第12話 先人に感謝!
村長が言うには、普通のスライムはこんなに丸くないし、飛び跳ねることもしなければ、人の言葉を理解することもないし、ましてや人の様にお辞儀することも無いと言う。
だが、それを俺に聞かれても困る。だから、俺は「さあ」とだけ答える。
「は? お前が何かしたに決まっているじゃろ!」
「だから、それを俺に言われても分からないって。だって、俺は昨日ここへ来たばかりの異世界初心者なんだぞ」
「ぐっ……それを言われちゃぁな」
「でしょ。大体さ、昨夜もメシ食わせるって言いながら、俺は放置でよろしくやっていたのは村長達でしょ。なのにワケが分からないことを全部俺のせいにするのはどういうことなのかな」
村長はセツの存在を俺のせいだと言ってきた。ま、大体は俺が仕出かしたかなと思わないでもないけど、ここで俺が認めてしまうと更にややこしくなるなと思い自分でも苦しい言い訳を披露し、ついでに昨夜のメシを食わせると言って放置していたことも持ち出して有耶無耶に出来ないかなと試してみる。俺の願いが通じたのか、村長は少しだけ言葉を詰まらせる。
「いや、それは……」
「あら! そう言えば、お礼もまだだったわね。えっと、ヒロさん。あなたの御陰で私達は久しぶりに「リノ!」……え、ダメ?」
「いや、ダメと言うかじゃな。昨夜のことは……その……なんだ……二人だけのヒミツというか」
「ふふふ、大丈夫ですよ。何もかもを話す訳じゃありませんから。でもね、あんなにスゴかったのはホントに久しぶりだったから、私としてもヒロさんに何かお礼をと……ね?」
「リノ!」
「あら、やきもち? ふふふ、なら今夜も……」
「バカ! まだ朝だぞ」
「そんなの窓さえ閉めて、暗くしちゃえばいいじゃない。ね?」
「ふむ、それもそうか「村長!」……は!」
「もう、もう少しだったのに……」
村長が俺の扱いに困っていると、奥さんが横から「ヒロさんにお礼を言わないと」と会話に加わるが、どうも話の内容が昨夜の二人のことについて、どれだけよかったのかを言いたそうだった。いくら俺でも他人のそういうことはあまり聞きたくはない。
村長と奥さんが、ナニかを始めようとしたのをゴサックが慌てて止めたので、俺も改めて村長達が何をしに来たのかを聞いてみる。
「で?」
「で? とは?」
「いや、だからさ。村長達は結局、何をしに来たの? 領主からの使いが来るまで逃げるなってことなら了承したけど?」
「お! そうじゃった。ま、了承してくれたのなら話は早い」
「ちょっと、あなた。そうじゃないでしょ」
「ん? 他に何かあったかな?」
「もう、だから……ね」
「ん? 分からん」
「……ボケました?」
「失礼な! ワシはまだそんな歳じゃ無いわ!」
「そうよ。昨夜だって、あんなに……きゃっ!」
「リノ!」
「もう、あなたが悪いのよ。私にナニを言わせるの! そういうのはお家に帰ってからでしょ」
「「『……』」」
村長と奥さんのやり取りを俺とゴサック、それにセツが呆れて見ていると、それに気付いた村長がバツが悪そうに「いやいやいや、そうじゃった」と何をしに来たのか思い出したようで「朝食を一緒にどうだ」と言ってきた。
「あ~そういうこと。もう、そういうことなら早く言ってよ」
「すまんな」
そういう訳で村長の家で朝食を呼ばれることになったのだが、俺はテーブルの上に並べられた食事を見て自分の目を疑った。
「えっと、ここは異世界だったハズ……なんだけど……」
「どうした? 何か苦手な物でもあったか?」
「あら、そうなの? 無理して食べなくてもいいからね」
「ふはは。リノさんの作るご飯は美味いぞ。食べないと損だぞ」
「もう、ゴサック。そんなこと言わないの!」
そう、食卓に並んでいたのは日本では当たり前の小振りの茶碗に盛られた白いご飯、湯気を立てて、お椀に入っている茶色い液体の中にはサイコロ状の白い物に短冊状のきつね色の物と小皿の上には少し焦げ目の付いた黄色く四角い物が並べられ、小鉢にはどう見てもお漬物が入っていた。
そして膳の上には一組の塗り箸と湯呑みに入った緑色の温かそうな液体。
「うん、どっからどうみても旅館の朝食だな」
「冷めない内にどうぞ」
「あ、はい。いただきます」
「「「いただきます!」」」
俺は「いただきます」と言った後に先ずは湯呑みを手に取り茶柱が立っているそれを口に含む。
「普通にお茶だな」
「ふふふ、驚いているようじゃな」
「まあね。普通ならもう戻れないかも知れない日本を思って嘆いているところだけど、こうやって目の前に『ザ・和食』って感じで並べられれば、そういう思いも吹っ飛んじゃうよね」
「ふむ、そういうものかの」
「そうなの! だってね、俺が知っている異世界の定番と言えば、固いパンだけの食事だったりするから、それをどうにかこうにかお米を探し出し和食を再現させることに執着するってのが定番だからね」
「なるほど。ならばヒロより前に来た先人がそうじゃったのかもな」
「あぁ~」
俺が目の前に和食が並んでいることに対し思わず「異世界ならこうだろ!」と力説するが、そもそも異世界なんて俺自身、今回が初めてのことだし。先人の客が俺と同じ気持ちなら、自分達でなんとかしようとした結果が目の前にある和食だとしたら、それはそれで見たことも聞いたこともない先人に自然と手を合わせてしまう。
「ごちそうさま」
『ピ!』
「ふふふ、どういたしまして」
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