第11話 初めての朝
『…………!!!』
「なんか、うるさいなぁ~もう少し寝てたいのに……ふぁ~あ……ん?」
いつの間にか寝ていたようだけど、家の中が薄らと明るくなっていたことから、どうやら朝を迎えたようだ。
だが、さっきから誰かが叫んでいる様な気がするなと玄関の方を見れば、玄関はフルオープンされ、その向こうでは村長や奥さんにゴサックまでが俺の方を指さしながら何かを叫んでいた。
「ん? 村長達が何か騒いでいるみたいだけど、はぁ……まあ、先ずは起きなきゃダメか……よいしょっと。ありがとなセツ」
『ピ!』
『…………!!!』
「ん? まだなんか騒いでいるけど、ホントどうしたんだろ?」
俺は俺の体を包んでいたセツの中から、這い出ると「ん~」と軽く伸びをしてから、玄関に近付き村長達に「おはようございます」と挨拶をするが、玄関の向こう側にいる村長達は相も変わらず俺と家の中をあちこちと指さしながら、何かを言っているようだ。だけど、俺の耳には何も入ってこないので、不思議に思っていたが「あ、そうだった!」と防音防虫目的で障壁を家の中に展開していたのを思い出し、ソレを解除すると村長達が一斉に傾れ込んできた。
「お、お前……大丈夫なのか?」
「ねえ、さっき食べられていたわよね?」
「なんで溶けてないんだ?」
「え? なんの話?」
「なんのってお前……あぁ!」
「え?」
「危ねぇ、早く離れるんだ!」
「え?」
「ほら、早くこっちに来なさい!」
「え? ちょ……ちょっと待ってよ! こんな朝早くにいきなり何?」
「何って……」
「襲ってこないな……」
「あら、よく見ると可愛らしいかも?」
『ピ?』
村長とゴサックはセツに対し身構えていたが、セツが何もしてこないので拍子抜けしたようだ。
「で、なんなの? 人が気持ちよく惰眠を貪っていたところなのにさ」
「いや、だってさっきまでお前は……」
「そうだぞ。さっきお前は食べられていただろうが!」
「そうよ、それにお邪魔しようとしても入れなかったし」
「へ?」
『ピ?』
村長達の話を聞いてもイマイチよく分からなかったが、寝惚けた頭も漸く動き出したところで、さっきまでの自分の寝姿を客観的に理解して「あ~そういうことか」と納得する。
「ふむ、ワシ達が心配していたことは勘違いだったと……」
「うん、ごめんなさい」
「ま、お前が食われていないなら一安心だよ」
「そうね。これでこの村が責められることも無い訳だし。ね?」
「……えっと、俺の心配じゃなく客である俺がスライムに食われてしまったんじゃないかと思って心配したんじゃなくて……俺がいなくなることの方が問題だったと……そういうことなんだね」
「ヒロ、人聞きの悪いこと言うなよ。ワシらはただ単にお前が襲われていると心配していたんじゃ。それはウソじゃないぞ。なあ?」
「そ、そうだぜ。もう領主に連絡を向けた後だから客がスライムに食べられていませんってなったらとか考えていた訳じゃないんだからな!」
「そ、そうよ。もう領主様からのご褒美とか考えていたから、ガッカリしちゃったとか、この後どうなるんだろうとか、色々考えてしまったけど……無事ならオールオッケ―よね?」
「ま、いいけど」
『ピ?』
昨夜は寝ようとして、ベッドに上がったまではいいが寝心地がよくなかった。それに少し肌寒くスーツの上着を着てもまだ身震いしていた時にセツが大きくなり俺を包み込むと柔らかい物に包まれた感触が心地よく直ぐに夢の中へと旅立ってしまったことを思い出す。
そして、さっき村長が言ったことを頭の中で反芻する。村長は「領主に使いを出した」と言っていた。と、なるともうこの村に客が来ているのは遅かれ早かれ領主の耳に入るということだ。そうなれば俺がここから逃げ出せば、村長達が責任を取らされることになるため必死になるのも分かる。
「詰んだ……ま、いいけど。それでお迎えはいつ頃になりそうなのかな?」
「早馬で行ったからの。馬車よりは速いが、領主からのお迎えは馬車を寄越すじゃろうから一週間ほどかの」
「じゃあ、その間は自由にしていいの?」
「ふむ、逃げないと約束してくれるのであれば「しないよ」……信じてもよいのかの」
村長の言葉に俺が黙って頷けば、黙って様子を見ていたゴサックと奥さんもホッと胸を撫で下ろす。
それはそうとして、村長とゴサックは朝だというのにどこかお疲れの様子なのに、相反するように奥さんは艶々としていて肌の張りも申し分ない。
そんな対照的な様子を見て俺は村長に「昨夜はお楽しみのようで」と耳元でボソッと呟けば「ヒロの御陰じゃよ。感謝しとる」と告げられた。
「あ~そうですか。それはそれはよいことで」
「そう、拗ねるな。大体、亭主が見ている前でカミさんをどうにかしようとするのが、間違いじゃろが」
「だって、その亭主もよろしくやっていたじゃん!」
「「「あ……」」」
村長の有り難くも無いご忠告に対し俺がそう返せば、昨日のことを鮮明に思い出したのか村長は顔色が悪くなり、奥さんとゴサックはポッと頬を染める。
「ま、それはそれとしてじゃ。ソイツは?」
「そいつ? ああ、セツのことね」
『ピ!』
「セツって言うのね。よろしくね」
『ピィ!』
「えっと、ソイツはスライムでいいのか?」
『ピ!』
「ふふふ、ゴサックだけは嫌われたみたいだな」
「くっ……それよりもだ。ソイツは本当にスライムなのか?」
「それを俺に言われても困るんだけどね」
「ま、そうじゃな。昨日、こちらに来たばかりのヒロにこちらの世界のことを訪ねるのもおかしな話じゃて」
「でもよ、村長。ここいらのスライムと言えば、こんな丸っこくないだろ」
「そうじゃな。ふむ……ま、それをヒロに聞いても分からないじゃろ。ましてや当のスライムであるセツに聞くことも無理じゃろ」
「とりあえず聞いてみれば?」
「「へ?」」
セツは本当にスライムなのかと村長とゴサックが俺に聞いてくるが、正直な話俺に聞かれても困るとしか言えない。実際にはセツは俺に従属し『エレメンタル・スライム』と種族名が記されていたからスライムなのは確かだが、なんとなく面倒ごとになりそうだから種族名を正直に公表する気はない。
だが、奥さんのセツに聞いてみればいいじゃないの提案に村長達も間抜けな返事を返すが、当のスライムであるセツは触手を伸ばして二人に振って見せる。
「……じゃあ、聞くがお前はスライムなのかの?」
『ピ!』
村長の問い掛けにセツは少しだけ伸ばした体を前方に倒しお辞儀に似た仕草をして見せる。
「こりゃ、驚いた! ワシの言葉が分かるようじゃ。で、これはどういうことなのか説明してもらえるんじゃろうな?」
「え?」
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