第56話 真相に近付いたけど
「な、なぜだ……」
「ダエス卿よ。其方の策も尽きた様だな」
「いえ、まだです。まだ、分かりませんぞ」
「まあ、諦めたくない気持ちも分からないではないが、王妹を相手に生半可な策を弄するのは却って自分の首を絞めることになるやも知れぬぞ」
「ぐぬぬ……」
ヒロの腕に自らの腕を絡め嬉しそうな顔をしている王妹であるクリスを恨めしそうに見ているダエスに対しセドリックがアドバイスとも言えない極当たり前のことを言う。
「どうせなら、クリス様の相手を探してみてはどうだ?」
「お戯れを……貴族、それも王族でありながら魔力量が乏しいと言われているのですぞ。もし子でも成せば、その子も魔力量には期待出来ないのは分かりきっていることです。それを考えると王家と懇意になることを差し引いてもさして利にはならないでしょう」
「ふむ。だが、最近聞いた話ではクリス様は自ら嘗て恋い焦がれていた異性に対し手紙を認めたという話だ」
「それはどういうことでしょうか?」
「分からないか」
「はい、皆目見当がつきません」
「卿も先程言われていた様にクリス様は魔力量の乏しさを理由に色んな貴族家からお断りされたと聞いている。そんなクリス様が今更手紙を送った意味はなんだと思う?」
「さて……」
「分からないか。私が思うにだ。以前は魔力量の乏しさで多くの家から断られたが、今はそれが払拭されたから……と、言うのはどうだ?」
「払拭された? て、ことは魔力量が増えたとでも?」
「ああ、そうだ」
「それこそまさかでしょ。セドリック様もご承知の様に成長期を終えた後に魔力量が増えたという話は聞いたことがありません」
「ああ、そうだな」
「でしたら「では、クリス様の行動をどう考える?」……それは……何故でしょう」
「私の寄子がクリス様から手紙を受け取り、どうしたものかと相談して来たのだが、そこには『私達の間を阻んでいた障害は綺麗に取り除かれました』と書かれていたそうだ」
「障害……まさか!」
「ああ、間違いないだろうな」
「で、その寄子は受け入れなかったのですか」
「既に妻子がいる。もしクリス様を受け入れるとなれば、正妻の座を明け渡さないといけなくなるだろう。それに王妹に相応しい装いも必要となれば飛んで行く金子も多額になるであろうと、その寄子は『私にはもったいない。お幸せをお祈りいたします』と返したらしい」
「なるほど……で、何も知らない客である彼奴を取り込もうと画策しているのですね」
「または……」
「または?」
「彼奴がクリス様を変えた……とかだな」
「は? いくら客と言えど、それは無理でしょう」
「そう思うか?」
「はい。いくらなんでもそれは……」
「だがな、噂で聞いた話ではある村では村人の魔力量が尋常ではないほど増大しているらしい」
「は? 村人がですか? いくら噂でもそれはちょっと」
「ああ、私もそう思った。だが、噂とはいえ気になり確かめようと手の者に指示したのだが、何も掴めなかった」
「何も……ですか」
「ああ、何もだ。正確には……邪魔されただな」
「邪魔?」
「そうだ。噂の出所である村に近付こうとすると、警告される。それを無視し近付こうとすれば力尽くで排除され村から離れた場所へと移動させられるらしい」
「そこまで隠すと怪しいですな。で、諦めたのですか?」
「ああ、諦めた。いや、諦めさせられたと言った方が正しいだろう」
「どういうことですか?」
「邪魔していたのが王の影部隊だからだよ」
「影……噂では聞いたことがありますが……その影が動いたとなると……」
「ああ、噂は本当だろう。それと、その村はあの客が落ちて来た場所の近くとも聞いている。それらを踏まえて考えるとだな」
「鍵は彼奴が握っている」
「そうなるな……で、どうする?」
「……止めておきます」
「ああ、それが賢明だな」
「ですが、チャンスは逃さないようにしたいと思います」
「それは私もだ。だが、抜け駆けはしないようにな」
「分かっておりますとも」
「ふはは、気の長い話だな」
「ええ、ホントに……」
二人の貴族家当主の話を気配を隠しずっと聞き耳を立てていた影は、これ以上は何も掴めないとその場からスッと立ち去り、王の側に寄り先程の会話の内容を掻い摘まんで報告する。
「分かった。引き続き監視してくれ」
『は!』
王は嬉しそうなクリスと、そのクリスの対応に困っているヒロの姿を見ながら「人の口に戸は立てられぬか」と独り言ちる。
「ヒロ様、ここにいる皆様が私達のことを祝福してくれていますわ!」
「へぇ……って、なんでこうなった……」
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