第60話 産んでくれてありがとう
王との対談? を終えてから部屋を出るとオジーが直立していたので「もしかして待っていたの?」と声を掛ければ「はい、それが私の役目ですから」と頭を垂れる。
「ありがとう。じゃ、帰ろうか」
「はい。では、馬車の用意を「いいよ」……え?」
「もう、疲れたし面倒だから、このまま跳んじゃおう」
「ですが……はぁ、分かりました。では、私もご一緒しても?」
「当たり前でしょ。ほら!」
「はい!」
俺は少しだけ頬を赤らめソッと側に寄ってくるオジーに「信じていいんだよね」と願いながら小さく「転移」と呟けば、王都内に用意されている伯爵邸の自室へと一瞬で転移する。
そしてヒロ達が転移するのをジッと様子を窺っていた三対の目。
「ほぉ~アレが……」
「そうね。あれなら大丈夫そうね」
「だよね。まあ、顔についてはクリスはもう諦めがついたみたいだけど、それ以上に付加価値の方が大きいからね」
「まあ、あの血を取り込めるのであれば申し分ないな」
「そうね。ホントにギリギリだったわね」
「って言うかちゃんと報告書は提出してくださいね」
「……それは、ほれ。そのぉ~まぁ~なんていうかだなぁ~」
「ん~そうね、クリスちゃんの婚約祝いってことで……ナシになったり……とか?」
「なりません! いいですか、期限は敢えて設けませんが提出するまでに掛かった期間はちゃんと考慮しますからね」
「おいおい、考慮するってのはどういうことだ?」
「そうよ。報告書って作ったことないけど大変なんでしょ? そんなの出来るかしら?」
「ハァ~」
王はクリスのことを理由に今まで放蕩三昧していた両親に対し、キチンと報告書を出せと言うが両親は「そんなモノは知らない。出来ない」とばかりになんとかナシにしようとしているが王も民の血税を好き勝手に使われては、民に対し顔向け出来ないとばかりに何が何でもキッチリと報告書を出してもらうと気勢を崩さない。
だが、目の前の二人はそんな王の言葉をのらりくらりと躱し続けるので王は嘆息しながら「分かりました」と口にすれば二人の顔は途端に綻ぶ。だが、その後に続く王の言葉に再び打ちひしがれることになる。
「……分かりました。まあ、書けないと言うのであれば無理をする必要もないでしょう」
「おぉ! 分かってくれるか!」
「そうよ。やはり私達の息子は違うわね」
「但し!」
「「へ?」」
「いいですか。但し、今後一切の金銭の自由、及び行動の自由は許可出来ませんのであしからず」
「え? ちょ、ちょっと待て!」
「そうよ、お金もダメ、外に出るのもダメってどういうこと?」
「どういうことも何もそのままの意味ですが?」
「だから、何故そういうことを言うのかと聞いている! 私はこれでも「先王陛下……ですよね」……あ、ああ。そうだ! 先王だ。分かっているなら」
「では私が今代の王と言うことも分かりますよね」
「あ、ああ……そうだな。私が王位を退きお前がその後に座った」
「はい、よかった。覚えていられましたか」
「ば、バカにするな! そこまで耄碌しておらん!」
「そうよ。私達をお年寄り扱いするなんて非道いわ!」
「では、私が今代の王と言うことが分かったのであれば、先王よりも権威があることはお分かりでしょう」
「……そ、それはそうだが」
「そうよ。確かに今は貴方が王様かもしれないけど、もう少し……そのなんて言ったらいいのでしょう。そう、そうよ! 親に対する扱いってものがあるでしょう。ね、そうでしょ!」
「ほぉ……私に親としての何を説くつもりか分かりませんが、少なくとも成人して日が浅かった私に王位を押し付けるような形で城を離れたお二人に対し何を敬えと言うのでしょうか?」
「「……」」
先王夫婦に報告書を出さないのであれば暗に「なら幽閉するけどいいよね」と提案すれば「それが親に対する態度か」と反論するが王にとっては親として産んでくれたことには感謝しているが、成人してからは苦労しか与えて貰っておらず感謝の情はない。
だが、それでも産んでくれたことには変わりないので、その温情として衣食住に困らないように外敵に晒されないようと守護することを提案したのだが、二人はそれを幽閉だと言う。
なので王は「それがイヤならちゃんと書いてくださいね。銅貨一枚漏らさずにお願いしますよ」と二人の目をジッと見詰めながら口にすれば、二人は互いに見詰めてから無言で頷く。
「あ、言い忘れましたが紙袋の中味はお好きにどうぞ」
「「!!!」」
王は紙袋の中に興味が移った二人を嘆息しながら見つつ静かに立ち上がり部屋を出ると外にいた衛士に「私の許可なく出さないように」と言付けてから歩き出す。
「ヒロ殿にはお願いすることがあったのにな……」
王はため息交じりに廊下を進む。
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