第53話 降臨したのは美の女神
伯爵と俺達はまだ今代の客とだけしか紹介されていないのにお貴族様達を置いてきぼりにして三人でずっと話していたのを王の空咳で現実に引き戻され慌てる。
「と、まあこういう具合に男性……ヒロ殿はその見た目同様に得意なことも特異な点もない凡庸な成人男性とだけ言っておこう」
「「「はぁ……」」」
打ち合わせの時点で俺が目立つことのないようにと特に留意する点はないと宣言するとは言われていたが、これだけの人達にああも溜め息を吐かれると分かってはいてもくるものがある。
いっそ、ここで「実は……」と言えたらどれだけ楽かと思うけど、その反動もやっぱり大きいので黙っているのが正解なのは間違いない。
「でもなぁ~」と思っていたら、先輩に脇を突かれビクッとなる。
「大丈夫。ヒロの凄いところは私が十分に分かっているから。そう気を落とさないでよ」
「……」
「何よ。何が言いたいの?」
「いえ。ただ……」
「何?」
「俺のことを気にしている暇があるのかなぁ~って」
「え?」
「だって、ほら」
「あ!」
そう言って俺が先輩のことを紹介しようとしている王に意識を向けさせると王は黙って頷き「引き続き、客の女性……ウララ嬢について少しだけ話をさせてもらおう。ウララ嬢、私の横に」
「あ、はい」
王は先輩を自分の左隣に立たせると「何か気付く者はいるか?」と先輩のことを観察しているお貴族様達に向け質問すると「よろしいですか」と声を上げる者がいた。
「ああ、構わない。セドリック卿、申すがよい」
「はい。では、失礼ながらそちらの女性の年齢などお答え願えますか」
「え、ちょ「構わない。確か二十六と聞いている」っと……なんで言うかなぁ~」
「二十六……」
「何ですか。何か問題でも?」
「い、いえ。客様に文句など。ですが……」
「だから、言いたいことがあるならハッキリと仰ってください。私が二十六だと何が困るんですか?」
「ぷっ……」
「王様?」
「いや、申し訳ない。だが、セドリック卿が考えていることは大体理解しているつもりだ」
「???」
「陛下、申し訳ありません。お叱りならば後で如何様にも」
「気にするでない。それは多くの者が感じたことであろう」
「は!」
「ちょっと王様、肝心の私には何がなんだかサッパリなんですが?」
「ああ、そうであったな。要はだな……」
一人にお貴族様が先輩の歳を確認すると直ぐに信じられないモノを見たような顔になり口籠もった為に先輩は「だから何?」と問い詰める様にセドリック卿の顔を見詰めれば噴き出すのを我慢出来なかった王が横から入り先輩に言い含めるように聞かせる。
「原因はウララ嬢の見た目だ」
「へ? そりゃぁ自分でも綺麗だと断言は出来ませんが……それなりに見られるようにはしているつもりです!」
「あ、いや、失礼。何もウララ嬢の容姿について言っている訳ではない」
「……容姿でなければなんなんですか!」
「だから、もう少し落ち着いてもらえないか。ヒロ殿も側にいるのに……ま、話を元に戻すとだな。年の割に若く見えるということだ」
「やっぱり、ケンカ売ってますよね?」
「だから、落ち着いてくれ。何故、そうなる?」
「なら、年の割にとはなんですか!」
「あ……ま、まあまあ、それはちょっと横に置いてだな。セドリック卿としてはウララ嬢の見た目から十代最後くらいかと考え、それならば未だ独り身の子息の相手にどうかと考えてみたが、思ったよりも歳が上だった為に言葉を呑み込んだ……と、いうところだろう」
「は。全くその通りでございます」
「話は分かったけど……ちなみにですがご子息のお歳は?」
「わ、私の三男は……二十三になる」
「は?」
「な、なんだ! いくら客であろうと無礼であろう」
「無礼? 人を年増扱いしといて二十三歳ってどういうことよ!」
「だから、それは貴方の髪質や肌つやを見て、まだまだ若いと思ってしまった私の落ち度ではあるが、それこそまやかしの類ではないか! 陛下、この様な怪しい者を客として丁重に扱う必要があるのでしょうか」
「な……」
「うんうん、セドリック卿よ」
「は!」
「いい宣伝になったよ」
「はい?」
先輩は見た目が幼いと言えなくもないが、十代はないだろうと思ったが元々日本人は実年齢よりも幼く見えるのが定番ということも考えれば有り得なくはないのか。
そして、そんな風に先輩の見た目を若すぎると言ったお貴族様に対し王が「よくやってくれた」と称えるが、言われた本人は訳が分からないといった表情だ。
「皆も今の話を聞いていて分かったであろう。そして、既にウララ嬢からの恩恵を受けた者達は既知のことだが……」
「「「……」」」
ここにはそれぞれの貴族家の当主のみが集まっているため、ご婦人の姿を見ることは出来ない。
だが、王の言葉を聞き逃すまいと、お貴族様達の耳が気持ち大きく見える。
多分だけど、宰相の奥様達がいい宣伝材料になったことで必ず情報を持ち帰って来るように言われているのだろう。
そんな風に王の言葉を待っているお貴族様達の前に先輩を一歩前に立たせると「彼女こそ美の女神として、この地に降り立った客様だ!」と煽ってみせれば「「「おぉ!!!」」」と野太い声が響く。
「え? 聞いてないんですけど……」
王から降臨した美の女神として紹介された先輩が助けを求める様に俺を見ているが、俺は腰の辺りで小さく手を振り口パクで『ファイト!』とだけ伝えると先輩は『オボエテロ!』と返してきた。
「え? なんでだろうね、セツ」
『セツにも分かる訳ないよぉ~』
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