第41話 突然の抱擁
「お呼びですか陛下」
「ああ、少し頼みたいことがある」
「はい、なんなりとお申し付け下さい」
「では、そこにいるヒロ殿と手を繋いでくれ。出来れば、両手でお願いする」
「はい……え?」
王に呼ばれ部屋に入って来た女性は、少しタイトで控え目な装飾のドレスを纏い髪はお団子にしていた。
そして王に何用かと尋ねると俺と両手を繋いでくれと言われ、キョトンとした顔になる。
細面の狐目の綺麗な女性が口を開けたままキョトンとしているのはそうそう見られるものではないだろうなと感心しつつ、女性が再起動するまで黙って見ていた。
「は! し、失礼しました。陛下、申し訳ありませんがもう一度お聞きしてもよろしいでしょうか。私には、その者と両手を繋げと聞こえましたが……」
「そう、間違ってないよ。じゃ、よろしくね」
「陛下?」
「あの、すみません……」
「ん?」
女性は俺と王の間を何度も視線を往復させながら「マジか!!!」と訴えている様な気がしたので不敬にならないように注意しながら王に声を掛ける。
「なんだいヒロ殿」
「えっと、申し訳ありませんが急に俺と手を繋げと言われても『はい、そうですか。では繋ぎましょう』とはならないと思います。もう少し説明が必要なのでは……と、思います。はい」
「それもそうだね。クリスはさっきまで部屋の外にいたわけだしね」
「はい、それもありますが……」
「なんだい? この際だ。なんでも言って」
「え~と、では申し上げます」
「うん、聞こう」
「……非常に言い難いのですが、もしかしたらもしかするので……出来れば人払いをされた方がよろしいかと思います」
「あ~そうか、それもそうだね、では、私は検分する目的があるから外せないし、ヒロ殿は本人だから当然だよね。じゃ、残りの人は悪いけど……出て行ってもらえるかな」
「陛下、私の屋敷なんですが……」
「うん、そうだね。でもクリスのそういうところが見られてしまうとちょっと都合が悪いでしょ。それとも君の奥さんにしてくれると言うなら構わないけど?」
「そ、それは……」
「君の恐妻家は有名だからね。それは無理でしょ。だから、悪いけどお願いね」
「……はい」
伯爵は「私の屋敷なのに」と呟きながらも奥さんを増やすことが許される訳でもない為、王に言われるがまま部屋から出るしかなかったのだが、部屋にはまだ数人が残っていたので王も「どうした?」と声を掛ける。
「私は宰相という立場上、退くわけにはいきません!」
「ヒロが心配なんです!」
「私はヒロ様の護衛ですから!」
「いいから、出なさい!」
「ですが……何かあったらどうするんですか!」
「ヒロにまた余計な虫が……」
「だってヒロ様ですから」
「あ~もう、クリスこっちに来なさい」
「はい?」
「ヒロ殿、そういう訳だから頼む」
「え?」
「だから……だよ」
「あ~分かりました」
「陛下?」
「ヒロ?」
「ヒロ様?」
王がまだ部屋の中に残っている数人を見渡しながら、「何をしている?」と部屋の扉を指差すが、宰相に先輩、オジーがそれぞれの立場で言い訳めいたことを言うが、王は嘆息するばかりだ。
すると王はニヤリと笑いクリスを手元に呼び寄せ、俺に耳打ちしてきた。
俺はその提案にしょうがないかと頷けば、宰相に先輩、オジーは俺が何かするつもりだと勘付いたようで慌てて側に寄ってこようとするが、その前に俺は「転移!!!」と口にしてジャミア領の御屋敷の自室へと転移して来た。
「ふむ、聞くと体験するのでは違うものだな」
「え? 何が起きたのですか? 陛下、ここは一体……なんだか、弟の部屋と同じ匂いがしますけど?」
「ごめんなさい……」
「え?」
王に言われ自室へと転移して来た俺と王とクリスの三人だった。
王は、初めて体験するであろう転移に感動しクリスは何が起きた分からずにオロオロとしている。
そして俺は部屋臭がちょっと男臭いと言われ軽く落ち込む。
「クリスよ。ここはジャミアの御屋敷だよ」
「え? それは「もちろん、さっきまでいた王都の御屋敷ではないよ」……はい?」
「だからね、ここは……うん、百聞は一見にしかずと言うし、そこの窓から外を確認した方が早いね」
「え?」
「いいから、見てごらん」
「……はい」
クリスはまだ自分がどこにいるのかがよく分かっていないようで王に説明されても納得出来ないでいるが、窓から外を確認しなさいと言われ不請不請ながら窓辺に近付き外を見れば「ウソ!!!」と思わず声が出る。
「ふふん、どうだい。これがヒロ殿の転移だよ!」
「え? なら、ホントにここは……」
「そう、王都の御屋敷ではなくジ「凄い!」ャミア領だよ。って、聞いてないね」
「凄いですヒロ様!」
「へ?」
まるで自分の手柄の様に王がクリスに説明しているが、クリスが窓の外を確認し王都とは違った街並みを確認したことで漸く王が言っていることが嘘やまやかしではなく真実を述べているのだと納得すると同時に感嘆の言葉を述べながら俺の手をギュッと握りしめると同時に抱き着いてきた。
「あ……いい匂い……スゥ~ハァ~」
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