいは理解したつもりです」
「うん。今はそれで十分だ。じゃ、いいよね」
「……はい。ありがとうございました」
クリスは私の説明に多少首を捻りながらもなんとなく理解してくれたようで大人しく執務室から出て行った。
私は背もたれに背中を預けながら「ホントに頼むよ義弟君」と呟く。
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