第47話 やっぱり無理!
「ちょっと、いいですか」
「ウララ嬢、何か?」
「はい。ヒロとクリス様が何かしたということですが、それを証明することは出来ますか?」
「……えっと、何を言いたいのかな?」
「そうですよ。現に私とヒロ様は熱い抱擁と口づけを交わしたのですから!」
「ですから、それを証明するモノはありますか……と、伺っています。どうなんですか?」
「「「……」」」
先輩の質問に王もクリスも黙ってしまう。なんせ、俺が襲われたのは領都の伯爵邸の自室でのことだから、当然誰も目撃者などいない。
敢えて言うならば王であり兄でもある最高権力者が『見た』と言えば終わりなのだが、それはそれで多少の問題がある。
「私が見た……それでは不十分かな?」
「いいえ。問題はありません」
「ならば「だからこそ問題なのです」……ん?」
「今更言うことではありませんが、王様はこの国での最高権力者であらせられますよね」
「ああ、改めて言われるまでもなくそうだな。それが?」
「ですから、そういう立場の人であれば『例えクロでもシロと言えばシロになる』……そういう力をお持ちですよね」
「……なるほど、ウララ嬢の言いたいことはなんとなく分かった」
「お兄様?」
「クリス、私達の負け……と、言うか今は少し距離を置くべきだろう」
「どうしてですか!」
「いいかい。まずヒロ殿が君に手を出したと言う証拠がない」
「それはお兄様も目撃したではないですか」
「うん、そうだね。君がヒロ殿に迫るところは確かに見たよ」
「どちらからとか、そういう問題ではなく実際にキスしたことは事実です!」
「うん、でもね……」
先輩は誰も目撃者がいない密室で起きたことを理由に婚約を迫るのはちょっと無理がありすぎるでしょうと王家に対し一石を投じたのだが、それが思いも寄らぬ大きな波紋となって王が熟考することになる。
だが、当事者のクリスとしてはキスしたことは事実だからと退かないが、王はそれも問題の一つだと態度を改める。
「クリス、確かに私は君からヒロ殿に対し……出来れば身内のそういった行為は見たくなかったけど……熱い抱擁とキスしたのは確かに見たよ」
「ならば、何も問題はないではないですか」
「うん、そうだね。だから、それが問題なんだよ」
「??? 分かりません」
「いいかい。君も私も王族だ。それはいいよね」
「はい。今更ですね」
「だからね、婚約もしていないのに君がヒロ殿を襲ったと言う事実は非常にマズいものなんだ。そして証言するにしても私しかいないと言うのも問題なんだ」
「分かりません。それがどうして問題なんでしょうか?」
「さっきウララ嬢も言った通り、私は最高権力者だ。そしてクリス。君は言うまでもなく私の妹でもある」
「??? お兄様、さっきから当たり前のことばかりお話ししていますが?」
「そう、根幹はそこなんだよ」
「はい?」
「だからね、クリスとヒロ殿の婚約を強引に進めることはいくらでも出来る。でもね、それをしてしまうと王家だからという枕詞が乱用される結果に繋がることでもあるんだよ」
「え?」
「まだ、理解してもらえないみたいだね。まず、クリスは婚約前にヒロ殿に無理に迫った結果として、成婚へと持ち込もうとしている……少なくとも世間はそう考えるだろうね」
「どうしてですか! 私はそんなこと一ミリたりとも考えてはいません!」
「うん、そうだろうね。でもね、世間はそうは考えない。酷なことだけど世間と言うのは幸福よりも醜聞を好むんだよ」
「醜聞……私とヒロ様は純愛です! 決して醜聞なんかではありません!」
「そう思い込みたいのは分かるけど……ヒロ殿が言った様に純愛と呼ぶには期間が短すぎるんじゃないかな」
「……」
「それに私達は王家に連なる者だ。先程ウララ嬢も言った様にクロをシロに変えることも出来る。この意味は分かるよね?」
「……はい」
「そういう訳でヒロ殿との婚約は見送ろうと思う」
「「「……!」」」
「お兄様!」と何か言いたげなクリスに向かい王はそれを右腕で制し「今は無理だ」とだけ答える。
「ですが」とクリスが言葉を続けようとするが王はそれをニヤリと笑い「これはチャンスなんだよ」と笑いかける。
「チャンス?」
「ああ、そうだ。考えてもみなよ。クリスは魔力量が少な過ぎるからと皆から敬遠されていたよね」
「……そうです」
「なら、今はどうだい?」
「今……は!」
「そう「ヒロ様、すみませんでした!」……え?」
王がクリスに対し魔力量が少なかった昔と違い今は人並み以上の魔力量を有するようになったことに気付いたのかクリスはさっきまで俺と婚約するしかないと考えていた様だが、急に何かを思い出したかの様に俺にごめんなさいと謝意を示すと同時に踵を返し部屋から出て行く。
余りにも突然のことに何がどうしたのか分からずに途方に暮れていると先輩が俺の脇腹を軽く突き「彼女にも思い人がいたってこと」と言われてあぁ~と納得してしまう。
ま、そりゃそうだよな。二十年も生きてて好きな人が一人もいない方が可笑しいってもんだ。でも、どうしてだろう。せめて一揉みと考えてしまう自分がいる。
『ぴ?』
「ゴメン、セツ。ちょっと揉んでいいかな?」
『それで主の気が済むならぁ~』
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