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ヨロシク‼ 狂戦士の早乙女くん  作者: ジョセフ武園
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愛生歩の章~破その2

 廊下を閃光の如く駆け抜けながら※廊下は走ってはいけません

 ある程度ではやはりなんなのでアタシは、ざっくりと現在の状況を整理する。


 桜井さんを襲ったのは所謂不良の男子生徒らしい。そして彼らは桜井さんに暴力をはたらき用務員室から仔犬を連れて行った。理由は解らないが――多分良からぬ事を考えたに違いない。

 そして事の顛末の後、早乙女くんが用務員室に仔犬を受け取りに行き――仔犬の救出に向かった。

 ……と、通常の人なら考えるだろう。

 だが、アタシほどの武道の達人ならばもう一つの可能性にも必然――行きつく。


 そう、この事件。その全ての黒幕があの狂戦士の仕業であるという可能性だ。不良達に金でも握らせれば自作自演で仔犬をあたかも救う正義のヒーローとして自分を全校生徒に認識させる……これなら恐怖でなく計略で支配も可能……⁉ なんて卑怯な……!


 アタシがそんな怒りの炎を心に纏わせ丁度校舎を一周駆け抜けた頃。


 ようやっと気付く。


 ――あれ? 校内に居なくない? てか、居る訳なくない?

 そりゃそうだ。仔犬なんぞ持ち運んでいたら、校内では明らかに目立つし騒動の現場から離れるだろう。

 アタシは校門を抜けるとスーパーリンペイの突きよろしく左右を音高く見る。

 学校の近くで不良達が目立たずに活動できる場と言えば……

 左手の公園か――右手の河川敷の土手の二択だろう。

 ――どっちだ?

 アタシは再度、10年以上の武道経験の勘に頼る事にした。

 ――公園だ!

 迷いはない‼ アタシは左方向へと素早く転換し、跳ぶ様に駆けた。



 とりあえず、30分ほどロスしたが河川敷の土手で遂に彼等を発見した。

「がはっ、はひゅーはひゅー、み、見つけ……」

 とてもじゃないけど、流石の私も30分間短距離走の様に全力疾走するのは堪える。見た所早乙女くんはまだ到着していないらしい。

 ……いや、30分経過して現場に居ないとかもう別の所に行ってるだろ。

 やれやれと思いながらもとりあえずは息吹という特殊な呼吸法で荒れた呼吸を整えていた時。

「きゃいん! 」

 思わず、途中で吸気が止まる甲高い悲痛な鳴き声。


「おらおらー。こっちパスまわせー」


「おい、それ鬼富士さんへの貢物だから絶対殺すんじゃねぇーぞ」

 その声の先の光景を見て、アタシの髪の毛は逆立ちそして我を失いそうな程の怒りが込み上げた。

「止めなさい――‼ 」

 整わない息もそのままに叫ぶとアタシはそいつらの方へ向かう。


「なんだぁ? 」

「ちっ、うちの制服じゃねぇか」


 ――5人。想定より少ないという事もないが、多すぎるという事も無い。


 よろよろと立ち上がる仔犬を一人の生徒が足で持ち上げるとアタシが向かう方向と逆の草むらへそのまま放り蹴った。


「おい、てめぇ糞アマ俺達に何か文句が……」

 ――途端、そう言った一番前方に居た背の低い男子生徒が息を呑んだのが解った。


 だって、もう眼と鼻の先にアタシが居たんだから。

 瞬発力は格闘技において重要な要因というのはもう誰もが知るところ。早く当てて相手を倒せれば、無傷で決着がつく。

 鼻先に掌底で目くらましを当てた後、思い切り股間を蹴り上げた。ズバンっと小気味いい音がその男子のズボンの布から発せられる。

「んぐぅぅーー‼ 」叫ぶそいつにそのまま足払いを仕掛けて倒すと続けて斜め左方向で仰天している肥満気味の男子生徒に近づく。

 奇襲が効いた。その肥満男子は何が起きたのか全く理解出来ず近付くアタシに反応すらしていない。

 鳩尾に前蹴りを入れた後、俯く鼻先に膝蹴り。

 ――これで2人。


 ここまで来るといよいよ向こうも自分達が襲われている。という事実を理解し行動する。

 見た目一番ヤバそうな長髪の男子が思いっきり振りかぶってアタシに殴りかかってきた。


 因みにだけど、素手で相手を僕る時に最も悪手なのがこの「振りかぶる」という行為だ。先程も説明したが攻撃と言うのは基本防がれてはいけない。相手に攻撃される前にこちらの攻撃で相手を戦闘不能にする。それこそが攻撃の理想であり基本。


 一見破壊力が増しそうなこの「振りかぶる」行為はその攻撃の速度を殺すと同時に相手に「今からこっちの手で殴るよ」と教えてあげている様なもの。

 アタシは身体を屈めてその大振りパンチを避けると、横腹を思いっきり蹴飛ばしてやった。人体の右横腹には肝臓があり、そこに強い衝撃を与えると人はのたうち回る様に倒れる。強面だろうと彼も例外ではなかったようだ。


 ――残り2人。

 視ると、後ろの大人しそうな男子は完全に戦意を喪失して今にも逃げ出しそうだ。

 この手前の坊主男子をのしてしまえばもう場の制圧は容易い事だろう。


「っざけんなぁ‼ 」

 ――油断をした訳ではないけど一瞬驚いた。

 その坊主男子の突きは間違いなく空手のそれだった。成程雰囲気から凄みは感じないから元経験者と言った所だと思うが他の奴らとは一段――格上だ。

 だけどその位置は――。

 もうアタシは5年は前に通り過ぎた場所。


 防御とは、攻撃を無効化する術ではない。受ける10の力を相手との技術力の差によって減算する反比例式の様なものだ。

 よく漫画とかでは突きをキャッチボールの様に受け止めているが、あれは最低の防御方法である。直線の攻撃を真正面から受けるだなんてそれは防御の意味ですらない。急所への直撃を防ぐ最終手段。これを行う程の相手なら勝負せずに逃走手段を模索する方が遥かに合理的だ。


 まっすぐこちらに向かう直線の力は、左右からの力にやや弱く。上下の力には明らかに弱い。この場合効率的に一番いいのはボクシングのパリングという技術になる。

 だが、ここで厄介なのが性別差による体重と腕力の差。まぁ、アタシの力なら特に問題はないけど通常の男女だった場合、非力な方が防御を失敗する可能性は高い。


 ――が。

 かくいうアタシはパリングで安全に迎え撃つつもりもない。

 そもそもアタシは怒っている。

 授業をサボり

 用務員室に忍び込み

 桜井さんに暴力をはたらき、アタシの目の前で仔犬をいじめるようなこいつらに。


 そういった一切の手加減はしない。


 防御の究極を、合気道の達人塩田剛三は円だと語り――やがて球の動きへと昇華させた。

 この理論はそれ以降の格闘技、武道に大きな変化を与える画期的な進化となる。


 坊主男子の放った顏への右直突きの動きに逆らわず左の頬で受けながら首、肩、そして軸足の踵で素早く右回転しそれをいなす。

 大きくバランスを崩した坊主男子は、アタシの目の前に御馳走の様なその後頭部を晒してくれている。遠心力を付けた回し蹴り。その超大技はこの条件下で初めて命中するといっていい。まともに当てれば多分殺傷してしまうので、狙いは背中にするが。


「ぎゃあ‼ 」坊主が顔を地面に打ち付けて悲鳴を挙げた。

 この一撃は戦意喪失ものだろう。皮肉だが彼の武道経験が仇となった筈だ。

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