第59話 旅立ちってそっち?
「実はな『コンコンコン』……」
「続けてください」
「あ~実はだな『コンコンコン!』……ったく」
「気にせずに続けてください」
「いや、でも……」
扉をノックする音に王の話が中断されるが、相手は王様だ。
この機会を逃せば、今度はいつ会って話が聞けるか分からないので、ノックなどは気にせずに早いところ本題に入って欲しいのだが、王は王で何かあったのではないかと気が気ではないようでどことなくソワソワしだして落ち着きがなくなった。
「王様、扉の外が気になるのは分かりますが、それならそれで早く話してスッキリしてはどうですか」
「ん~そうだな。それもそうか。では『コンコン! コン!』……やっぱり……だよね。じゃ『ドンドンドン!!!』……ごめん」
俺は部屋の外の雑音を気にせずに早く話してスッキリさせてから対応してもらえないかとお願いするが王がやっと話し始めようとしたところで、部屋の扉がまたノックされるが、俺が頭を振ったのを見て「そうだよね」と話をするのが先と改めて話し始めようとしたところで扉を叩く音が今までの軽いノック音から『ドンドンドン!!!』と激しく叩かれ始めた為、王もこれは無視出来ないと俺に軽く謝り「入れ!」と不機嫌そうに扉の向こうへと声を掛ける。
「いつまで待たされるのかと思ったぞ」
「そうよ。で、貴方がクリスちゃんの婚約者なの?」
「父上! 母上! いきなりなんですか!」
「落ち着けジョルジュよ」
「そうよ。私達に久々に会えて嬉しいのは分かりますが、貴方はもう国王なのですから、分かりますよね」
「ぐ……では、ここへ来られた理由はなんでしょうか」
「それは決まっておる」
「ええ、そうね」
「え?」
「ハァ~」
部屋の扉を激しく叩いていたのは先王と、その奥様だと言うのは王の態度から分かったが「ちょっと待てよ、ん?」と頭の中に疑問が生じる。
「なんで亡くなった王の両親がここにいるんだ?」と。
さっき王は先に王妃が旅立ち、その後を追うように先王である国王が旅立ったと言ったことを思いだしたのだが、そうなると今俺の目の前にいる二人は何者だろうかと不思議に思う。
そんな風に二人を訝しんでいる俺に気が付いた王が「どうした?」と不思議そうに聞いて来たので「だって」とさっき聞いた二人のことを問い詰めてみる。
「ん? 誰が死んだって?」
「いやいやいや、だって床に伏して旅立った……ってそう言いましたよね」
「ああ、言ったな」
「でしょ。ってことは「だが、死んだとは一言も言ってないぞ」……へ?」
王は「例え冗談でも両親を勝手に殺さないでくれ」と言うが、俺も「ちょっと待て!」と問い返す。
「だって旅立ったって……普通はそういう風にとるでしょ」
「普通? 何が普通なのかは分からないが、私は両親が文字通りに旅立ったから、そう言ったに過ぎない」
「へ? じゃあ……お二人は本当に?」
「ああ、正真正銘の私の両親で先王とその王妃だ」
「よろしくな、婿殿」
「クリスちゃんを大切にしてね」
「え……」
王の説明に納得いかないものの、実際にお二人は生きてここにいるのだから王が言うのは正しいのだろう。
っていうかさっきクリスに同情した俺の気持ちを返せとばかりに王を睨んで見るが、王はそんな俺の視線を気にすることなくご両親に向かい突然の登城について確認している。
「別に帰るのに理由など必要ないだろ」
「そうよ。クリスちゃんが元気になったって聞いたら会いたくなるでしょ」
「それまで知らない振りをしていたのにですか?」
「……知らない振りはないだろ」
「……そうよ。これでもクリスちゃんの体質改善の為に色々と探していたのよ。これはホントよ。信じて!」
「ええ、お二人が色々と探していたのはよく知っていますよ」
「ふふふ、労いの言葉はいらないぞ。なんせ最愛の娘の為だからな」
「そうよ。全部クリスちゃんの為だもの! 少しも苦労とか思ってないわよ」
「そうですか。では、今までの旅程と成果について報告書に纏めて出して下さいね」
「「報告書?」」
「ええ、そうですよ。お二人は国の金を使って諸外国を漫遊していたのですから当然ですよね」
「いや、しかしなジョルジュよ……報告書と言ってもだな」
「そうよ。クリスちゃんの為だと思って足が棒になるくらい探し回ったのよ」
「そうですか。それで、その疲れを癒すためにエステや高級温泉宿に豪華な料理が必要だったと……そう仰りたいので?」
「おぉ! さすがは我が息子だ!」
「そうよ。だって探し回って疲れたんだもの」
「ふぅ~お二人が言いたいことはよく分かりました」
「「じゃ「でも、報告書は必ず提出して下さいね」……えぇ!」」
王は俺との会話を続けるよりは両親に対し色々と追求したいことがあるようなので俺はゆっくりと腰を浮かせ部屋から出ようとしたが俺の腕を王妃と先王が掴む。
「え……離してもらえませんか?」
「私を見捨てるのか? 私は未来のお義父様じゃないのか!」
「そうよ! ね、貴方からも息子にお願いしてちょうだい」
「ヒロ殿、すまないな。この埋め合わせは必ずする。今日のところは帰って欲しい。見ての通り私にはやらねばならぬことが出来たのでな」
「はぁ……ほら、王様もああ言ってますし」
「「……」」
二人は首を横にフルフルと激しく振るだけで俺の手を離してくれそうにない。
だから、俺はインベントリからデパ地下スイーツが入った紙袋をソッとテーブルの上に置けば二人の視線はテーブルの上に釘付けになり、紙袋の上で鼻をスンスンとさせ、自然と俺の腕を離し、紙袋をソッと開け始めたところで王が俺に向かって顔の前で手を合わせたので、それを退室の了承と取り軽く会釈してから部屋を出る。
部屋を出る前に「コレはお預けです!」と王が言った後に「えぇ~」と落胆する二人の声が聞こえた。
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