第45話 流されてみる?
「さっきも話したが、貴族にとって魔力量の多寡は問題なんだ。なんせ、平民よりも優位に立てるのは魔力量があってこそなんだから」
「でも、行政には関係ないんじゃ?」
「うん、そうだね。ヒロ殿の言う通り政を行う上では問題ないよ」
「なら「だけどね」……え?」
「平民を統治するのに政は確かに重大だけど、それだけじゃ不完全なんだ」
「それはどうして?」
「君は何故、城壁があんなに高く頑丈に出来ているかは分かるだろ」
「ええ、外敵を防ぐ為ですよね」
「そうだ。なら、その外敵を討つのは誰の役目だと思う?」
「あ……」
「そう、そういうことなんだよ。我々貴族は民から税と言う名で金銭を得る代わりに民を守る責を負う。その為には魔力が必要になるんだ。ここまでは分かってくれたかな」
「はい……」
「だからね、魔力量が少ないクリスは性格は横に置いといてもこれだけの容姿に関わらず誰もが伸ばした手を引っ込めてしまうのさ。それだけ、我々貴族に取っては魔力量の多寡は重要なんだよ」
「はぁ」
「だが、それを君がやらかしてしまったことで「もういいじゃないですか」……クリス、そうだけどそう単純にもいかないよ」
「どうしてですか?」
王からの説明でクリスが魔力量が乏しいというだけで今まで冷遇されていたのだろうと思ったが、すぐにそれは違うなと振り切った。
何故ならば、冷遇されているならば今この場にはいなかっただろうし、容姿もズタボロになっているに違いないと思ったからだ。
だが、今のクリスはどう見ても血色はいいし、肌つやも問題ない。それに唇もカサつくどころかぷるんぷるんだし胸の張りも十分だ。
多分、王もそんなクリスを不憫に思い溺愛しているのだろうと想像がつく。
でも、そうなるともう一つの疑問がニョキニョキと浮き上がってくる。
そんな思案顔の俺に王が「まだ、何か気がかりでも?」と声を掛けて来たので「実は」と耳打ちすれば王は「あぁ~それね」とニヤリと笑って俺に耳打ちして来た。
「さっき言いかけていたことだけど、思春期を迎えどうにも悶々とした日々を迎えていたクリスは毎晩、等身大の人形を相手に見立てて……後は分かるだろ?」
「……俺はそんなことを知っている王様が不思議です」
「それは妹を思う兄としての優しさだと思ってくれ」
「ん~ちょっとどころか随分違うと思います」
「ぐ……まあいい。それで君は練習相手の人形がどうなったか知りたくはないかい?」
「……我慢します」
「くくく、我慢しますか。いいね、本音は知りたいけど、知ってしまうのも怖いという気持ちが鬩ぎ合っているね。うん、さすがは我が義弟だ」
「「「え?」」」
王との内緒話が終わり際に王が俺を義弟と呼んだことで、それを聞いた周りの人達が慌て出す。
「陛下、なんと言いました?」
「ヒロ、なんで?」
「幸せになりましょうね。うふっ!」
伯爵は王の真意が分からず聞き直し、先輩は俺を睨み付け、クリスは俺の腕をギュッと握りしめる。
「ちょ、ちょっと待って下さい! なんで俺を義弟と呼ぶんですか?」
「なんでって……それこそ、なんでだよ」
「はい?」
「君の腕に憑いているのはなんだい?」
「あ……で、でもさっき会ったばかりですよ」
「でも、キスしたよね?」
「え……いやいやいや、アレはノーカウントでしょ」
「なんで?」
「なんでって、そういう風になるって説明した上で、王様は俺に確認させたんでしょ。なら、無効です!」
「ふぅ~ん、そう……君はそういうことを言うんだね。君は私の……王の妹であるクリスの気持ちを弄んだと……」
「弄んだって……それはちょっと……」
「違うんなら、君の腕に憑いているのにちゃんと説明して分かって貰えばいいじゃないか。もし、納得してくれたのなら私からは何も言わないよ」
「ヒロ様……私のことはお嫌いなんですか? グスッ……」
「え、ちょ、ちょっと待とうか。王様、これは卑怯じゃないですか?」
「卑怯? だって君は手を繋いだ相手の気持ちが高揚することは知っていたんだよね? なのに君からはそれを避けることもしなかったよね。違うかな?」
「ぐぬぬ……」
王の言う通りだ。俺は確かにこんな綺麗な人の気分が高揚して、もしかしたらと期待する思う気持ちがなかったとは言えない。
でも、相手がまさか王族だと誰が予測出来るか!
「理解してもらえて嬉しいよ」
「ヒロ様、挙式はいつ頃がいいですか。私はいつでもOKですから」
「ちょ、ちょっと待って下さい! クリス様」
「クリスです」
「クリス様?」
「クリスです!」
「クリスさん?」
「……」
「クリス?」
「はい! なんでしょうかヒロ様!」
「え~っと、クリスさ「クリスです」……あ~コホン。クリスとは今日というか、ついさっき俺と会ったばかりだよ」
「はい、そうです! いくら運命とは言え長くありました」
「運命って言っちゃったよ。でね、そんな風に急に会った俺とそんなに気軽に結婚するって言われて君はそれでいいの?」
「はい! もう私にはヒロ様以外に考えられません! それにヒロ様は私の……初めての人ですから! きゃっ言っちゃった!」
「いや、初めてってたかが「まだ、たがかと言いますか」……ごめんなさい。いや、でもキスだけで人生を決めちゃっていいのかなって思わなくもないんだけど」
「ふぅ~ヒロ様はホントに分かっていないのですね」
「ごめんなさい……」
「うふふ、別に謝ってもらうほどのことじゃありません。ですが、先程も言いましたが私は王族に身を連ねる者です。なので、私達にとってはたかがキスではありません」
「はい……でも「ヒロ様」……はい?」
「私はこれまで魔力量の少なさからいつ王族から排斥されてもおかしくない立場でした。そしてそんな私を不憫に思った兄が手助けしてくれなければ、私はどうなっていたか分かりません」
「あぁ……うん」
「そしてそんな私を本当の意味で救ってくださったのがヒロ様です! 本当に感謝しています!」
「私からも改めてお礼を言わせてもらおう。本当にありがとう」
「……」
王族である二人から感謝の意を示されるが、それならば自由にして欲しいと思うのは俺のワガママなんだろうか。
「セツ、どうしよう……」
『流されるのも人生だと思うよぉ~』
「「「え? 喋った!!!」」」
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