閑話 不幸の手紙
「クリス、ちょっといいかな?」
「陛下! いくら陛下と言えど女子の部屋にノックもなしに入ってくるのはどうかと思いますが!」
「そう固いこと言わないで。それに二人の時は陛下ってのもやめてくれよ」
「……ふぅ分かりました。お兄様、それでご用は?」
「今度、客に会う」
「まあ、やっと王都に来られたのですね」
「ああ、それで謁見の前にお忍びと言う訳でもないが、一足早く客をこの目で見ておこうと思ってな」
「そうですか。で、ご用は?」
「全くつれないな」
「今更です。何もご用がないなら「待て! お前も一緒に来るんだ」……はい?」
「だから、クリスよ。お前も一緒に来いと言っている」
「それは聞こえました。ですが私が……その客と会ってなんの益があるというのですか?」
「はぁ……」
王は部屋の隅に積まれている人型の何かを一瞥してから妹へと目を向ける。
「クリスよ。また人形をダメにしたのか……いい加「放って置いて下さい!」減……いや、それは無理だよ」
「どうしてですか! どうせ魔力量が少ない私なんて誰も娶ろうとはしないでしょう。ならば、私はこの城の中で人形を相手に一生を過ごすだけですから!」
「いや、そう宣言されてもだな……」
「では、どうしろと? お兄様に何か策があるとでも言うのですか?」
「策か……いや、なくもないか?」
「は?」
「まあいい。とにかくだ。お前も客達との会合には付き合って貰うからな」
「お兄様!」
「話はそれだけだ。邪魔したな」
「もう……どうせ私なんか……」
王は言うだけ言うと退室し、残されたクリスは「どうせ」と独り言ちてから側にある人形を引き寄せ日課となった練習をひたすら熟す。
「ん……ちゅ……むはぁ……んんん……ぢゅる……ぷはぁ……やはり反応が何もないのは虚しいですね。ですが、私にも伴侶となる人が現れればいつかこの努力も報われるハズです! その為には……練習あるのみです! んんん……」
そんなクリスの様子を部屋の扉の隙間からジッと見ていた王は「ハァ~」と嘆息し、そっと扉を閉める。
数日後、クリスは王と一緒に伯爵邸へと出向き部屋の外で待機していた。
そして暫くしてから部屋の中から『パンパン』と手を叩く音が聞こえたので「合図ですね」とクリスは扉を開けて室内へ。
「お呼びですか陛下」と王に声を掛ければ、そこに座っている男性と手を繋いで欲しいといわれ訝しむ。
クリスは「はい?」と王が何を言っているのか分からず聞き返してみても同じ内容が繰り返されるだけだった。
クリスは王から手を繋げと言われた男性を見るが、その顔は平たく凡庸であり自分の好みではないなと思いながら、どうやって断ろうかと考えていたらその男性は人目があるところでは問題があるのではと王に具申した。
「何? 断るのかと思えばあなたは私の手を握りたいのですか」と少し身構えたが、瞬く間に違う場所へと移動していた。
「ここは?」と王に場所を尋ねると王はジャミア領だと言ったので、クリスはその言葉の真偽を確かめるべく窓辺へと近付けば、先程までいた王都とは全く異なる庭先とその向こうにはこじんまりとした街並みが見えていた。
クリスは自分の目に映る光景と先程感じた浮遊感から、王と一緒にここまで転移してきたことを理解すると同時に「凄いですヒロ様!」とヒロに抱き着いていた。
「コホン……」
「は! ちょ、ちょっと離れましょうか」
「あ……すみません、つい……」
王からヒロと離れるようにと注意され、改めてヒロと手を繋ぐようにお願いされ、クリスはヒロの両手を握り込む。
「ふん!」とヒロが言うと同時にクリスの手を通じて何かが身体の中に入り込んでくる感覚を覚える。
「な、なにこれ……」
自分の身体の中を何かが蹂躙するような感覚と共に今まで塞がっていた通路が無理矢理こじ開けられる様な感覚がやがて快楽に感じモジモジと身悶え始め、とうとう我慢出来なくなり「あぁ……もう、だめ……」と目の前のヒロにそれをぶつけてしまう。
気付けばクリスは本や侍女達から仕入れた知識と、それを元に練習した成果をヒロ相手に実践していた。
「(この感覚、触覚、高揚感……とても人形相手には得られませんわ! )」とクリスは今までの鬱憤を晴らすかのようにヒロの口の中を蹂躙し尽くす。
やがて王がこれ以上の妹の痴態は見ていられないとばかりにクリスをヒロから引き剥がす。
本音を言えばもう少し楽しみたかったが、王には逆らえないとクリスも大人しくしている。
だが、その後の自分の中の魔力量の変化に気付かされ驚くしかなかった。
そしてクリスは初めてを捧げたヒロの顔に熱を帯びた視線を向けると同時に王が言っていた策はこれのことかと思う。
もし、そうであればこの機会を逃せば私はず~っと独り身だろうと考えたクリスはヒロの腕をしっかりと握って離さない。
その内、二人の婚約へと話は進むがヒロはどうも消極的過ぎると感じたクリスは王が言った「これはチャンスなんだよ」と言う言葉に引っ掛かりを覚える。
そしてクリスは自分の魔力量が増大したことで、それを理由に今まで袖にされていた男性達を思い出すと同時に「今ならまだ間に合う!」とヒロから腕を解き王城まで馬車を急がせ城に着くと同時に自室に向かい走り出す。
部屋に入ると机の上に紙を広げ、これまで好意を持った男性の名前を書き連ねると今度はその一人一人に手紙を認め封蝋をしてから机上の呼び鈴を鳴らす。
「お呼びですか?」
「これを出して下さい。出来れば早馬でお願いします」
「は、はい……」
呼び出された侍女は両手に抱えきれない程の封筒を抱え部屋を出る。
「ふふふ、これで後は返事が来るのを待つだけね。あ~楽しみだわ! さ、さっきの感触を忘れない内に練習しなきゃね」
クリスは人形を相手に日課となった練習を繰り返す。
この時のクリスはまだ知らない……クリスが出した手紙が『不幸の手紙』と呼ばれることになることを。
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