第61話 そういうことなら
「ヒロ殿、少しいいだろうか」
「えっと、王様がどうしてここへ?」
オジーから「王様がヒロ様に会いたいと言われています」と言われ、応接室へと来てみれば「よっ!」と気軽そうに右手を挙げながら軽く挨拶をしてくる王に対し「陛下……」と何かを言いたげな伯爵が嘆息する。
まあ今更かと俺も挨拶もそこそこに王の対面へと座る。
「で、突然現れた理由は教えてもらえるんですよね」
「理由? 親友に会うのに理由が必要なのかい?」
「そんなものになった覚えはありませんけど?」
「おいおい、何れは義弟になるだろ」
「それはまだ『仮』ですよね」
「まあ、今はな……」
「それで突然の訪問の理由とやらを教えてもらえないでしょうか」
「……」
「ないのであれ「あっ! 待て待て!」……では、待ちましょう」
挨拶を済ませたが王がなかなか用件を言わないので「それなら」と腰を浮かせたところで王が慌てて手で制するので、俺も話してくれるのならと座り直す。
「……」
「ないのなら「待て! 話す! 話すから!」……ならば、早くして下さい。こちらも……あれ?」
王が話さないのならと再度、立ち上がろうとしたところで王が話すと言うから、また腰を下ろし俺も忙しいからと言おうとして、ふと思い出す。
「あれ? オジー、もしかして俺ってスッゴくヒマなのかな?」
「そうですね。特にこれといって急ぐこともないですね」
「もしかして俺っていらない子?」
「それだ! それなんだよ! ヒロ殿! 私が言いたいのはそこなんだ!」
「え?」
忙しいのを理由に王の話を断ろうとしたが、改めて考えるまでもなく俺は何もしていない。
いや、実際には先輩の手伝いをしているから完全にヒマと言う訳ではないけど、じゃあそれは俺でないとダメなのかと考えれば、別に俺じゃなきゃダメってのはホンの少しだけだったりする。
なので「もしかしていらない子なのかな」とボソッと呟いたのを王が「ソレだ!」と俺にビシッと右手人差し指を向けてくる。
「人を指差しちゃいけないって親から習いませんでした?」
「あ……すまない。だが、聞いてくれないか」
「だから、さっきから王様が話すのを待っているじゃないですか」
「そうだったな。いや、悪かった」
「で、ソレとは?」
「実はだな……」
王が言うには俺にしか出来ないことを頼みたいと言うことだった。
俺の隣に座っていた伯爵も王が話している内容を腕組みし吟味している様だ。
俺はと言えば「それぐらいなら」と気軽に考えていたのだが、オジーの方をチラリと見れば、こちらも眉間に皺を寄せている。
伯爵もオジーも何をそんなに難しく感じているのだろうと不思議に思っていると王は俺の顔を見てニコニコしている。
「ヒロ殿は承知してくれたと……思ってもいいのかな?」
「そうですね。まあ、俺としては特にこれといった要望もなければ断る理由も特にないので」
「陛下、よろしいでしょうか」
「ん? 君はヒロ殿の……確かオジーと言ったな。構わない申せ」
「は! では、失礼ながら……先程お話しされたことはヒロ様にとって利がないように思えますが、如何でしょうか」
「陛下、私も同じ意見です」
「ふむ。そうか、だがヒロ殿はどう思う?」
「へ?」
王が俺に依頼したのは国内外の色んなところを回って欲しいという単純なものだった。
だけど、その裏の理由としては王に何かあった場合に俺の転移で安全に逃亡したいというのがある。
俺の転移は俺が実際に訪れたことのある場所に限定される為、俺が動かないことにはしょうがないという側面もある。
それに対し異を唱えるのがオジーと伯爵で、どう考えても俺に利がなさ過ぎだと王に向かって反論する。
俺はそんなことないんだけどなぁとか考えていたんだけど、王はとんでもないことを言い出した。
「確かにぱっと見はヒロ殿に対し利はないように思える」
「そうです。余りにもこれは……」
「だがな、前回のお披露目でウララ嬢を王家で保護すると宣言したものだから、それならばヒロ殿にと触手を伸ばそうと考えている者達が少しばかりいる。だが、旅に出ればそんな手合いからも多少は逃れるだろうと思っている」
「それでは外に出る方が危険ではないのですか。このまま屋敷に「幽閉するつもりかい?」……い、いえ。そんなつもりでは……」
この前のお披露目で先輩がダメなら俺で我慢するかと狙っているお貴族様達が少なからずいるからということで、それならば外に出してしまえば手が出せないだろうと王が言えば伯爵は危険が増すと訴えるが、それならば俺は御屋敷に幽閉……軟禁されるのと変わらないことになる。
そんな風に思っていたのが伯爵にも通じたのか「あっ!」という風な顔で俺を見ていた。
「俺からもいいですか」
「ん? 聞こうじゃないか」
「伯爵様が俺の身を心配してくれるのはありがたいと思いますが、俺はこの話を受けようと思います」
「ヒロ殿……もう一度、よく考えてみた方がよくないか」
「ヒロ様、私はヒロ様の決定に従いますが。やはり余りにも利がなさ過ぎます」
「うん、それは俺もそう思うよ」
「ならば「それでも行きたいんだ」……ヒロ様……」
王は俺の言うことを腕組みしたままうんうんと頷いて聞いているが、別に「アンタのためなんかじゃないんだから!」と、言いたいところだけどちょっと我慢する。
「あのさ、俺は客としてこの地に降り立った訳でしょ」
「はい、それは分かっております」
「ん。でさ、まだ俺が訪れた場所って少ないんだよね」
「それは……」
「まあ、聞いてよ。でもさ、日本の様に高速移動出来る乗り物や、他の場所を覗き見られる道具もない。なら、直接出向いてこの目で確認するしかないよね」
「ですが……」
「それにオジーは俺の身を心配するけど、俺ってそんなに弱い?」
「あ!」
「うん、思い出してくれたみたいだね。まあ、こんな見た目だから忘れるのもしょうがないけど、思い出してくれてよかったよ」
「そ、そうでした! ならば、何も問題ありませんね」
「納得してもらえたようで嬉しいよ。で、理由はもう一つあるんだけどね」
「「「え?」」」
俺が旅をしたい理由をオジーに話して分かってくれたのかオジーも俺に賛同してくれることになったところで、王が更に理由があると言い出す。
「理由?」
「ああ、そうだ」
「えっと、いざという時の為の保険……でしたよね」
「それは表向きね」
「ん?」
「君は私の妹。王妹であるクリスの婚約者だよね」
「まあ、仮ですけどね」
「まあ、そこはいいとしてだ。問題は君の……ヒロ殿の身分なんだ」
「ん? 身分がどうかしましたか?」
「ふぅ~いいかい。さっきも言った通りクリスは王妹……つまりは王家に身を連ねる者だと言うことは分かるよね」
「ええ、それはまあ……」
「いいかい。仮にも王家の娘がだよ。降嫁するするにしても平民は有り得ないんだよ」
「じゃあ、けっこ「ダメだからね」う……えぇ! じゃあ、どうしろと?」
「うん。だから、この旅に行ってもらっている間に君とクリスとのことについてどこからも意見が出ないように調整するのが目的だ」
「いや、だから仮ですから、もう面倒ならこのままなし崩しにナシにしてもらっても……」
「だから、ソレじゃダメなんだよ」
「えぇ!」
「だから、ヒロ殿が旅している間にクリスの心変わりを期待するか、君がどこかで異性と……まあ、別に異性じゃなくてもいいけけど……とにかく既成事実なりを作ってクリスに現実を突き付けてもヨシとしよう」
「いや、そこは異性でいいでしょ。って、それでいいんですか?」
「まあね。いや兄としては勿論イヤだし、巫山戯るなって話だよ」
「なら……」
「うん、そこは兄じゃなく男として同情する余地はあるかなと思ってのことだね」
「あぁ~」
王の話を纏めると、いざと言う時の為の逃走路を用意すると言うのが本題であり裏テーマとしては俺とクリスの関係をどうにか周囲に認めさせるか、または俺が誰かとイッパツやって来いって話だ。
まあ、このままヒマしているのもアレだし王の話に乗らないのはないなと俺は王の手を握り「分かりました。その依頼受けます」と言えば「ありがとう! 義弟よ!」と握り替えされた。
「あ、こりゃイッパツやるのが正解かな」と思わずにはいられなかった。
※※※
と、いうわけでこれで第二章を終わります。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
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