第37話 渡せません
「陛下には先触れを出した。早ければ三日もすれば登城するようにと連絡があるだろう」
「三日もですか」
「ああ、そうだ。だが、それでも早い方だと思うぞ。長い時は一週間ほど待たされる場合もあるからな」
「……」
「ん? どうした?」
「いや……暇なんですかね」
「ん? どうして、そうなる?」
「いや、だって会うだけなら五分、十分もあれば事足りるでしょ。なのに早くて三日って……余程の暇人かと」
「まあ、そう言うな。国王も暇ではないし、我々と会うとなれば色々と警護の問題もあるだろうし、そもそも何をしに来たのかも確認し裏取りしてウソがないことも確認する必要があるだろうからな。そんなこんなで時間が掛かるのもしょうがないと言うことだ」
「ハァ~そう言うものなんですね」
「そういうものだ」
「でも、三日も空いちゃうのはなぁ~」
「その間はオジーに王都を案内してもらうといい」
「それいい! ね、ヒロそうしましょうよ」
「え? 俺と一緒に?」
「イヤなの?」
「イヤと言うか……距離を置くんじゃなかったんですか?」
「……いいの! それとも何、私一人を仲間外れにするの?」
「いや、別にそういう訳じゃ……」
「なら、いいじゃない。はい、決まりね」
「はぁ、分かりました」
「話は纏まったのかな?」
「ん~「はい!」……えっと、はい。そうみたいです」
「ならば、きょ「旦那様、失礼します」……ん?」
伯爵の前に俺と先輩が並んで座り、その後ろにオジーが立っている状態で伯爵が王との面会……この場合は謁見かな? についての大体の予定を話し三日ほどは暇であることが決まり、なんとなく先輩と一緒に王都巡りをすることが決まったところで、伯爵に家令の人が「宰相様がおいでになりました」と伝えて来た。
「宰相様が?」
「はい。ヒロ様達の謁見について先触れを出したことを耳にしたらしく『どうしても会わせて欲しい』と訴えておられます。いかがいたしましょうか」
「ふむ。無下に返すわけにも行かないが、先触れもナシとは余程慌てていると思われるな」
「えっと……忙しいようなので俺達はこれで「すまないが」……え?」
宰相が伯爵に会いに来たと言うことで、俺達の用事は終わったよねと退席しようとしたら、伯爵から「話の内容から宰相様はヒロ殿達に用があると思われる」と言われてしまい「はい?」と間抜けな声が出る。
「ま、会えば分かるだろう。お通ししてくれ」
「はい。では」
伯爵が家令にそう伝えて、部屋を出ようと扉を開けたところで「失礼する」と焦った様子の宰相が部屋の中へと入って来た。
「さ、宰相様……お久しぶりです」
「うむ、ジャミア殿。急に押しかけてしまい申し訳ない」
「いえ、それは別に構わないのですが……何をそれほど焦っているのでしょうか」
「それは……」
宰相は伯爵に急な来訪を詫び、何用かと問われると俺の方をジロリと見ると「頼む! この通りだ!」と頭を下げる。
「え?」
「さ、宰相様?」
宰相の態度に俺だけでなく伯爵も慌ててしまい、宰相になんとか顔を上げてもらい話を聞きますからと宰相をソファに座らせお茶を頼む。
「取り乱してしまい申し訳ない」
「あ、いえ。ですから、顔を上げて下さい。よろしければ、それほど焦っている理由をお伺いしても?」
「そうだな。その理由なら、そこの客がよく知っているだろ」
「え?」
「惚けなくてもいい。私は以前、確かに貴殿に対し失礼な態度を取ってしまったことは確かだ。だが、だからと言ってアレはあんまりだろう……」
「えぇ~」
まあ、宰相が焦って伯爵の御屋敷に来た理由と言うのも薄々分かってはいました。分かってはいたけど、今は渡すことは出来ないと伝えると宰相の顔が『ガァ~ン!』と吹き出しが出て来そうなくらいにしょんぼりとしてしまう。
「では、そういうことなので「待て!」……え?」
「せめて理由だけでも教えてはもらえないだろうか。私は貴殿達がいずれは王都に来るだろうということだけを信じて指折り数えて待っていたのだ。それなのに『今はダメだから』とだけ言われて『はい、そうですか』と素直に引き下がることは出来ない。頼む、せめて理由だけでも教えてはくれ」
「ん~そういうことなら教えますけど、怒らないで下さいね」
「……」
「宰相様?」
「分かった。出来るだけ……怒らないと約束しよう」
「出来るだけと言うのも気になりますが、まあいいです。実はですね……」
宰相に対し何故今渡すことが出来ないのかを説明すると「……そんな」と宰相はそのままソファからずり落ちる。
「そういう訳なので、陛下に献上するまではお渡しすることは出来ません」
「そこをなんとか「無理です」……ホントに?」
「はい」
「……ちょっとだけなら」
「ダメです」
「どうしても?」
「どうしてもです」
「……」
「宰相様、例え宰相様が黙っていても奥様達は黙っているでしょうか?」
「あ~無理だな」
「そういことです。分かって頂けますね」
「うむ。そういうことなら私も言い訳出来るというもの。いや、無理言って済まなかったな」
「いえ。俺もそこまでの騒ぎになるとは思っていなかったので、すみませんでした!」
「いや、私が貴殿達に失礼な物言いをしたのも悪いんだ。いや、本当にすまなかった」
「いえいえ、俺も……」
「いや、私が……」
俺と宰相が謝罪合戦をしている横で先輩もオジーも呆れた様子で見ていた。
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