第51話 今、ゆっくりと歩き出す
「そろそろ出番だな。では、準備しようか」
「はい。それはいいとして……」
「ん? 何か?」
「いえ、この格好のままでいいのかなって」
「そのことならば、何度も話し合ったではないか」
「ですが……なんというか……お貴族様と会うのに失礼じゃないのかなって」
「ふぅ~私も君の言うところのお貴族様なのだがな」
「あ、いえ。決してそういうつもりでは」
「ふふふ、別に怒っている訳ではないのだよ。単に揶揄っただけだ。それよりもだ」
「はい?」
「ヒロ殿、君はこんなゴテゴテした衣装を身に纏いたいのかい?」
「ん~ごめんなさい」
「うん、分かっているよ。仮にだ。仮に君が着たとしても……似合わないでしょ」
「ぐ……た、確かにそれもありますが……随分、ハッキリと言いますね」
「だってハッキリ言わないとまたグダグダと悩むよね」
「う!」
「ぷはは、ヒロ。あなたの負けよ。伯爵様の言う通りあなたがそんな衣装を身に纏っても幼稚園の出し物みたいでとっても不似合いよ」
「でも、ウララは着てみたかったんじゃないの? ああいうお姫様っぽいドレスは憧れとかじゃないの?」
「ん~そうね。ディズニープリンセスに憧れなかった訳じゃないけど……もう二十六歳だし……」
「ソレ言ったら、大阪のおばちゃんに負けないくらいにゴテゴテした女性もいましたけど……あの女性達は何歳なんでしょうね」
「うん、ヒロ殿。それくらいにしておこうか」
「ですがちょ「言いたいことは分かる。だが、言わない方がいいことも多々ある。そういうことだ」……はぁ」
「あれ、もしかして……あぁ~そういうことだったんだ。もうヒロったら」
俺が今着ているのは、ここに転移して来た時に着ていたスーツだ。
同じ様に先輩もピンク色っぽいタイトスカートにジャケットというビジネススーツを着ている。
だから謁見するのに「ホントにこんな格好でいいのだろうか」と伯爵に確認したのだけど、伯爵はスーツも日本では正装とみなされるのだから問題ないだろうと答える。
そして何より一番重要なのは俺にはああいった王子様っぽい衣装は似合わないということだった。
日本人特有の平たい顔に幼い顔付きであることも加え、どう頑張っても八頭身とは言えない体型であるためどうしてもチグハグになってしまう。
だから、伯爵が許す許さない以前に俺はスーツ一択だった。
だけど、先輩ならああいった煌びやかな衣装を着たいのではと思い、一応念の為と伯爵に確認していたのだけど俺もスーツなら私もだと先輩もスーツでの参加となった。
先輩のドレス姿も「ちょっと見たかったな」と呟いたのを先輩に聞かれたのか、さっきから先輩が機嫌良さそうにニヤつきながらやたらと俺の脇腹をツンツンと突いてくる。
「ヒロ、ドレスならいくらでも着てあげるわよ。ちなみにどういったのが好きなのかしら」
「ちょ、ちょっとウララ! 近いから!」
「もう、照れなくてもいいじゃない。なんなら、ドレスの下でもいいのよ」
「えっと、保留じゃ?」
「あ、そ、そうよ。まだヒロとのことは保留よ、保留。でも、そうね……ヒロがどうしても望むのなら考えなくもないわよ」
「あ、いいです」
「どうして!」
「いや、面倒な気がして」
「もう、そういうとこ!」
「コホン……で、いいのかな?」
「「あ、はい!」」
謁見の間の豪華な扉の前に立っていたことを忘れ、先輩と二人で巫山戯合っていたところを伯爵の空咳で我に返り姿勢を正す。
「では、行きましょう」
扉の前に立つ二人の衛士に伯爵が目配せをすると衛士が重そうな扉をゆっくりと開く。
「ふふふ、覚悟はいいかな。もう戻れないよ」
「はい。ただ早く終わってくれることを願うだけです」
「そうね、早く帰ってゆっくりしたい!」
『ジャミア伯爵、並びに客様達のご入場です!』
衛士が言い終わると同時に伯爵がゆっくりと歩み出す。
俺達二人も伯爵に遅れないようにと並んで歩き出す。
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